イノベーションリーダーズ育成プログラム『埼玉 Sports Start-up (SSS) 』
スポーツ×ベンチャー×地方創生で何が生まれるのか
ベンチャー×スポーツビジネスをテーマに埼玉県にあるプロスポーツクラブや球団「浦和レッドダイヤモンズ、大宮アルディージャ、埼玉西武ライオンズ」の3チームが抱えている課題に対し、ベンチャー企業やスタートアップ企業などが新たなビジネスを起こして課題を解決していくためのイノベーションリーダーズ育成プログラム『埼玉 Sports Start-up (SSS) 』。そのキックオフイベントが埼玉県の大宮ソニックシティで開催、Jリーグの村井満チェアマンが登壇した基調講演に続いて、識者によるパネルディスカッションを実施。
ベンチャーの力を信じてクラブ経営者も考え方の改革を
パネルディスカッションでは、「スポーツ×ベンチャー×地方創生」をテーマに村井チェアマンを含めて、栃木SCの江藤美帆氏、楽天の仲山進也氏、早稲田大学の間野義之氏4人の方が登壇。ファシリテーターは、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリーの里崎慎氏で進められた。
里崎 「まずベンチャーが地方創生に及ぼす可能性について江藤さんはどうお考えでしょう」
江藤 「私は栃木県という地方でビジネスをしていますが、地方のビジネスは人間関係がベースになっていたりします。ベンチャーはその対極で経済合理性を追求するため、ビジネスのやり方がまったく違うんですね。そういったところにベンチャーが入ってきてくれたら、イノベーションを起こせるのではないかと考えています」
里崎 「スポーツビジネスという観点からすると日本のスポーツというのは、まだこれからだと思いますが、スポーツがきっかけになっていろいろな活動ができるようになるという事例は、プロ野球のボールパーク化でよく耳にします。ベンチヤーとの相性などについて、間野先生にコメントをいただければ」
間野 「アメリカと比較すると1995年のMLBと日本のNPBの市場規模は、ほぼ一緒でした。これが2010年時点と比較すると3.5~4倍の開きになっています。この間にMLBは何をしたのかというと、ITへの投資やスタジアムへの投資をしてきました。しかし日本はやろうと思えばできるのにやって来ませんでした。ロサンゼルスドジャースは、スタジアムを含めてチームの中にベンチャーインキュベーションのシステムを持っています。チームのデータをすべて開示して、ベンチャーに渡して何ができるのかということをやっています」
里崎 「ベンチャーがボールパーク化には相性が良いということでしょうか?」
間野 「必要不可欠だと思います。たとえば野球やサッカーを見に行くと売店で待たされますよね。あれはものすごく売上の機会を損失しています。アメリカのスタジアムでは、アプリで予約購入して、ブラス5ドルで席まで持ってきてもらえます。日本はやれる条件が整っているのにやっていません。なので、まだ伸びしろがあるぶん、ベンチャーに強みがあると思います」
里崎 「Jリーグのベンチャーとの取り組みについて、今考えていることがあれば村井さんいかがでしょう」
村井 「ベンチャーのスピリッツというのは、行政にお願いしてお金を出してくださいと陳情するのではなく、自分が作ろうという意志がすごく大事で、最近は行政もお金がないから、自分たちでスタジアムを作ろうという動きもあります。先程紹介したガンバ大阪のスタジアムが素敵なのは、ロッカールームがホーム側は円形で、ハーフタイムに監督が真ん中に立って激を飛ばすと、声が響くようになっています。逆にアウェー側のロッカールームは長方形で殺風景になっていて、こういう“えこひいき”ができるんです。スタンドもガンバ側は一体感が生まれるな構造になっているのですが、アウェー側は、一体感がなくなるようにビューボックスを間に埋め込んで分断しています。こういう“えこひいき”のあるスタジアムは、税金を使っていたらできません。オーナーシップというのはスポーツ経営ではすごく大事で、ベンチャービジネスのマインドを持っている経営者が、いろんな新しいことにチャレンジしようとすれば、集積体として発展があると思います」
里崎 「Jリーグのクラブはベンチャーとのコラボレーションは積極的なんでしょうか?」
村井 「クラブの経営者によって、感度がいいところは積極的に行きますし、経営者次第ではないでしょうか。インターネット型のコミュニケーション経済になってきたので、十分考えてからやるよりは、機動的に動くことの重要性を多くのクラブの経営者が認識しだしていると思います」
里崎 「そうなると経営者の資質やオーナーシップをクラブチームで持てるかといったところがポイントになりますが、今いるメンバーをどう活用していけばいいのか、仲山さんに伺いたいです」
仲山 「2004年に三木谷さん(楽天株式会社代表取締役会長兼社長)がヴィッセル神戸のオーナーになったのをきっかけに手伝ったのですが、自分の強みを活かせるものとして、グッズを楽天市場で販売しました。1年間自分たちでページを作って売ってみましたが、グッズの売上が前年比で2.5倍になりました。それまではスタジアム売りだけだったので、ネットだけでそれ以上売ったことになります。お客さんとの距離を縮めるのが肝だと思っているので、メルマガを発行し店長といかに面白いものにするかやってきましたが、お客さんから『グッズを買いすぎて困ります(笑)』という“クレーム”が来るようになりました(笑)。一緒になにかやりましょうと起ち上げるときは、ビジネスベースで提案を持ってくるよりは、仲良く話しているうちにお互いの強みを持ち寄ってすり合わせていくと、意外とうまく行きやすいのかなと思います」
