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売れるかどうかは、アマゾンだって分からない、Echoなど責任者来日

2018年08月06日 12時05分更新

 米国のAmazon.com社(以下アマゾン)で、スマートデバイスとそれを使ったサービスを担当するデイブ・リンプSVP(シニア・バイスプレジデント)が来日。8月1日にメディア関係者の質問に答えた。

 アマゾンが全世界に向けて提供するデバイスとサービスの開発/販売/運用などを統括する立場だ。「Kindle」「FireTV Stick」「Echo」「ダッシュボタン」「Amazon AppStore」など、対象は多岐にわたる。アマゾンには2010年3月に入社。過去にはPalmで最高戦略責任者(CSO)や、Apple Computerで北南米市場向けのPowerBook事業ディレクターを担当した経歴も持つそうだ。

 国内チームとのミーティングやコンテンツプロバイダーとの交渉のため、年に数度日本に訪れており、今回の来日は昨年11月に国内で開催されたAlexa対応のスマートスピーカー「Echo」の発表会以来だという。

製品の販売価格は、ほぼ原価だ

 リンプ氏は自らの部隊を“アマゾン社内の家電メーカー”と位置づけている。一方で 「サービスととてもタイトに紐づいた製品のみを開発する」と語り、ハードを開発して販売する「伝統的な家電メーカー」とは異なるとする。

 実際アマゾンの開発するハードはサービス抜きには語れない。

 これは同社のビジネス戦略によるところが大きい。Amazonプライムを始めとした有料の会員サービスを深く利用してもらうことによって、ビジネスの幅を広げる。その助けになるハードを開発する戦略だ。そのために長期間、継続してサービスを利用してもらうことが求められる。

リンプ 「われわれは“買うこと”ではなく“使うこと”によってユーザーにお金を払ってもらいたいと考えています。これは、デバイスを常により良いものにしていく“動機づけ”にもなるビジネスモデルです。1、2年の範囲でハードをアップグレードしてもらいながら、5年、10年と使ってもらえるサービスを作ろうとしています」

 アマゾンのハードは内容を考えれば、恐ろしいほど安価だ。例えばEcho dotやFireTV Stickなどは(タイミングによっては)数千円で買えるデバイスだし、ほかの製品も非常に安価だ。ここまで安くできる理由はとてもシンプルで、「製品の販売価格は、製造コストとほぼ同じと考えていい」(リンプ氏)ためだ。

リンプ 「製品開発では、最初に機能。つまりユーザーが何を愛してくれるかを検討します。その結果、作るべきデバイスの姿が決まり、これを製造するための実コストがそのまま販売価格になるという流れです」

 市場や競合製品などを参考にしながら、ターゲットや仕様を決め、商品を企画する一般企業の開発方法やプライシングポリシーに比べると非常にシンプルなやり方だ。そしてかなり異質であり、強い方法と言えそうだ。

アマゾンだから常に成功できるわけではない

 アマゾンは、約10年前に電子書籍端末の「Kindle」をリリース。その後もAlexaを搭載した「Echo」などでヒットを飛ばしてきた。これらの製品は、市場にまだ存在しなかった製品カテゴリーをゼロから作った華々しい成功例である。しかし実際には、アマゾンは多くの失敗も経験している。

リンプ 「実験はやって見なければ結果が分からない。しかしそのリスクが成功体験につながることを常に期待している」

 取材の中でリンプ氏は、過去の3つの実験について語った。第1にKindleにWAN(モバイル回線)を入れ、電子書籍ストアをビルトインにしたこと。第2にマイク付きのホームスピーカーを開発したこと。最後が、4台のコーナーカメラを搭載してユーザーの顔の位置を認識し、独自の機能を提供したスマートフォンだ。

リンプ 「いずれもどんな結果をもたらすか分からない状態で前へ踏み出した製品です。われわれができるのは常にインプットの部分だけ。常に最高のインプットを製品に反映したいという想いで開発を続けています。(例に挙げた)3つのうち、2つは成功したが、1つは共感を得られなかった。最も重要なレッスンはトライし続けること。敢えてリスクを取ることなのです。そして顧客の立場に立ってそれを継続すること。100%の成功を得ることはできませんが、この姿勢が成功を加速するのです」

 “苦労して出した製品”がユーザーに支持されるどうかは、“アマゾンでも予測できない”ということだ。リンプ氏は「インプット」「アウトプット」という言葉で表現するが、アマゾンがコントロールできるのは製品に対する品質や機能(インプット)の部分だけで、製品が市場やユーザーに対してどんな結果を生むか(アウトプット)は制御できない。

 唯一できることは顧客の立場で考え、仮説を立て、改善していくこと。その取り組みを通じて製品やサービスを長く使ってもらう。結果はその先に付いてくる。ただ、いわゆるプロダクトアウト(できるから作る)の製品ではなく、マーケットの隠れたユーザーニーズをくみとってチャンスに賭けるという点で、アップルなどと共通する面があるかもしれない。「自分たちができるインプットに注力するしかない」というリンプ氏の言葉には、アマゾンのスマート製品を手掛けてきたからこそ感じる重みがある。

世界で星占いを気にするのは日本人ぐらい?

