ストリーミングサービスが敵ではないことに気づいた音楽業界
ユーザー数の真意の程は別にしても、多くの業界人にとって、海外ニュースで伝えられる「Spotifyの有料ユーザー数が8000万人を超えた」「Apple MusicがSpotifyを抜いた」といった景気の好い話との格差に愕然とせざるを得ない。そこにやって来たのが、YouTube Musicだ。「スマートフォンとYouTubeが日本の音楽市場をめちゃくちゃにした」(関係者)という被害者意識的呪縛から逃れられない物理メディア依存型業界人にとっては、呪詛すべき存在の本家本元が乗り込んできたわけだから、怨嗟の対象にもなろうかと想像するのだが、どうも様子が違う。
諸手を挙げて歓迎という雰囲気はないのだが、抵抗勢力がうごめく様子はなく、YouTube Musicの上陸を淡々と受け止めている印象だ。それには理由がある。日本におけるサブスク系サービスの本格開始から3年余、まだまだ発展途上とはいえ、この手のサービスにおける自社音源の販売状況や売上の推移が明確な数字となってわかるにつれ、「敵ではないのかもしれない。ちゃんと育めば利益を確保できる」ということに気づいたのではないか。
ここで、弱小インディとして、音楽制作業を営む筆者のレーベルの例を示そう。弊社のカタログ曲数は、わずか2000曲程度であるにもかかわらず、サブスク系サービスからの売上は、ダウンロード販売の落ち込みを補ってなお右肩上がりで、毎月、増加傾向にある。カタログ曲数が少ないので売上の絶対値は大したことはないのだが、右肩上がりを続けているという事実が大切なのだ。
アルバム数が徐々に増え楽曲のカタログ数が増加していることは確かなのだが、カタログ数の増加率に対し売上の上昇率の方が勝っているので、サブスク系サービスそのものによる売上上昇効果を感じている。従来であれば死蔵ストックであった音源がストリーミングされることで「チャリンチャリン」とお金を稼ぐストックビジネスの形ができ上がりつつあるのだろう。
筆者のような弱小インディレーベルでそれを感じるだけに、これが、数十万曲、数百万曲というカタログ数を誇る大手レーベルだったらどうだろうか。チャリンチャリン効果は、さらに大きなものになっていることは想像に容易い。つまり、多くの業界人が「サブスク系サービスの売上効果に気付かされた」といったところであろう。
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