音楽的な低域の再現にこだわり
ヤマハは楽器メーカーでもあり、音の入り口から出口まで一貫してプロデュースできる「トータルHi-Fi」ブランドでもある。
かつては、ソース機からスピーカーまで一社で手掛けるオーディオメーカーが数多く存在したが、いまでは珍しい存在だ。商品企画担当の熊澤進氏は「楽器を手掛け、音が生まれる瞬間を知っているメーカーならではの価値を提供していきたい」と述べ、「ヤマハのHi-Fi機器は“音楽ファンのための音楽再生機器”という統一したコンセプトのもと、総合楽器メーカーとして音楽性表現を追究し、豊かな音楽体験や深い感動を提供することを目指している」と説明した。
サウンド・コンセプトとしては、フラッグシップに限らず、Hi-Fi商品全体で以下の3点を意識している。
まずは、ピアノやギターの開発者との対話も通じて実現した、小さな音でも遠くまで届く、抜けのいい“音の開放感”だ。次に“音楽のエモーショナルさ”。スモールマウス(声の音像が広がりすぎない)やお腹から声が出ている感じが伝わるボディー感の再現などがこれに当たる。最後が休符の表現にもこだわった“演奏のタイム感、グルーヴ感”だという。
さらにフラッグシップの5000シリーズでは“圧倒的な音場感”と音楽的な低域に支えられた“ゆるぎない音像感”の2点を目標に加えた。特にHi-Fi機器の醍醐味である低域再現は、ヤマハならではの“音楽的表現”を示すために注力したところだという。
5000シリーズでは、メーカーが持つ技術を集結して妥協ない製品を目指し、独自技術を意識しながら商品づくりに取り組んだという。また、デザインについては、復刻のイメージを持たれることが多いが、「作り手としてはそうは思っていない」とコメントした。
「見てすぐわかる、触って感じられる」こと、「手に触れた際の精度」を考えているとのこと。そして心地よく操作できる、フィーリングのリズム感なども大事にしているそうだ。そのために後述するプリアンプでは、ボリュームノブやレバーにもこだわり、手ざわりの充実感を表現しようとしている。ここが今の時代だからこその「1970年代の商品と大きな違いを感じられる部分だ」とした。
ほぼ100万円のセパレートアンプも投入
ヤマハは、GT-5000に先行してフラッグシップのプリアンプ「C-5000」とパワーアンプ「M-5000」も投入する。価格はともに97万2000円で、発売は12月上旬を予定している。スピーカーの「NS-5000」、そして上述した「GT-5000」とのベストマッチングを目指して開発したセパレートアンプだ。上述した「圧倒的な音場感」と「音楽的な低域」の表現にこだわった。
両機のプロジェクトリーダーを務める関塚恭好氏は「フラッグシップ機なので、外観の品位や操作感を重視。加えて絶対的な部分となる音質については音楽に没頭できるものを開発目標とした」とする。その実現のために、過去にないほどの時間を割いて、改善と検証を繰り返し、「執着心をもって取り組んだ」そうだ。
設計と音質調整を担当した森井太朗氏は、多くのこだわりポイントの中で「音楽的な低域を開発の中心に据えて、部品選定や回路設計に取り組んだ」とする。音楽の下支えになるものとして、芯があり、音程感がしっかりしていて、抜けがいい低音を目指したそうだ。
技術的には、C-5000/M-5000ともに低インピーダンス設計にこだわっている。
左右対称の回路を実現するため、2枚の基板を背中合わせに
C-5000では、特徴的な「ブックマッチコンストラクション」を採用した。プリアンプ基板を、左右対称になるレイアウトで片チャンネル1枚ずつ作り、それを上下向かい合わせにした2段重ねで配置するものだ。広げた本を閉じる様子に似ているから「ブックマッチ」となる。
完全に同一の経路を伝って信号が伝送されることに加え、GNDはこの基板の間に落としており、L/R基板間の距離も最小化される。結果、他機器との間のGNDループが小さい、より強いGND特性も得られる。
プリアンプ基板は、左下の部分にPHONOアンプなどアナログ入力部分がある。そこからコネクターやケーブル配線を一切使わず、最短距離で右下の出力部に信号が伝わる。ここもGNDがしっかりとれる4層基板にし、低インピーダンス化を目指したとする。
また、同社のパワーアンプで使っている「フローティング&バランス方式」をプリアンプでも採用した。ノイズに強いバランス伝送に加え、GND部からもフローティングし、GNDを通じて飛び込んでくるノイズに対しても有利な設計だ。フォノイコライザー、入力アンプ、出力バッファーアンプなどにこの方式を取り入れている。
さらに、音質にははんだの影響が大きい点を考慮して、電源部との接続にはネジのトルクでしっかり固定する発想を導入した。左右のトランスは左右対称に配置しているが、その次に来る整流回路も基板を左右で分けて2枚重ねで置いている。左右が同じ距離でかつ最短距離の伝送になるのが利点だ。シャーシにも銅メッキを施し、低インピーダンス化した。
なお、ボリュームの操作部材にはボールベアリングを使っており、強く高精度、レバースイッチの機構についても感触と剛性を両立できるとする。後者は入社二年目の若手が必死に考えたオリジナルの構造だという。また、脚部は点で接地するスパイクと、その軸受け部が一体化した構造で、素材は真鍮となっている。
従来機では、鉄製の脚部に対してマグネットで固定する方式だったが、真鍮では磁力を使ってベースレッグを止めることができないので、同じ若手社員が考案した特許出願中の新しい構造を採用したという。ねじの留め方についても、本体側の質量がないと音が悪くなると気付き、改良を加えている。
モノラルアンプとしても利用できるM-5000
M-5000でも低インピーダンス構造を採用する点は共通だ。信号経路をシンプルで短く、電源も供給系を短くしている。
技術面でのポイントは「メカニカルグランドコンセプト」だ。重量のあるトランスを面で支える構造は「A-S3000」から受け継いでいるが、さらに振動するトランスをどういう機構でしっかりと固定するかを考えた。結果、トランス固定用ボルトでシャーシとしっかり挟む機構とした。これをC-5000と同じ新開発の脚部と組み合わせることで、振動の悪影響を抑制する。
パワーアンプの電源に使われる、トロイダルコアトランスは、内部巻線をそのままダイレクトに引き出して、はんだ付けせずラグ端子で回路に直結している。ここも低インピーダンス化のための試みだ。さらにトランスの底面と内部シャーシの間に3mm厚の真鍮製ベースプレートを挟み、真鍮製のネジで留めている。
はんだをなるべく使用せず、結線で頑丈にねじ止めするのは、プリアンプと同様だ。
MOS-FETを利用した出力段はパラレル化。さらに電源とスピーカーの間には、通常トランジスタを挟むが、これを直結することでエネルギーロスを大幅に抑えたという。
スピーカー端子は真鍮製。プレートも色はシルバーだが真鍮製だという、磁性体では歪みの原因になることと、3mm厚で振動に対して強く太いケーブルの重量も支えられる点などを考慮して採用した。なお、M-5000はブリッジ接続にも対応。2台用意して、モノラルパワーアンプとして使用すれば片チャンネル400Wの出力が得られる。
C-5000の本体サイズは幅435×奥行き451×高さ142㎜で、重量は19.1㎏。M-5000は幅435×奥行き464×高さ180mmで、重量は26.9㎏。
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