その会社にはその会社ならではの働き方がある。みんなの働き方改革・業務改善を追う連載「私たちの働き方カタログ」の第27回は、2014年から働き方改革を進めているNTT東日本。在宅勤務を推進すべく、オフィスに置ける分身ロボットを導入した狙いを総務人事部の2人に聞いた。
4年間の働き方改革で長時間労働自体が激減
働き方改革で用いられるテクノロジーとしては、やはりビジネスクラウドやRPAが挙がるが、今回はロボットの導入。一足飛びなテクノロジー導入かと思うかもしれないが、導入しているのは国内最大手の通信会社であるNTT東日本である。
NTT東日本が働き方改革に本腰を入れ始めたのは、政府の旗振りより以前の2014年7月にまでさかのぼる。社員の平均年齢が50代と高く、10~15年で1万人近くの社員がいなくなる同社は労働集約型のビジネスからの脱却を進めている真っ最中。NTT東日本 総務人事部の齋藤晃氏は、「いろいろな事情を持つ人たちがきちんと働ける会社にならないと、生き残って行けないのではないかという課題感があります」と語る。
開始当初は「メリハリのある働き方の推進」という目的を掲げ、在宅勤務やモバイルワークの推進、時間外労働の朝型へのシフト、積極的な休暇取得という大きく3つの施策からスタート。2年前からはフレックス制が導入され、子育て中の女性も柔軟に仕事時間を選べるようになっているという。
こうして4年を経たNTT東日本の働き方改革だが、休暇取得や時間外労働の削減といった面で大きな成果を挙げている。齋藤氏は、「管理職も年休をほぼ完全に消化するようになったほか、現場の意識改革も進んだので、時間外労働はかなり改善しました。とにかく長時間労働をする人自体が4年前に比べて激減しています」と成果を語る。
オフィスに分身を置けば、できないことは意外とない
一方で課題になっているのは、テレワークの浸透だ。現状、テレワークを実施しているのはグループ全体の1%に過ぎず、実施しているのも月に1回程度だという。NTT東日本 総務人事部 ダイバーシティ推進室の吉宗歩氏は、「弊社の在宅勤務自体がもともと育児や子育て、介護のためにスタートしているので、特定の社員に向けた制度という意識をなかなか払拭できないのが実際のところです。社員向けアンケートをとっても、男性や若い人は対象じゃないと思っているようです」と語る。
通信サービスや設備の運用・保守という同社の業態は、現場の声や問い合わせを受けるセクションが多いため、対面文化が強いという。「品質の高い仕事を実現するために、なぜ在宅やサテライトが必要なのか、対面文化の強い社員の多くが納得しきれていないのだと思います」と吉宗氏は語る。こうした中、1つの選択肢として、昨年から同社のテレワークで導入されているのがオリィ研究所の分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」だ。
カメラ・マイク・スピーカーを搭載したOriHimeは、人工知能ではなく、あくまでユーザーの代わりにリモートで操作できる分身ロボット。もともとは病気で体を動かすのが不自由な人たち向けに開発されていたロボットだが、NTT東日本ではオフィスでのコミュニケーション手段として利用している。「OriHimeをオフィスに置いておけば、在宅でありながら、社内の人を呼び出したり、返事もできるし、職場の様子を見ることも可能。小型なのでそのまま会議や研修に連れて行ってもOKです」(吉宗氏)。音も映像もOriHimeが受信しているので、在宅勤務の疎外感やオフィスの情報ロスも薄れるという。「在宅勤務だとデータ集計やメール対応、資料作成といった仕事が中心になりますが、OriHimeをつないでおけば今まで会社でしかできなかった打ち合わせや会議、研修にも参加できるので、できないことは意外とないんですよ」と吉宗氏は語る。
OriHime導入のきっかけは、やはり子育て中の女性が会議に参加できなかったこと。「半信半疑でトライアル導入したら、家の中や本人が映り込まないので、女性から意外と評判がよかったんです」と吉宗氏は語る。現在、導入したOriHimeは東日本全域で貸し出しており、各拠点のさまざまな部署、外出の多い管理職などにも試してもらっているとのこと。もちろん社内外で驚かれるが、「いろいろな人に使ってもらうことがとにかく重要。うちの会社もこんなこと始めたんだという気づきや発想の転換をうながせる仕掛けになればいい」(吉宗氏)とのことで、地道に使い方をアピールしていくという。
会社概要
NTT東日本は、最先端のICT技術を活かした新たなサービスの開発・販売、通信回線や基幹ネットワークの構築・運用、グループの事業戦略立案・推進を通して、ビジネス・ライフスタイルの革新、安心・安全な社会を実現します。
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