「ユーチューバーはアルゴリズムの奴隷」とは、北海道でこの10月に開催されたNo Maps 2018のスペシャルセッション『札幌からエンタメを編集せよ!』で登壇者が発言した内容だ。YouTubeで動画を収益化するには、再生回数、再生時間、チャンネル登録者数など一定の条件をクリアする必要がある。もともと自分の好きなことを発信したくて始めたはずが、いつの間にかチャンネルを維持するため再生回数や登録者数を上げることに囚われ、目的を見失ってしまうというのだ。
これはユーチューバーに限らず、ネットで活躍するクリエーターが必ずぶつかる壁ともいえる。上記セッションにも登壇した、中国で人気No.1ネットインフルエンサーの山下智博氏は、その壁を打破するための挑戦として、日本と中国の共同による新たなコンテンツ制作のモデルづくりを試みている。急速に進む中国のインターネット動画配信の現状、日本のコンテンツ業界の抱える課題、山下氏が9月に立ち上げた株式会社ぬるぬるの活動について、お話を伺った。
急速にレベルアップする中国のネット動画で生き残るために
山下氏は、2012年に上海に渡り、2013年から中国のインターネットで動画制作を開始し、2014年に自主制作した連続ドラマ「日本屌丝」で人気が爆発。2014年末から日本の情報番組「绅士大概一分钟」を毎日配信し、中国国内において人気No.1の外国人ネットタレントとして活動を続けている。山下氏が中国で動画制作を始めた理由は、「日本のことを中国の人に知ってもらいたいから。その気持ちは昔と変わらない」という。
しかし、中国のネット界は急速に発展しており、個人メディアとして日本の情報を伝え続けるには限界がある。たとえばビリビリ動画では、視聴者の好みとして毎日更新することより、作り込まれた映像を楽しむ傾向が強い。
ビリビリ動画にかかわるクリエイターの収益モデルは主に企業案件。YouTubeと異なり、動画再生前に広告が流れないシステムになっている。再生回数に応じた収入が見込めるわけではないため、毎日更新する人がいない。
そのため更新頻度よりも、コアなファンを獲得することのほうが重要となる。結果、中国インターネット動画全体のレベルが上がっており、娯楽的な要素のなかにも、学びや知的好奇心を満足させるクオリティーの高さで差別化しなければ生き残れない。
また、日本人プレーヤーの少なさも課題だ。「僕が動画を1本配信すると、100~200万回のインプレッションがある。大きな数字ではあるが、ユーチューバーがブームになったのは、それくらいの数字が出せる人が複数人いたから。中国人や欧米人のプレーヤーが増えるなか、日本の存在感が非常に弱くなってしまっている」と山下氏。
これらの課題を解決するために山下氏が打ち出したアイデアは、日本人の仲間を集め、日本のもつ高いクオリティの番組制作チームをつくることだ。
山下氏はチャンネルとノウハウを提供し、全体のプロデューサーとして参加する。月・火・水・木・金・土・日の番組をそれぞれ曜日別のチームで制作することで、既存のチャンネルを優良なコンテンツを発信するプラットフォームとして活用するのだ。音楽、ファッション、旅行などあらゆるジャンルの優良なコンテンツを大量生産できれば、日本文化の感染度が速まり、日本ブームが起こせる。チャンネルがさらに有名になり、番組をもっているチームから別の新しいチャンネルが派生し、大きなムーブメントが起こせるかもしれない。
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