株式会社ドワンゴが運営するライブ配信・動画メディアのプラットフォーム「niconico」のプレミアム会員数が2018年9月末時点で194万人となったことが、カドカワ株式会社が11月8日に発表した2019年3月期第2四半期決算説明資料で明らかになりました。
ピークだった2016年9月末の256万人から、1年後の2017年9月末には228万人、今回(2018年9月末時点)は194万人まで減少。これまでの2年間に62万人のプレミアム会員が離れています。
5月10日に発表された2018年3月期通期決算説明資料では、2019年3月までの間にプレミアム会員数の減少が底打ちされ、2019年3月末時点でのプレミアム会員数が201万人まで回復するという予想を示していました。ところが、今回、プレミアム会員数減少は底打ち(もしくは横ばい)とはならず、以前私が予想した“減少の底打ちは200万人台ではなく100万人台まで落ちてから”が現実のものとなりました。
2019年3月期第2四半期決算説明資料では「プレミアム会員はダウントレンドが続いている」と説明する一方で、
「ニコニコチャンネルの有料会員数は伸びている」
(=直近3ヵ月で76万人から84万人へ)
「(動画に続き)ニコニコ生放送も2018年9月25日より会員登録やログイン不要で視聴可能となり、利用者数は今後さらに増加」
(=直近3ヵ月でログインユニークユーザー+動画非ログイン視聴ユニークユーザーのMAU(Monthly Active Users)は1824万人から1942万人へ)
という期待材料も示されていますが、もし仮にプレミアム会員数減少がこの後に底打ちされたとしても、これまでの減少スピードを鑑みると、来年3月末までに201万人まで回復することは正直なところ難しい状況、と言えるのかもしれません。
収益減を止めるための最後の選択肢は会員単価を上げる……?
niconicoのプレミアム会員に限らず、こうしたサブスクリプションのサービスが減少のトレンドへ入ったとき一般的に取られる選択肢は主に(1)「コストの削減」(2)「退会を止める」(3)「会員単価を上げる」の3つです。
これをniconicoに当てはめてみると、(1)の「コスト削減」についてはniconicoをはじめとするWEBサービス事業において「前期(2018年3月期)のインフラ改善による費用削減効果で通信費が低減し、前四半期比で赤字幅が縮小」されてきています。
そして、「新サービスと新バージョンによる『画質・重さ 完全解決』」から「既存の基本機能改善による『画質・重さ 完全解決』」路線への舵を切り進められてきた(2)の「退会を止める」ための施策もこれまで数多くなされてきました。
また、最近では「既存の基本機能改善による『画質・重さ 完全解決』」という守りの施策から、「バーチャルキャストをはじめとするVR分野」の事業を展開していく新しい攻めの施策のフェーズへ入っていることはこの連載でも以前紹介をした通りです。
ただ、(1)と(2)の選択肢が実行されても、今のところプレミアム会員の減少スピードはやや緩やかになっているとはいえ、底打ちされて横ばいで推移をするまでにはもう少しの時間がかかりそうに見えます。
残された選択肢は(3)の「会員単価を上げる」。つまり、プレミアム会員の月額料金を500円(税別)から値上げすることで、プレミアム会員の数減らしつつも、収益額を増やすという手段を取ったところで、それはやむを得ないような気もするのです。
残された選択肢を選ぶなら更なるサービス拡充はより必須に
もちろん、その場合はこれまで以上にプレミアム会員としてのサービスの拡充は必須であることは言うまでもありません。
それを前提とした上で、もし、プレミアム会員の月額料金を値上げしたならば、再びプレミアム会員の会員数の減少スピードは再び加速するかもしれません。しかし、収益額としては大きく増収ができずとも、いまと同じ程度の額を維持できる可能性はあります。できることなら、値上げ幅を小さくして何回も値上げをするよりも、値上げ幅を少し大きくして一回のみの値上げで終わるようにしたほうが良いでしょう。
その上で、値上げをしたその分は、アニメなどを中心とする質の高いコンテンツを仕入れ、コアなファンに向けてニコニコ動画やニコニコ生放送で配信するために充てます。
結果的に「アニメや将棋などのコンテンツを見たいからプレミアム会員を継続している」ような(値上げをしても継続をしてくれる)niconicoの熱烈なユーザーを“確実に抱きかかえて大切にする”ほどの勢いで、「会員単価を上げる」という大きな決断となることは間違いないでしょう。
プレミアム会員の料金を変えることによって「会員単価を上げる」ことは、本当に本当の最後の手段。会員単価を上げるという選択肢はおそらく無いと思います。ですが、「プレミアム会員数減少による収益減」という部分だけを見たとき、このピンチを救うためにはどうしたら?を考えると、この(3)の「会員単価を上げる」という最後の選択肢が頭をよぎるのです。
会員数減に左右されない新しいモデルが確立するかに要注目
その残された選択肢を選ばないようにしたい状況だからこそ、いま、ドワンゴはこれまでプレミアム会員の会員数に完全依存をしないビジネスモデルのかたちへのシフトを模索しているところ、といえます。
それが、2019年3月期第2四半期決算説明資料にある「ギフト」や「カスタムキャスト」でのパーツ販売による都度課金収益のほか、 VR事業において、サブスクリプションモデルの収益を開始予定」という文言で表現されています。
おそらく、ここをこれまでのプレミアム会員数減少によって下がった収益分に変わる新しい収益源として大きく期待をしているはずです。ただ、VRに関連する事業はさまざまな企業でも注目がされて盛り上がっているところですが、プレミアム会員を失ったことによる収益分まで伸びる(補填する)ことができるビジネスモデルまで成長するかは現時点では不透明であるように感じます。
これまでniconicoはプレミアム会員という月額の継続課金モデルがサービスを運営していくための根幹としてきました。この仕組みに大きく依存していたことによって、プレミアム会員数が減少するたびにメディアでもたびたび話題となってきました。
しかし、これからはプレミアム会員数の減少は受け入れつつもビジネスモデルのひとつとして現状維持を当面の目標としていく一方で、niconicoが存続をし続けていくための新しいビジネスモデルのかたちを一本柱ではなく、複数の柱を作っていくことになるはずです。
niconicoのこれからは、プレミアム会員数の推移だけでなく、「ギフト」や「カスタムキャスト」でのパーツ販売による都度課金収益や、VR事業におけるサブスクリプションモデルの収益が成長していけるかも注目をしていく必要がありそうです。
ライブメディアクリエイター
ノダタケオ(Twitter:@noda)
ソーシャルメディアとライブ配信・動画メディアが専門のクリエイター。2010年よりスマホから業務機器(Tricasterなど)まで、さまざまな機材を活用したライブ配信とマルチカメラ収録現場をこなす。これらの経験に基づいた、ソーシャルメディアやライブ配信・動画メディアに関する執筆やコンサルティングなど、その活動は多岐にわたる。
nodatakeo.com
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