 アマゾンのデバイスは、サービスと紐づいている点が特徴だ。そのカギを握るのが、ローカラーズだ。

 本の内容を表示するという非常にシンプルな機能しか提供していないように見えるKindleですら地域を意識しなければ成り立たない。例えば海外におけるKindleは、圧倒的に文字を読むためのデバイスとして認識されている。米国では、グラフィックノベル(アメコミ)を読む端末としてはほとんど用いられない。

 しかし日本では圧倒的にマンガを読めない電子書籍端末というのはあり得ない(日本向けに記録容量の多いマンガモデルなども用意している)。こうした意見を聞き、快適に読むためには重要なページめくりの速度を早くするため、画面の反応を改善したという。

 またパートナー戦略も重要となる。FireTVで再生される動画コンテンツは、日本ではアニメ、そしてJリーグなど国内スポーツの人気が高い。音楽についても、J-POPなど日本ならではのコンテンツの人気が高い。こうした国別の状況を取り入れ、DAZNやdヒッツといったその国ならではのサービスと連携することを重視してきた。

 音声を使って情報を得るEchoでは、さらに地域への最適化が必要となる。例えば相撲の結果など日本でなければあまり関心を持たれないものもあるが、それだけでなく交通情報や星占いなど日本特有のニーズが際立っているものもある(海外で星占いはほとんど顧みられないという)。

Alexaの人格は国ごとに異なる、くだらない冗談も時には必要

 面白い視点に思えたのが、なぜスマートスピーカーに「ユーモア」を入れるかだ。出席した記者の一人が「自宅のAlexaが突然“およびでない”と言うようになって驚いた」というエピソードを披露。これに対してリンプ氏はスマートスピーカーは「興味がわく存在でなければならない」とコメントした。そして国ごとに異なる「人格を持つべきだ」という持論を述べた。

リンプ 「(興味がわく存在にするためには)Alexa自体の知性を上げるという側面だけでなく、時折ファニーなことを言わせることも必要でしょう。ユーモアのセンスが大事です。人は意見があるから議論ができ、クリエイティブになれる。参加したディナーパーティも、面白い意見が出なければ、退屈な時間に終わります。アマゾンは地域ごとに開発グループを作り、人員を配置していますが、考え方やユーモアのセンスは国ごとに異なるため、その国の人がやった方がいい。意見やユーモアをうまく表現できるよう、その国のチームが責任を持って取り組んでいます」

 そのためにAlexaの個性を表現するための質問と回答も用意している。

 一例として挙げたのは「お気に入りのビールは何か」という質問。日本通であるリンプ氏自身の好みは「やっぱりエビス」とのことだが、Alexaの回答は「えっ」と思わず突っ込みたくなるほど意外なもの。実際に何が好きかを知りたい人は、EchoやAlexaデバイスに直接話しかけて確認してほしい。

「読む、観る、聞く」のその次は?

 Kindleは読む、FireTVは観る、そしてEchoは声に反応するデバイスだった。次にアマゾンが注力するのは「見る」だ。昨年秋に「AWS DeepLenz」を発表して話題を集めたが、今年に入りRingを買収。ほかにワイヤレス防犯カメラのBlinkといった企業も買収している。Ringは、モーションセンサーや動画ストリーミング機能も備えたドアベルシステム(Video Dorebell)を手掛ける企業。スマートホームのうち、特にセキュリティの分野に力を入れ始めた。

リンプ 「アマゾンはRingという企業を買収しました。コミュニティを安全にするのがミッションで、ドアベルカメラが主力の企業です。人々は近所のセキュリティに心を配っている。高齢化が進めば特にその傾向が進むでしょう。安全なドアベルは、アマゾンが配送したパッケージが盗難にあうのを防ぐなど、パッケージ配送にも役立ちます」

 既存製品の日本展開や機能拡張についても気になるところだ。

 海外では実現されているAlexaとFireTVの連携が、日本で実現するのはいつかという問いに対しては「日本向けでも遠くない将来をお待ちください(Stay Tune)」とコメント。開発自体は進んでいるとした。

 ちなみにアマゾンは海外で「FireTV Cube」というデバイスを投入済み。これは赤外線やHDMIコントロール機能と連携し、声でテレビやほかのAV機器を操作できるリモコンで、FireTV機能も内蔵する。さらにテレビをオフにした状態でも、スマートスピーカーとして利用できる面白い製品だ。リンプ氏は「まだ発売して6週間なので、顧客の反応は伝えにくいが、成功することを期待している」とコメントした。日本での販売もぜひ期待したいデバイスである。

■関連サイト

スマホで音楽を聴くは、オールドファッションになるのか?

 スマートスピーカーが先行して普及している北米市場では、すでに様々な利用方法が出ており、特定の使い方ではなく様々な使い方が水平方向に広がり、平準化しているとのことだが、やはり人気が高いのは音楽再生だ。スマートフォンとワイヤレススピーカーを組み合わせた再生が急速に落ち込み、ペアリングがいらず、声だけで操作できる利便性が受けている。日本でも「ながら再生」しやすいクラシックやジャズを改めて聴く機会が増えたという声が集まっているという。

 もう一つはスマートホームで、対応機器は数千台あり、すでに1万人を超える人が、照明のオン/オフ、監視カメラ、スマートロック、空気清浄機などの操作に使っているという。ここでもスマートフォンの存在感は失われつつある。支持される理由は利便性だ。ただ照明をつけるためだけに、ポケットからスマホを取り出して、パスコードを打ち込み、アプリを探して、電気を付けたい部屋を選ぶという操作はバカバカしい。

 EchoからAlexaを呼び出せば「アレクサ、部屋の電気付けて」というだけで済む。

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