地方の交通課題を解決するコガソフトウェアのIoT事例
岡山県玉野市のデマンド交通を支えるAWS+SORACOM
すでに記事化も追いつかない3ヶ月ペースの開催でありながら、毎回粒ぞろいのセッションで楽しませてくれるX-Tech JAWS。灼熱の五反田で開催された第4回のX-Tech JAWSの最初のセッションは日本版GPSと呼ばれる準天頂衛星システム「みちびき」を採用したデマンドバスの運行システムのお話しだ。
デマンドバス・タクシーの運行を支援する「孝行デマンドバス」
Interop併催のイベントでX-Techファウンダーの吉江瞬さんに登壇依頼されたというコガソフトウェアの野田 智也さん。2000年に創業されたコガソフトウェアは、受託開発のほか、モビリティとヘルスケアをテーマにした自社ソフトを開発している。野田さんは、「準天頂衛星とAWSで日本の交通課題を解決する」というタイトルでオンデマンドバスの運行システムについてのセッションを行なった。
現在、日本には3つの交通課題がある。1つ目は高齢化によって運転免許を持っていない人が増えている点。特に地方はマイカー社会なので、代替となる交通手段が必要になる。また、過疎化により、地方の路線バスが赤字化してしまうのも問題。路線バスの場合、乗客の有無に関わらず、定時運行しなければならないため、乗客のいない「空気バス」になってしまうこともある。「採算のとれないバスは廃止が検討され、いわゆる交通難民や買い物難民といった人たちが増えるという問題が顕在化する」(野田さん)。さらにドライバーの人手不足や高齢化も深刻で、有効求人倍率も急激に上がっている状況だ。
こうした課題の解決に寄与するのが「デマンド交通」になる。「路線バスとタクシーの間」と説明されるデマンドバスは、予約前提で同じ行き先の乗客が乗りあうことで効率よい運行が可能になる。予約が締め切られた段階で経路が決められるため、行き先の自由度は低いが、そのかわり運賃も安く抑えることができる。
コガソフトウェアの「孝行デマンドバス」は、こうしたデマンドバスやタクシーの運用を一元管理サービスだ。オペレーター向けに電話やWebによる予約管理システムを提供するほか、最適な運行経路の決定、ドライバー向けの運行通知やナビゲーション、レポートなどのシステムも持っている。石川県七尾市、福島県いわき市、愛知県の春日井市、兵庫県たつの市など、すでに多くの地域で稼働実績がある。「デマンド交通は過疎地で利用されることが多いので、台数も少なく、普通はメモ書きやExcelの管理で間に合います。でも、規模が増えると、システムが必要になってきます」(野田氏)。1日で約200件の予約、車両10台という規模の運用事例もあるほか、病院送迎でも用いられているという。
たとえば、岡山県玉野市ではコミュニティバスの「シーバス」に接続される乗り合い型タクシーの「シータク」の運営を孝行デマンドバスで実現している。玉野市では、シーバスとシータクを乗り継ぐことで市街地まで行けるため、公共交通の人口カバー率99%を実現できるという。とはいえ、利用者が増えるとともに課題も顕在化しており、乗り継ぎの待ち時間が発生したり、岡山・玉野間を結ぶ特急バスの遅れも常態化していたため、バスの正確な位置や遅延状態を知りたいといったニーズがあったという。また、高齢者も多いため、スマホを使わずとも、誰でも利用できる情報アクセス手段も必要だった。
岡山県玉野市でバスロケーションシステムを試す
こうした課題を解決すべくコガソフトウェアは、準天頂衛星システム「みちびき」を活用したバスロケーションシステムを開発し、国土交通省の事業として玉野市で昨年から実証実験を行なっている。「日本版GPS」と言われるみちびきは、7機の人工衛星を用いることで、精度の高い位置情報を得ることができる日本の衛星測位システム。現在は4機まで打ち上げられており、オープンサービスの実証実験中というステータスだ。
システム概要としては、シーバス、シータクにデバイスを設置し、Webサイトや停留所近くの4つの施設に設置したデジタルサイネージに、バスの車両位置をリアルタイムで表示するというもの。車両にはみちびきの電波を受信できる「Covia Acty G1」にSORACOM Airを搭載。クラウドサービスとの連携を容易にするSORACOM FunnelでAWSのKinesis Streamにデータを流し込み、LambdaでAmazon S3に保存した。S3とDynamoDBには位置情報だけでなく、運行データや時刻表データ、停留所データなどを格納しており、運行情報はCloudFront経由でシングルページのWebサイトに公開しているという。
開発に関しては、サーバーレスアーキテクチャを採用。その背景について野田氏は、「開発期間が短かったので、なるべくサービスを組み合わせて作りたかった。あとは位置情報は5秒に1度来るので、高頻度のデータをスケールしてさばける仕組みが欲しかった」と語る。
実証実験のふりかえりとしては、「Androidアプリを作り慣れてなく、機器が位置情報を大量送信してしまった」「15台のデバイスを4ヶ月運用したが、機器の故障が1回あった」「想定テーブルが増えたため、DynamoDBが当初よりコストかかった」などが挙げられた。実証実験は3月は無事完了したが、玉野市は現在もシステムを継続的に利用しているという。
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