SAPは6月初めに開催した年次イベントで「SAP HANA Data Management Suite」を発表した。SAP、SAP以外のシステムにあるデータを自在に活用するためのデータ管理スイートで、インメモリデータベース技術「SAP HANA」の次のステップと位置付けている。SAP HANA Data Management Suiteを担当するプロダクトマーケティングトップのKen Tsai氏に話を聞いた。
SAP HANA Data Management Suiteが解決する顧客の課題とは?
SAP HANA Data Management Suiteは、「SAP HANA」、データパイプラインの「SAP Data Hub」、モデリング環境「SAP Enterprise Architecture Designer」、HadoopとSparkベースのビックデータクラウド「SAP Cloud Platform Big Data Services」の4製品で構成されるスイート。クラウド、オンプレミス、ハイブリッドで動かすことができる。Tsai氏は、SAPデータマネジメント担当バイスプレジデントとグローバルプロダクトマネジメントトップを務める。
――SAPがSAP HANA Data Managementを提供する背景について教えてください。顧客のどの問題を解決するのか?
Tsai氏:SAP HANAの発表から8年を迎えた。HANAはこれまでSAPアプリケーションのデータベースプラットフォームだった。だが、アプリケーションのデータやデータウェアハウスの文脈だけではなく、すべてのエンタープライズデータを活用する必要があり、エンドツーエンドのデータマネジメント機能が必要だと感じていた。
SAPは”インテリジェント・エンタープライズ”を打ち出している。これは、顧客が直面している様々な課題を解決できるものだが、インテリジェント・エンタープライズの実現にあたってはデータへのアクセスが必要だーーSAPだけではない。すべてのアプリケーションのデータにアクセスし、活用する必要がある。
課題のうち大きなものとして、マルチクラウド、技術の接続や連携、データの信頼性の3つが挙げられる。
最初のマルチクラウドでは、SAP顧客は平均して6~8種類のクラウドを利用している。AWS、Microsoft AzureなどのIaaSもあれば、SaaSも含まれる。これは複数のクラウド、オンプレミスなどにデータが分散していることを意味する。
2つ目は、企業はさまざまな技術を利用しており、接続が問題になっている。統合だけではなく、データの動きを追跡しなければならない。データは不必要に動かすべきではない。全てを中央のデータウェアハウスに集めるのは現実的ではない。全てをクラウドにという動きがあるが、これも不可能だ。
3つ目のデータの信頼性では、セキュリティに加えてガバナンスも必要だ。企業はGDPR遵守に迫られているが、規制だからというだけでなく、データを信頼できるのかは大きな問題だ。そのデータはどこから来たのか、誰が作成/変更したのか……。センサーからの情報など、様々な情報を元に重要な意思決定をしなければならない。データの信頼性は重要で、プロセス全体でデータのライフサイクルを管理しなければならない。
HANA Data Management Suiteは信頼性のあるデータを提供し、データを必要な時のみに動かすというインテリジェントな接続を実現し、クラウドの自由を顧客にもたらす。今はAWSを使っていても、Azureに動かしたいかもしれないし、オンプレミスに戻す必要が出てくるかもしれない。これをクラウドネイティブアーキテクチャとコンテナ技術を利用して実現する。
――なぜスイートにする必要があったのか?
スイートにすることで、共通のモデリング環境など一部の機能を共有し、エンドツーエンドでメリットを提供できる。SAPはERPを構築したが、会計、製造など様々なプロセスで情報を共有できるようにした。データ管理も同じで、メタデータとデータカタログのアプローチをとる。
2022年には、企業が使うべきデータの70%がファイアウォール外にあるとガートナーは予想している。サプライチェーンパートナーのデータ、センサーデータ、ソーシャルメディアデータなどだ。HANA Data Management Suiteのような製品が必要だ。
データの土台となるHANA Data Management Suite
――データ統合技術を専門とするベンダーと競合するものになるのでしょうか?
Tsai氏:たとえばInformaticaとは、EIM(エンタープライズ情報管理)では競合関係にある。HANA Data Managementに含まれるData Hubはデータのパイプラインやオーケストレーションエンジンとなり、任意のデータ統合ツールと相互運用して動く。ここでは補完、連携の関係になるだろう。
――SAPはERPなど業務アプリケーションベンダーとして展開してきた。HANAのローンチから分野を拡大していますが、SAPが向かう方向性はどこにあるのでしょうか?
Tsai氏:全てがクラウドに移行すると、ビジネスユーザーが使うのはアプリケーションだけになる。クラウドが進むとアプリケーションレイヤーが重要になり、SAPはここに大きく投資してきた。ここではクラウドはAzureやAWSだけを指しているのではなく、顧客が定義する統合クラウドになる。
HANAはSAPのアプリケーションを支えてきたが、HANA Data Management Suiteにより、バックエンドとのデータの接続性を提供する。今後は、オンプレミスの上のソフトウェアレイヤにコンテナ技術を利用して動かし、オンプレのデータセンターをクラウド環境のように動かすことができるようになるだろう。
SAPはインテリジェント・エンタープライズを進めていくが、HANA Data Management Suiteはデータの土台という役割を果たす。
――HANA Data Management Suiteの次のステップは?
Tsai氏:SAP Leonardoを用いたユースケースの提供を進める。ローンチに合わせて、ユースケースをIT側で11種、ビジネス側で2種SAPが用意し、Delitteも4種類提供するが、これを拡充していく。
技術側ではメタデータ管理の統合、ガバナンスなどを強化する。ユーザーインターフェイスでも、複数製品共通のユーザー体験などやりたいことがある。
価格も、SAPは(サブスクリプションではなく)従量課金を導入しているが、SAP Data Management Suiteでも完全なスイートとして、個別の製品として、あるいはAPIを1つ利用するだけと、さまざまな利用で顧客は使っただけ支払えば良いようにしたい。
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