2018年4月26日に開催された「SORACOM Technology Camp」に登壇したソラコム プリンシパルソフトウェアエンジニア 片山 暁雄氏は、グローバルSIMについて講演。日本向けSIMとの違いや料金体系はもちろん、海外でもシームレスに利用できるグローバルSIMの多彩な機能や使いどころをしっかり解説した。
日本向けとは異なるグローバルSIMとは?
キャリア網を利用するIoT向け通信サービスである「SORACOM Air for セルラー」は現在、日本向けとグローバル向けの2種類がある。前者の日本向けSIMは、NTTドコモの3G/LTE網を用いており、NTTドコモ対応のデバイスのほか、SIMフリーデバイスも利用できる。なお、5月にはKDDI網を採用したサービスも発表されている。
これに対して、今回のセッションの主役であるグローバルSIMはプランによって使える地域が異なっており、通信規格も2G/3Gになっている。「グローバル向けSIMではあるが、日本国内でも使えることはおさえていただければと思います」(片山氏)。料金に関しては、日本向けSIMでは通信量や速度、通信方向、時間帯などで異なるが、グローバルSIMは通信量と通信国によって決定するという。
グローバルSIMを利用するにはSIMフリーでローミング可能なのに加えて、日本国内ではNTTドコモの3G網、日本国外では現地キャリアに対応しているデバイスが必要となる。グローバル対応の認定デバイスも用意されており、シンプルなドングルやルーター、ゲートウェイ、チップなどさまざまな製品から選択できる。
なお、グローバルSIMの設定は、基本的にAPN設定とローミングの有効化だけ。日本から出荷する場合でも、わざわざ現地で異なる設定を行なう必要はないという。
気になるグローバルSIMの料金体系をおさらい
続いて気になるグローバルSIMのコストの話。まず初期費用としてかかるSIMの料金だが、ナノ/マイクロ/標準に切り分け可能な3 in 1と呼ばれるカード型SIMが1枚5ドル。最近は実装面積が小さく、温度・振動にも強いチップ型SIMも追加されているが、こちらは1枚6ドルだ。チップ型SIMは組み込み用途のため、3000枚というリール単位での購入が基本だが、同日の発表でサンプルで10枚単位での購入も可能になった。
基本料金に関しては、日本向けSIMとグローバルSIMは料金体系が異なっているほか、0.06ドル/1日の「Plan-01s」と0.4ドル/月の「Plan-01s Low Data Volume」という2つのプランが用意されている。後者は特に通信量が少ない用途に向けたプランになる。
基本料金はステータスによって異なる。まずSIMを購入し、コンソールに登録すると「準備完了(Ready)」というステータスになる。Ready状態では基本料金はかからないが、1年経過すると、1.8ドルがかかる。実際に通信を開始すると「使用中(Active)」「休止中(Inactive)」という状態になり、前述した0.06ドル/1日(Plan-01s)か、0.4ドル/月(Plan-01s Low Data Volume)の基本料金がかかる。「休止中(Inactive)」でも基本料金はかかるので、注意が必要。グローバルSIMにはさらに「利用開始待ち(Standby)」と「利用中断中(Suspend)」というステータスがある。
このようにさまざまなステータスが用意されているのは、機器への組み込みを前提としているからになる。たとえば、グローバルSIMを組み込んだ製品を工場で疎通確認し、出荷する際にはStandby状態でカウントをゼロにして、ユーザーが電源を入れて通信を開始したら自動的にActiveにできる。これにより、使っていないときのコストを安く抑えたり、エンドユーザーにフェアに請求するといった管理が可能になる。
通信を開始すると、データ通信料がかかってくるが、Plan-01sは国ごとの異なったMB単価なのに対し、Plan-01s Low Data Volumeは一律0.5ドル/MBになっている。ただ、Plan-01sは日本、中国、アメリカ、ヨーロッパ、オーストリア、ロシア、南米、東南アジアなどをカバーしているが、Plan-01s Low Data Volumeは現状ロシア、南米、東南アジアなど単価の高いところは外れているという。
ロケーションを意識しないでシステムを作れる