里崎 「スポーツ×ベンチャーとして、スポーツが地域活性化にどうつながっていくのかを江藤さんなりの見解を聞かせてください」
江藤 「村井さんの講演で出尽くした感はありますが、1つ考えたのがスポーツツーリズムですね。以前、私が応援していたクラブがJ1からJ2に降格してしまい、その時からアウェーの旅行を始めたんです。普段なら絶対行かない所へサッカーを通じて行くようになり、その土地の魅力を感じました。ただ、もう少し自治体と連携して、おすすめ観光スポットを紹介してくれたり、パッケージツアー化してくれたりと、アウェーのお客さんを集客する手段があってもいいかなと思いました」
里崎 「J2、J3のクラブだとよりリソースが限られてきます。リーグとしてサポートできると面白いと思いますが、村井チェアマンはその辺りの底上げに対してどうお考えなのでしょう」
村井 「収入で一番大きくても浦和で80億程度。会社としてみたら零細企業の部類です。30~40億がJ1の平均だとすると、従業員は100名もいませんし新卒で大量採用して育てるということも難しいです。1つの仕事をずっとやり続け専門家のようになってしまうため、横の組織に口を出せなくなっている。そうなると、その人の情報が更新されないと、クラブ全体が陳腐化してしまいます。人材をリーグが少し多めに取って、いろいろとローテーションしていくことで、1つのクラブではキャリアローテーションは難しいですが、リーグとしてなら、広報だけでもJ1やJ3といった人材ローテーションができます。新しいアイデアを生み出すには、人の障壁を外しいていくことが重要です。まだまだ道半ばではあります」
里崎 「クラブの活動では地元の行政との兼ね合いも欠かせません。今後どのようにコラボしていけばいいのか間野先生はどうお考えでしょう」
間野 「村井チェアマンのお話にもありましたが、これからは公設民営型で土地は行政が持つけれども、上モノは民間企業やクラブが造るというスキームがどんどん広がってくるはずです。民間だけでは一等地に土地を買うのは難しいので、行政と民間のパートナーシップが重要だと思います。建物だけでなく、ベンチャーのみなさんがたとえばマーケットデータを得ようと思ったときに、もっと自由に活用できるようにする、どう活用させてもらうかが1つのポイントでしょう。また、スタジアムはスポーツ単一機能でしたが、試合がない日でも、もっと人が集まるような仕掛けをしていかないと、プロスポーツチームにとっても施設所有者にしてもいいことがありません。サッカーにしても野球にしても試合がない日のほうが圧倒的に多いので、そういうところの活用を見出すとかなりの伸びしろがあるのではないでしょうか」
里崎 「まだまだサッカーも野球も伸びしろがあるということで、実際に経験したスポーツが地方創生に貢献できるようなきっかけやこれからの取組みについて仲山さんいかがでしょう」
仲山 「私はサッカー好きですが、Jリーグのクラブはどこに接点があるのかわからず、閉じているようにしかみえません。そこが凄くもったいなくて、僕のようにサッカー好きでボランティアでも何かやるよという人はたくさんいると思うので、そういう人が集まりやすい“場”を作ってほしいですね。一緒に遊ぶ関係性に捉え直すともっと面白くなっていくと思っています」
里崎 「仲山さんらしい発想だと思いますが、今そういうものが入ってくるとイノベーションが起きそうだなと思いました。最後にスポーツ×ベンチャー×地方創生について期待したいことをお聞かせください」
村井 「非常に近い世界観でやれることを楽しみにしています。Jリーグでは、PDCA(Plan・ Do・ Check・ Act)サイクルの中にミス(M)を入れ、PDMCAサイクルを回すことを推奨しています。サッカーは90分間何を見ているかというとパスミス、シュートミスとミスのスポーツと言われています。ある意味ベンチャーにはミスもつきものですが、それを責めずにどれだけ壮大な夢を描いて大きくズッコケたかというのをみんなでたたえながら、こういう活動を進められればいいなと思っています」
江藤 「スタートアップやベンチャーにとって、プロスポーツと何かやりたいと思ってもコネクションがない、窓口がわからないということが多いと思います。今回埼玉県という自治体が間に入ってつないでくれるし、知識も授けてくれるので、すばらしい試みだと思います」
仲山 「今回、集まった40人の方やクラブの方と一緒に事務局の人たちも交えてフラットな感じでごちゃごちゃっと話がしやすい関係性を作るお手伝いをさせていただきます。スポーツ×ベンチャー×地方創生は、抽象的にはわかるのですが、結局それがうまくいくときって、人と人のウマがあって話が盛り上がって、面白いねという感じになり熱量が高くならないとイノベーションは生まれないし長続きもしません。1つでも多くのイノベーションが生まれればいいなと思っています」
間野 「スタートアップしたい人とプロスポーツとのマッチングの場ですよね。通常なかなかこういうことはできないけれども、なぜか埼玉県庁が思いついてくれました。しかもスポーツ振興ではなく産業振興なのでこれは絶好の機会だと思います。本気で埼玉のプラットフォームとなり、ラグビー、オリンピック・パラリンピック、ワールド・マスターズゲームスと日本で世界有数のスポーツイベントが3年連続開催するというかつてないチャンスを埼玉で成功させて、日本だけでなくアジアや世界でも展開していくような大きな志を持ってやってもらいたいですね」
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