その会社にはその会社ならではの働き方がある。みんなの働き方改革・業務改善を追う連載「私たちの働き方カタログ」の第26回は、親子のお出かけ情報サイト「いこーよ」を運営しているアクトインディ。同社で労務を管理する村下優美氏に、コアタイムなしのフルフレックス制に移行した背景や自由な社風の管理について聞いた。
「何時に来ればいいですか?」と当たり前のように聞かれる
勤務時間帯を自由に決められるフレックス制が日本で解禁されたのは1980年台後半にさかのぼる。その後、みなし勤務制や裁量労働制などとともに日本企業に少しずつ普及し、現在はコアタイムを設けないフルフレックス制やスーパーフレックス制と呼ばれる勤務体系を導入している企業も増えてきた。今回取材したアクトインディもフルフレックス制へ移行し、すでに3年目を迎えている。
アクトインディが親子のお出かけ情報サイト「いこーよ」の事業をスタートしたのは、今から10年前の2008年から。当初は9時~18時と勤務時間が固定されていたが、2013年からはコアタイムありのフレックスタイム制に移行した。しかし、ディレクター、エンジニア、営業、編集者など担当業務が分化し、子育て比率も高くなったことで、多様な働き方が必要になってきた。アクトインディの村下優美氏は、「『次世代に価値を残すサービスを全社一丸で創っていこう』という方向性で事業を進めている中、コアタイムを守ることを目的にする今の働き方はそもそもおかしいのでは?という声が出てきました」と語る。
こうした声を受けて、同社では2015年8月にコアタイムを廃止。遅刻の概念すらない、フルフレックス制に移行した。あわせてリモート勤務の制度も用意し、スケジュールや所在の承認を得ておけば、出社自体も必須ではなくなったという。
すでに運用を始めて3年が経つが、制度はすっかり現場に定着した。チームのマネージャー承認のもと、おのおのが自分の働きたい時間で、働きたい場所で働いている。「自宅で朝5時から7時まで働いて、子どもを送って、11時に出社するという社員もいます。うちのエンジニアは朝も早いし、定時にきちんと帰ります」とのこと。
他社からの転職組はおおむねこのフルフレックス制度に驚かれるという。「私は入社時のオリエンテーションを担当しているのですが、だいたい『本当にコアタイムないんですか?』『時間どうすればいいんでしょうか?』と聞かれますね(笑)」(村下氏)とのことで、自分やチームが主導して仕事時間を決めることにとまどいがある。しかし、最終的には、「自由に働かせてもらえるなら、がんばります」というところに落ち着いてくるとのことだ。
社員で制度を考えれば、労務も自由を管理しやすくなる
とはいえ、導入はスムースだったわけではない。「フルフレックス制度は自己管理の要素が強くなるので、人によっては甘いんじゃない?という働き方も確かにありましたし、オフィスに誰もいなかったら電話番を誰がやるのみたいな問題もありました」と村下氏は語る。
そのため、まずは「会社全体の生産性向上のため」というフルフレックス制の目的をきちんと共有した。「自分の最適化ができても、周りの人の生産性を落とすのであれば、この制度の使い方は間違っているよねというコミュニケーションをとりました」(村下氏)とのことで、各チームで業務が回るよう、改善を続けながら調整を行なったという。また、「会社全体でお互い様、おかげさまの気持ちを持って業務を進めましょうと代表も繰り返しインプットしています」(村下氏)とのことで、トップからの意識付けも大きかったという。
コアタイムをなくし、リモートワークを取り入れている同社では、社員の経験がさまざまな場面で活かされている。「元美容院勤務の社員は、他の社員の髪を切ってますし(笑)、Webサイトを自分で運用している社員はそこで得たSEOの知識を会社でも活かしています」(村下氏)とのこと。また、福利厚生面では、社員誰でもお出かけに行くと「お出かけ手当」が支給される。子どもと遊びに行くと手当も出るが、子どもとのお出かけを扱っている同社の社員にとってみれば、生活でもあり、仕事にも役立つ。
さまざまな制約を取り払って、結局きちんとワークしている同社の事例を見ると、「制度ってそもそもなんだろう?」という疑問に突き当たる。遅刻がない同社で労務を担当する村下氏としても、1~2分の遅刻に目くじらを立てたり、遅延証明書を回収する必要もない。「社員でコミュニケーションしながら、こうやろうと決めていくと、なんだか制度も自然とよくなっています。全社員で目的を共有して、働きやすい環境を作っていくと、労務側も自由を管理しやすくなってますね」(村下氏)。
会社概要
「次世代に価値ある未来を創る」という思いで、子育て支援事業を柱としたサービスを展開。子育て層の8割が利用する、日本最大級の「子どもとお出かけ情報サイト『いこーよ』」などを運営。ネットやアプリで6万件以上の全国のお出かけ施設やイベント情報を閲覧できる。現在は、ネット事業にとどまらず子ども達に多様な体験を提供すべく、自社主催のイベントやツアーも多数開催している。
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