1980年代のノウハウが、現代の技術で生まれ変わった
まずは「GT-5000」から。迫力ある木製キャビネットのサイズは横幅と奥行きが546×395mm。厚みは120mm、単体重量では14.3㎏もある。ここがGT-2000を開発した先人が到達した「答えのひとつ」だという。
開発プロジェクトのリーダーを務める阿部紀之氏によると「慣性モーメントの最大化」といったGT-2000の特徴を継承しつつも、異なる要素も取り入れている。具体的には後述する「ピュアストレートアーム」、異種材を利用した「インナー/アウトプラッター」、WindBell製のカスタムレッグなどだ。
大時代的な雰囲気だが、デザインはほぼ新規起こしに近い。黒のトラディショナルなトーンでありながらも、アームはシンプルでモダンな印象のシルバーで、両者の調和を重視しているという。
技術的なポイントは大きく6点。すでに述べた木製キャビネットはそのひとつだ。楽器やスピーカーなど、ヤマハが培った木材に対する知見を大いに踏まえている。ここは重量のある高密度のパーティクルボードを4層積層で圧着し、NS-5000と同じ自社工場で削って加工する。木材は適度な内部損失を持つため、振動の減衰が速く、レコード針が物理的にトレースした信号に悪影響を与えない。適材適所での木材の使用が肝だという。
ターンテーブルは、2.1kgの真鍮製インナープラッターの上に、5.2kgのアルミ合金製アウタープラッターを重ねている。異種素材を組み合わせることで、それぞれの金属が持つ固有振動を打ち消し合う効果が得られる。ダイナミックドライブからベルトドライブの機種となったが、この構造によって可能になった面もある。
GT-5000はオーソドックスなベルトドライブの機種。選択理由は、ダイレクトドライブではコギングを補正するために電気的なフィードバックを掛ける必要があるためだ。これは自然界にはない動きであり、「音の抜けの悪さ」にもつながるという。
GT-2000シリーズが、大きく重いプラッターを用いた理由は、一度動き出せば安定した速度でターンテーブルが回り続けるためだ(慣性モーメントが高い)。GT-5000でも0.92t/cm2という高いイナーシャを得ている。ダイレクトドライブの特徴はトルクが高く、力のロスが少ない点だが、レコードの場合は回転速度が遅いため、モータ自体の回転ムラの影響が出やすい。
モーターの軸は周囲に複数置いた磁石の力を使って回転するが、磁石と磁石の間にどうしても磁力が不均一な場所ができてしまうため、滑らかでない不自然な動きになってしまう。これをコギングといい、ダイレクトドライブ方式を採用したテクニクスではコアレスモーターの採用に加え、BDドライブなどで培った回転制御技術を取り入れている。いずれにしても電気的なフィードバックが必要となる。
GT-5000ではこれを嫌って、動きとして自然なベルトドライブ方式を選択した。フィードバックをなくすことで、アナログディスクの持っている本来の音を引き出せるとしている。その駆動に使うのは、クオーツ制御で生成した正確な正弦波に基づく24極2層ACシンクロナスモーター。これをボトムカバー側に置いていて、独立した振動対策を施している。
アームはGT-2000のS字型からストレート型になった。実効長223mmのショートアームで、素材は外側がテーパードカーボン、内側が銅メッキアルミパイプだ。レコードプレーヤーのアームの長さ・形状には様々な種類があり、一長一短がある。その中で溝をトラッキングする際の追従性を重視した選択だそうだ。
ストレート型は、針・カンチレバー・支点が同一線上に並ぶため、重量的にも力学的にバランスがよい。ショートアームは、短いがゆえには丈夫に作れる利点もある。音の抜けや開放感、低域の表現を重視する上で合っていると判断したそうだ。
ロングアームに対するショートアームの弱点としては、トラッキングエラーがある。短いアームではレコードの外周部と内周部で、溝に対して針の角度がずれる量が増える。その悪影響として、左右の音の位相差や歪みが生じやすくなる。
ただし実際は軽微な差だ。外周部で発生する10°程度のトラッキングエラーの影響を、最終的に音が出るスピーカーの位置に換算すると、置く位置がほんの2.1mm変わった程度だという。これなら誤差と言っていい水準であり、そこまで厳密にセッティングされているスピーカーのほうが珍しい。音に対する影響としては、むしろ針が溝をトレースする際に生じる歪みや残留ノイズの方が大きい。
内部配線は先行して販売済みのスピーカー「NS-5000」シリーズや後述するセパレートアンプ「C-5000」「M-5000」などと同様のPC-Triple C(特殊な鍛造製法を用いた銅)とした。インターコネクトケーブルもPC-Triple Cにすることで入り口から出口まで同じ材質のケーブルに統一できるが、ここもこだわりのひとつである。
脚部は特許機器(株)が、ハイエンドオーディオ機器向けに展開するブランド「WindBell」の新型特製レッグ。3軸構造で振動に対して強く、7Hzなど低い低域はカットしつつ、高域の余韻に対して自然な減衰特性を持つ点がウリだという。
レコードプレーヤーとしては珍しく、XLRバランス出力端子も備えている。バランス接続はノイズ低減に効果があり、バランス入力に対応したプリアンプ「C-5000」のフォノイコと接続することで、針先からスピーカーまで、フルバランスで信号をやり取りできる。ここは音の入口から出口まで1社で管理できる強みを生かしたコンセプトと言えるだろう。
本体サイズは幅546×奥行き411×高さ221mmで、重量は26.5kg。ヘッドシェルの交換が可能で、14gのヘッドシェルを含んだ状態で13.5~36gになるカートリッジの装着に対応する。すでに述べたように価格は64万8000円(カートリッジ別売)。2019年3月から予約を受け付け、4月の発売を予定している。
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