週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

『「IoTがなぜ進まないのか?」への答え デバイスから考えるデータ価値創出の方法』レポート

IoT導入を加速させる人とモノへ最適なアプローチとは

2018年10月04日 09時00分更新

 さまざまなビジネスシーンでの活躍が期待されているIoTデバイス。しかし、盛り上がりの一方でまだまだ導入が進んでいないという声も多い。そこで独自のIoTデバイスを手がけるビッグローブの羽石 斉氏と、位置情報を軸に各種導入を進めているマルティスープの那須俊宗氏にIoTデバイスの今と可能性について話をうかがった。

左から、マルティスープ 那須俊宗氏、ビッグローブ 羽石 斉氏、モデレーターを務めたアスキー編集部 北島幹雄

IoTデバイスの導入はすでに始まっている

羽石氏(以下、敬称略):私はビッグローブで法人事業の新規サービス、商品の企画を担当しています。ビッグローブ全体の事業としては、6000社以上の企業様に通信機器や回線を使っていただいています。弊社の法人向けサービス「BIGLOBE.biz」では、さまざまな企業さんをご紹介しています。

 「BL-02」は、2018年の4月から販売しているAndroidベースのIoTデバイスです。2015年ごろ、MVNO発の子供向け専用機器を開発していたんですが、諸事情で製品化にはいたりませんでした。そんななか、IoT機器の展示会に参考出展したところ、企業様から「これは使えるのではないか、売ってくれないか?」という話をいただいたんです。マルティスープの那須さんもそのときからのお付き合いです。

「BL-02」は、加速度とジャイロ、地磁気、気圧が読み取れる10軸センサーを内蔵して行動センシングができるIoTデバイスです

 それから97社の法人様を訪問して、IoTデバイスが業務に役立てられるのか、どんな機能を求めているのか聞いて回りました。そしてできたのが「BL-02」です。センサーを積んで、バッテリーを内蔵。現場のモノの状況をデータ化することができます。人やモノの状態を把握し課題を解決したいというニーズに応えるために商品化しました。

ビッグローブ株式会社 法人事業本部グループリーダー 羽石 斉氏

那須氏(以下、敬称略):マルティスープはモバイル、位置情報、空間情報を得意としたシステム開発会社です。

 位置情報や測位環境をどのようなIoTデバイスで取得・構築するのかという基本的なところから、デバイスから通信回線までの提案、それから取得したデータを可視化、分析する技術を持っています。

 ソリューションとしては、屋外でのフィールド業務支援サービス「iField(アイ・フィールド)」があります。GPS情報を元に動態管理ができるもので、「どこで」「誰が」「何を」やっているのかを検知し、現場報告書作成、設備・物件管理、人員最適化など、現場作業の効率化を一元的に管理できます。

 GPSは電波が届かない工場内や屋内では使えませんが、スマホにはGPS測位の他に、Wi-Fi測位、基地局測位という技術があります。さらに最近ではBLEビーコンやUWB(超広帯域無線)、PDR(歩行者自律航法)など、さまざまな測位技術が出てきています。我々も10年前に経産省の国立研究開発法人「産業技術総合研究所」にお声がけいただき、PDR技術の応用展開の研究開発にご協力させていただきました。

 2014年には、工場内などで人やモノの位置情報が計測できる「iField indoor(アイ・フィールド インドア)」というサービスをローンチし、製造業や物流業、病院などの医療施設にも提案を行なっています。かつて位置測位を行なうセンサーが20万円ぐらいと高価だったんですが、iPhoneの「iBeacon」が登場したことがきっかけとなり、現在では比較的手軽に位置測位ができるようになりました。

マルティスープ株式会社 代表取締役 那須俊宗氏

――本セッションのテーマであるIoTの導入ですが、一部の産業ではすでに始まっています。しかし、医療や建設、不動産などは、まだまだな印象を持っています。たとえば、現場がデータを取られたくないと思っていたり、不利益があると思っていたりします。また、経営側はデータを取るんけれど、使いこなせていません。また農業では従事者が高齢化していて、デバイスを使いこなすためのオペレーションやマネージメントがありません。マルティスープさんのようにIoTデバイスを実際の業務、実用として導入されているところはあるものの、このようなIoTデバイスの普及が進まない理由についてどう思っていますか?

羽石:去年の総務省の情報通信白書には、IoTに興味があるといった企業のうち、どれくらい効果が出ているのかがまとまっています。そこでは9%の企業がIoTで実際に成果を出したり、良いと実感する段階に至っていなかったりする状況が記されています。

 とはいえ、現場の方々はIoT導入の検討を進めています。大企業のR&Dや生産部門にIoTを進める部署は多いです。ただ、どんなセンサーを使って、どんなデータを取るのかイメージできていない。また、ラズパイ(Raspberry Pi)でやってみようとする企業が多いですが、「工場に全展開するとしたら500台くらい必要になるんだけどやってくれるところあるかな?」というところでつまずいています。「BL-02」は今年の4月から出しましたが、SIerに続いて製造業の会社からの引き合いがあります。主に大企業の生産技術、研究開発ですね。