総じてグローバルSIMは、機器に組み込んで輸出して使うために、通信料を削減する仕組みが組み込まれている。加えて、組み込み前提のチップ型SIMは厳しい動作環境での利用も可能になっているという。サービスに関しては、日本と同じSORACOMの各種サービスを利用できる。ただし、コンソールやAPIのエンドポイントは異なっている。
グローバルSIMの事例も紹介された。たとえば、WhillのパーソナルモビリティにはPlan-01s Low Data VolumeのSIMが搭載されており、バッテリの残量や座面の位置などの情報を定期的に収集している。また、IHIは全世界にあるガスタービン発電プラントのメンテナンスをグローバルSIMを使ってリモートから行なっている。
日本の接続設備は東京リージョンにあるが、グローバルSIMの接続設備はAWSのフランクフルトリージョンにあるという。従来、SIMからVPCまでの閉域接続を提供するSORACOM Canalでは日本では東京リージョン、グローバルではフランクフルトリージョンにのみ接続していたが、最近のアップデートでは日本とグローバルのいずれのリージョンも選択できるようになった。ますますロケーションを意識せずに、グローバル向けのシステムを使えるようになったと言える。
グローバルSIMで提供されるSMSとSIMアプレットの活用法
グローバルSIMのみ提供される機能として、デバイスへのSMS送信機能が挙げられる。日本でもSMSは送れるが、グローバルSIMではAPI経由でSIM送信する形になる。「特徴的なのは自分の持っているアカウントのSIMにしか送れないこと。外部からよくわからないSMSは受け取らないのでセキュリティ的に安全」(片山氏)とのこと。また、デバイス間のSMS送受信のほか、デバイスからSORACOM Beam/Funnel/Harvestに送るという機能もある。
こうしたSMS送信はたとえば遠隔からSMSを用いてデバイスを起動させるといった用途に利用できる。また、デバイスに設定を送り込む時にもこのSMS機能が利用可能。SMSで設定を受信して、変更が完了したらSORACOM Beamで完了フラグを送信し、Webサーバー側で受け取るといったシステムも実現できるという。
デバイスへのSMS送信は0.005ドル/通ということで安価だが、デバイスからのSMS送信は0.4ドル/通になる。デバイス間の送受信はそれぞれに料金がかかるという。
さらにグローバルSIMには「SIMアプレット」というプログラムが搭載されており、ネットワークやIMEI、接続されている基地局、バッテリの残量などの情報(Local Info)をリモートで取得できる。「デバイスでしか取得できない情報を、API経由で取得できる」とのことで、グローバルのデバイス管理に最適だ。
BIP(Bearer Independent Protocol)というプロトコルに対応する必要があれば、アプリケーションを別途インストールせずともレポートを送信できるため、「デバイスがどの国にあるか、おおざっぱな位置を把握できる」(片山氏)とのこと。現状、SORACOM対応のデバイスではWio 3GやUC-20Gなどが対応しており、取得のためのSMS送信料(0.005円)も必要になる。
SIMにはプロセッサやメモリなどのほか、Javaも載っているため、Java Cardの規格に則ったSIMアプレットを開発できる。プロセッサが非力なので複雑な処理はできないが、定義されたメソッドを用いてデータを取得したり、HTTPで通信するといったことが可能だという。「Javaアプレットというあまりよい印象を持ってない方も多いと思いますが、Java Cardの規格に則ることでデバイスにセキュアにプログラムを組み込める。将来的にはお客様にSIMアプレットを開発して、ユニークなソリューションを開発できるようにしたい」と片山氏は語る。
同一設定でどこでも利用できるグローバルSIMの機能と使いどころについてしっかり学べたセッション。単に海外でも通信できるというだけでなく、組み込み用途のチップ型が提供されていたり、テストや現地での開封を前提にさまざまな料金体系や導入の手間を最低限に下げる工夫などが用意されていたり、いろいろな工夫が盛り込まれていると感じられた。
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