アナログ的な雰囲気を保ちつつ、巧みな空間表現
会場となったヤマハ銀座店のスタジオでは定番のレコードを使ったデモも実施された。女性ボーカルとしてダイアナ・クラールの「Turn up The Quiet」から「No Moon At All」。オルガンや管楽器を交えた合唱曲の「CANTATE DOMINO」。そしてジャズの「Somethin' Else」だ。
システム全体を通して感じたのは、アナログ的な滑らかな雰囲気がある一方で、ピアノの転がる感じやハリのある金管楽器の輪郭感などがハッキリしていて明瞭な点だ。例えばピアノであればタッチの表現が的確で、高いキーの硬質な感じがよく伝わってくる。金管楽器の音色は晴れやかで、非常に抜けがいい。鮮烈で透明感があり、アナログレコードの再生だから……という懐古的な印象はまったく感じなかった。感覚としてはハイレゾ録音された現代の最高水準の音にガチに対峙している感じだ。たまにプツプツとノイズが入るからかろうじてレコードだと分かるのに過ぎない。
ボーカルに関しては、比較的ドライな感じだが、抜けがよく、リップノイズのようなディティールもきちんと拾っており、非常にリアルだ。ダイアナ・クラールの再生では、背後にあるベースの動きも明瞭で声やほかの音に埋もれない。
CANTATE DOMINOでは、パイプオルガンや管楽器の長い序奏に続く、女性ボーカルの澄んだ響きが印象的だ。空間の広さや長めの残響などから収録場所の雰囲気がよく伝わってくるが、さらに印象的だったのは、距離のある空間を経由しつつも、声そのものはストレートに飛んでくる点だ。ここは響きのいいホールで合唱を聞く(さらに言えば歌う)と分かるのだが、生では音は広がっても声自体がどこから飛んでくるかや距離がどのぐらい離れているかがしっかりと把握できる。直接音と間接音の描き分けが適切と言い換えてもいいかもしれないが、とてもリアルな表現だ。終盤、大音量になってもサチらないし、低域の量感は抑え目だが、金管と声の背後にあるオルガンの音もきちんと分離して聞こえる。
Somethin' Elseでは金管の音がハッキリと鮮烈に届く。やや高域がきつめに感じたり、ハイハットが鈴のようにざわついた音質に感じたのは録音状態やレコード再生であるせいかもしれないが、いずれにしてもここも驚くべき抜けの良さはハッとさせられる。ブラスがとにかく前に出てくる感じと、細かいリードの鳴り方の違いまで伝わってくる感じがすごい。
以上から感じたのは、5000シリーズからの音は、オーディオの再生を聴いているという感じではないということ。現実の場所で歌声や楽器の演奏を目の当たりしている感覚に近いのだ。リアルな音が飛んでくる感覚を発生源との距離感を含めて感じ取れるし、練習室などで管楽器やピアノの音を直接弾いたり、聞いたりしたときを思い出す、直接的であけすけな表現なのだ。分離がいいとか、きれいとかそういうのとはちょっと違った生の音を聴いている感覚がある。
特に印象的なのはピアノの音色感・タッチ感だが、声の飛んでくる感覚などもリアルに感じた。このあたりは自分で楽器を演奏したことのある人なら納得できると思うし、ライブなどの音響システムではなく、ホールで直接生の演奏や歌唱を目の当たりにした経験のある人でも、リアルさを実感できるのではないだろうか。
入口から出口まで統一するからできること
かつての規模には遠く及ばないが、アナログレコードの市場が少しずつ拡大している。改めてレコードプレーヤーの新製品をリリースするメーカーも増えてきた。
ワイヤレスヘッドホンなど一部を除けば、縮小傾向のオーディオ業界にあって、スペックやブランドだけで製品が選ばれる時代ではない。ヤマハとしても、次の1世紀に向け、音楽のメーカーとして継続的に生き残っていくための価値を探っている。発表会ではその回答として、楽器メーカーであり、総合的なオーディオメーカーだからこそ表現できる製品とは何かを音で感じ取ってほしいというメッセージも伝えられた。
ちなみに、デモ機材ではPC-Triple Cのケーブルで各機器をつなぎ、フルバランスでつないだ伝送となった。アナログプレーヤーの数は多く、バランス出力ができるフォノイコライザーなども存在するが、プレーヤーの端子を通じてカートリッジからバランス接続でそのまま出口のスピーカーまで接続できるものはほとんどないだろう。
こうした試みは、入口から出口までひとつのメーカーでそろえられるからこそできる面もある。プレーヤーやアンプなどに特化した製品開発をするメーカーが増えている中、1社ですべてをまかなえるヤマハの特徴が生きたものとも言えるだろう。
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