2018年8月7日、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)のカブドットコム証券は、kabu.com APIの基盤刷新のためにAWSを採用することを発表した。基盤の移行はすでに完了しており、自社運用による既存システムに比べて、約2倍のコスト削減効果を見込む。
競争力の源泉だった自社開発・運用システムをAWSに移行
1999年創業のカブドットコム証券は、東証一部上場のインターネット専業証券会社。2007年に三菱UFJファイナンシャルグループ(MUFG)傘下に入り、現在は三菱UFJ証券ホールディングスの子会社となっている。
カブドットコム証券は創業以来、証券取引システムを自社開発しており、データセンターからインターネット接続回線まで、すべて自社で構築・運用してきた。このうち今回AWSの移行対象となったのは、2012年から提供してきたkabu.com APIのシステム基盤になる。kabu.com APIは株式・先物オプション取引に対応したサードパーティ向けのAPIで、発注系、注文や残高照会、リアルタイム時価情報など従来専用ツールが必要だった情報をAPI経由で提供できる。
カブドットコム証券 取締役 代表執行役員社長 齋藤正勝氏は、今回のAWS採用がMUFGが掲げるクラウドファーストの流れに乗ったものであることを強調。「創業当初から自社開発・自社運用でメリットを出せてきたが、セキュリティや開発面を考えるとやはり苦しくなってきた。どう考えてもクラウドファーストを素直にやった方がよいという判断になった」(齋藤氏)と語る。
クラウドサービスとしてAWSを採用した理由としては、すでにMUFGでの実績やガイドラインがあったという点に加え、開発者目線でのサービス選択という点を挙げた。さらに、コンタクトセンターを迅速に構築できる「Amazon Connect」についても高い期待を示しており、マネージドサービスの充実ぶりも選定理由になったようだ。
APIの利用を促進するシステム基盤への期待
AWS採用のもう1つの理由は、APIの利用促進をにらんだシステム強化だ。齋藤氏は日本の証券会社がグローバルに比べて参入障壁が高いことを指摘。「多くの証券会社やFintechプライヤーが大手の証券会社のシステムに依存している。これだとオープンイノベーションに限界がある」と語る。
しかし、オープンなAPIを公開することによって、異業種の証券業の参入が容易になり、個人投資家の取引環境がますます高度化できると説明する。「今日現在ではネット証券でAPIを提供しているのは弊社しかないが、数年後には他の証券会社もAPIが利用できるようになる。こうしたら一番手数料のやすいところに注文を出すとか、残高を一元的に管理することもできるかもしれない」(齋藤氏)。こうした中、トランザクションの読みにくいシステムの基盤としてクラウドを採用したのは必然の流れだったようだ。
三菱UFJファイナンシャル・グループ CIO兼CDTO 亀澤 宏規氏は、デジタルトランスフォーメーション戦略の一環としてkabu.com APIを包括するMUFJ APIsについて説明。「APIを通じて、今までリーチできなかったお客様にリーチしたり、作れなかったサービスを提供できる可能性が高まる。オープンな協働により、われわれにとってのブルーオーシャンを探すのが目的」とその意義を強調した。
アマゾン ウェブ サービス ジャパン 代表取締役社長 長崎忠雄氏は、進化し続けるテクノロジーを利用した分だけの支払いで使えるクラウドのインパクト、NetflixやUber、PinterestなどのデジタルディスラプターとAWSの役割を説明。カブドットコム証券のAWS採用について「APIを使うことで証券業界の垣根をなくしていく、証券会社に参入しやすくするという先進的な取り組みにワクワクしている」と期待を表明した。
サードパーティも参画した開発・移行作業は7ヶ月で完了しており、OAuth2.0認証によるセキュリティの強化を実現したという。今後はAPI基盤のみならず、Webサーバーをはじめ、クラウドファーストで刷新していく方針。また、BCPとして大阪ローカルリージョンの利用も検討しているという。
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