那須:2003年くらいからモバイル位置情報を始めたと話しましたが、そのときの回線が2Gでした。端末のボタンを押すとGPS測位して、40~50秒かけて座標が届きます。その後、GPS携帯電話が登場しましたが、写真1枚でパケット通信料が200円ぐらいかかりまだビジネスには使えませんでした。そして、3G回線が出てきたころにモバイル位置情報を取得するデバイスが製品化できました。その後、2010年にローンチした「iField」は、翌年発生した震災の調査にも使われました。これはデバイスや回線の進化が1年遅かったらできませんでした。

 インフラ発展の結果、屋内外での位置測位技術は、製造業や物流業、医療施設でも使えるんじゃないかと考えています。実際に現在、電機メーカーの工場で製品の位置管理だったり、自動車会社のフォークリフトなど、色々なところで使っていただいています。

 たとえば半導体製造のジャパンセミコンダクターさんでは約4万平米の工場に3000個くらいのビーコンを配置し、「iField indoor」をカスタマイズした仕組みを導入しています。人の動きの可視化、モノや設備状況の可視化、これらの情報を重ね合わせ分析、改善活動を繰り返しています。半導体製造装置は一度電源を落とすと、約1週間再度電源を入れられないらしいんですが、そうすると24時間365日フルで動かすのが一番生産性を高められます。

 しかし、実際には人を割り当てても、機械のエラーに気づけなかったり、会議中だったりして素早く対応できずにロスが発生します。そこで問題が起きたときに、一定時間がたつとその工程を担当できる他の人に代わりに行くように指示が出せるようにしました。たったこれだけで人待ち率を4%削減できるようになったそうです。4%はこの工場では数千万円のコスト削減。今、彼らは10%の削減を目指しています。

 昨今、人手不足が叫ばれていますが、位置情報によって1人当たりの生産性を向上させられます。生産管理の計算では、特定の工程が「2.3人」「3.2人」など、小数点以下で設定されがちです。しかし、人ですから結果的には3人、4人とかで割り振られていくんです。これが最終的には無駄になるのですが、端数の部分を位置情報で割り振っていくことで1人あたりの生産性を上げるために使えるんです。

――モノの動きや、人の動きを最適化させることがビジネスにつながっていくと思うのですが、それは2003年の段階から見えていたんでしょうか?

那須:その可能性はすごく感じました。ただ、最初は売れませんでした。端末自体も高かったですし、当時は携帯電話もスマホもないですから。2011年以降にニーズが急拡大して、そういうことを実現できるデバイスと通信技術が次々と生み出されています。今は過渡期だと考えています。

IoTを加速するために「BL-02」を使ったソリューションを用意

――9月13日には、IoTを促進するために、BL-02ソリューション、「iField indoor」と「Palette IoT」が新たに発表されました。この取り組みで目指すものについて教えてください。

羽石:那須さんが話された導入事例はすごく進んでいます。しかし、私がお会いした会社の多くはマルティスープさんがやっているようなことをやりたいと思っていて、自分たちで作ろうとしています。ただし悩みは「もっと安く」とか「ちょっと試して効果を見ないと予算取れない」という点でした。さらに、中堅以下の企業だとIoTデバイスを研究開発する予算自体がありません。

 そこで今回、2つのアプローチを考えました。大企業には実証実験を気軽にできるような環境を用意することがIoTをブーストさせるんじゃないかなと思っています。また、中堅未満の会社さんにはもっとわかりやすく「IoTソリューションです」っていうのではなくて、たとえば「これはイノシシを捕まえるシステムなんです」というような具体的なアプローチを考えています。

 今回のソリューションはマルティスープさんとうちのチームメンバーで一緒に企画させてもらいました。我々は通信とデバイスを持っているだけなので、マルティスープさんのように事例を持っていたり、業界ごとにIoTで課題解決ができるパートナーさんと一緒に活動していきたいと思っています。

――那須さんは初めて「BL-02」見たときどういうふうに思われましたか?

那須:モバイル型GPSの初期端末は、ボタンが2つしかありませんでした。そこから時間を経て、スマホの登場など、なんでもできるように進化してきましたが、逆に大手さんからは「そんないらない、カメラがついていると工場の中に入れられない」という話がすごく多くなってきています。

 僕らもいらないと考えています。電話もカメラもなくてもいい。人の行動を記録したり、資産化するためのデバイスがスマホとは別に存在すればいいんです。「BL-02」は見た目がダサいんですが、目的にフォーカスしています。こういうものが今後も出てくることを期待していますし、今、現場で使い始めていますが非常に面白い。楽しみな未来を見せてくれていると思います。

――最後に「BL-02」でこれから何を目指していきたいか、一言ずついただけますか。

羽石:IoTデバイスは大企業のみならず、中堅以下でも効果を出して、業務効率が上がることを進めていきたいと考えています。

那須:BL-02の10軸センサーをいろんなところに使っていくだけでなく、次は(センサーによる個人の)「行動推定」をやりたいです。これはめちゃくちゃニーズがあるんですけどとても難しい。ただ、チャレンジしていくべきところはきっとそこにあるんじゃないかと考えています。人手不足の解消や次の未来を想像していくために、チャレンジしていく必要もあるんじゃないかと考えています。

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

この連載の記事