細胞医薬品だけでなく、投与方法の開発にも取り組むベンチャー
「生きた細胞」を活用し、新たな心不全治療を提供する「メトセラ」
再生・細胞医療の産業化拠点として、再生・細胞医療事業に関わる機関が相互に連携・協力して産業化を加速させているRINK(Regenerative medicine & Cell therapy industrialization network of Kanagawa;かながわ再生・細胞医療産業化ネットワーク)。日本・神奈川県発で細胞の加工・培養・保管・供給という一連のバリューチェーン構築・産業化を狙う、イノベーション拠点にかかわる先端テクノロジー企業を紹介する。
心臓の組織再生を助ける「線維芽細胞」を用いた
心不全向けの細胞医薬品を開発
心疾患は日本の死亡原因の第2位を占めている。さらに、高齢化の進展や生活習慣病によって、患者数の増加や社会保障費の負担拡大が見込まれている。
心疾患の中でも「心不全」という心臓の機能不全を治療することを目標とするスタートアップがメトセラだ。2016年3月に創業し、心疾患向けの細胞医薬品を開発している。
心不全は進行性の症状で根本的に治療する方法が確立されていないため、心移植を待つ重症患者が少なくないのが現状だ。同社は、心不全の根治療法を確立することで、重症の心不全患者に新たな治療の選択肢を提供し、社会負担の軽減にも貢献したいという。
メトセラが開発を行なっているのは心不全向けの細胞医薬品として、「線維芽細胞」を用いた「VCF」という製品だ。VCFには心臓の組織再生を助ける効果があることがこれまでの実験で明らかとなっており、動物実験でも心不全の治療効果を確認できたという。線維芽細胞は培養が非常に簡易という特徴もあるため、この優れた治療法を、従来よりも安価な形で提供を目指している。
口からの投与が主体となるこれまでの医薬品と異なり、細胞医薬品は「生きた細胞」が患部にとどまり、効果を発揮する必要がある。メトセラでは、VCFを患部に効果的に投与する機器の開発にも取り組んでおり、VCFの優れた治療効果を損なうことのない技術を確立する方針だという。 細胞医薬品だけでなく、その投与方法の開発にも取り組むことで、VCFは再生医療業界の中でも独自の立ち位置を確立できるものと考えている。
また同社は、2018年8月30日付で、シリーズAラウンドの資金調達の報告をしている。本ラウンドで総額5.2億円の第三者割当増資を実施。既存投資家であるBeyond Next Ventures株式会社に加え新たにEight Roads Ventures Japan、F-Prime Capital Partners、日本ライフライン株式会社、Sony Innovation Fund、第一生命保険株式会社、株式会社ケイエスピーが株主に加わった。
メトセラの野上健一代表は、「再生医療業界では、遺伝子解析や細胞特性の解析などの分野において、ビッグデータ解析やAIの活用が飛躍的に進んでおり、メトセラも積極的にそうした技術を取り入れています。ITの力を活用することで、飛躍的に研究のスピードを向上させることも可能です。是非専門分野の垣根を越えて連携を進められればと願っています」とASCIIに語ってくれた。
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