IoTでこれからの暮らしをリ・デザインすることができるのか――2017年に開催された「ギフトショー」の会場で、パソコン工房、蔦屋家電の2社が登場し、商材としてのIoTを議題としたセッションの模様をお届けする。
IoT商材としていくつかの商品が登場している。ASCIIに掲載される記事の中でも、「スマホで操作がカンタンに」「スマホがモノの頭脳に」「モノからデータを送ったり、複数端末で1製品を使えるように」といったIoT関連のバズワードとしてある。
とはいえこのような製品評価をするのは、あくまでアーリーアダプター層が中心。この先IoTが一般消費者に認知される商品となるためにはどうすればいいのか? メーカーも含め、多くの関係者がじつは課題と感じている。
また、IoTはソフトウェアだけでなく、ハードウェアが含まれる。それだけに製品が誕生するまでの時間的な制約などがあることも確かだ。そこで多くの消費者に直接対面するショップを運営する2社から、IoTが広く利用される商材にとなっていくためにはどんな要素が必要となるのか、パネルディスカッションの中で議論を戦わせてもらった。
IoTでアーリーマジョリティ層獲得に挑む新店舗を開店したパソコン工房
パソコン工房は、株式会社ユニットコムが展開するパソコン専門店だ。東京・秋葉原、大阪・日本橋といった電気街だけでなく、全国に73店舗を展開し、法人営業窓口も持っている。
パソコン専門店だけに顧客のITリテラシーが高いことが特徴で、アーリーアダプターに該当する来店者が多い。「だが、店としてはアーリーアダプターにとどまらず、アーリーマジョリティをどう獲得するのかが大きな課題となっている」とユニットコムの杉山真一氏は話す。
2017年7月28日には秋葉原に新店舗『パソコン工房 AKIBA STARTUP』をオープンした。VR、IoTなど最新の機器、革命的な製品、店舗では体験が難しいクラウドの体験など、顧客と新しい接点を作っていくことを狙った店舗だ。この店舗をオープンした狙いは以下の通りだ。
「IoTは重要なキーワードではありますが、本来、IoTとは手段であって目的ではありません。IoT機器としてカテゴライズされている商品を販売していくために、どう目的を提案していくのかを取り組むための店舗でもあります。アーリーアダプターの先にいるアーリーマジョリティ層を獲得していくことがミッションとなっています。新しいカテゴリーの商品を最初に購入するイノベーター層は、来店せず、興味がある商品なら購入する層です。
その先にいるアーリーマジョリティ層を獲得するために必要となる要素はどんなことなのか。これは我々店舗だけでなく、メーカーの皆さんにとっても共通の課題のようで、『どうすればイノベーター層の先にいるアーリーマジョリティを獲得できるだろう?』という相談をもらうことも多くなっています」
EC時代の家電店狙い開店した二子玉川 蔦屋家電
同じく「店舗でIoT機器を販売する」という部分展開はありながら、まったく異なる客層を想定するのが『二子玉川 蔦屋家電』だ。
「2015年に、東京の世田谷に二子玉川 蔦屋家電をオープンしました。お客様にはアーリーアダプターもいらっしゃいますが、そうではないお客様がメインとなっています」と二子玉川 蔦屋家電(以下、蔦屋家電)店長の大河内晋吾氏は話す。
二子玉川 蔦屋家電を運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)は、TSUTAYA、共通ポイント「Tポイント」などを展開する企業として認知されているが、大河内氏は「CCCは企画会社です」と語る。
TSUTAYAは1983年に創業し、全国に約1400店を展開。最近では書籍の取り扱いを強化している。だが、書籍・雑誌といういわゆる書店事業は、ECの台頭でリアル店舗は厳しい。
「我々が生業とするのは、プラットフォームイノベーションです。実は日本と同様にECでの書籍販売が台頭している米国では、新しい独立系の書店が次々にオープンしています。ネット時代の新しい書店です。我々がネット時代の書店とは何かを考えて開店したのが、『代官山 蔦屋書店』です。従来の書店とは異なり、ライフスタイル提案するスペースという位置づけです。
これは創業期から追求してきた『生活提案』の考えのもと、従来の流通業界の視点である書店という区分とは異なる、徹底的に顧客目線で作った店舗になります。まるで家にいるような、ネットでは体感できない居心地を追求しました。その結果、代官山 蔦屋書店には大勢のお客様にご支持いただいています」
現在では代官山以外に、湘南、枚方、柏の葉などに同様のコンセプトの店舗をオープンし、イベントによる集客など体感型の店舗として定着している。
そんな中、書店の次に注目したのがやはりECが台頭する家電だった。
「書店の次にECで買い物をする業態ということで、家電販売のプラットフォームにイノベーションを起こせるのではと二子玉川 蔦屋家電をオープンしました。実際にオープンしてみると、家電は生活に大きな影響を与えている、テクノロジーが人々の生活を変えていく力を持っていることを実感しました。本とも相性がよく、家電製品の入り口に本、雑貨を置いてモノではなく、コトを軸とした提案を行なっています。イベントスペースではメーカーが仕掛けるイベントも活発に開催し、平日でも1万8000人のお客様がいらっしゃいます」
得意分野を活かしIoTをどう売っていくのか?
ユニットコム、蔦屋家電それぞれの店舗の特徴を聞いたところで、実際にIoTを販売していくためにどう得意分野を活かしていくのかについても聞いた。
ユニットコムの杉山氏は、「便利です、面白いですでは、顧客接点では通用しません」と断言する。
「5年、10年前の秋葉原では、メーカーが用意したものを並べるだけで値札をつけなくても商品を買っていってくました。しかし、現在では用途・目的をはっきり示さなければモノが売れない時代になっています。我々もモノ売りから、コト売りへならなければならないことを実感しています」
現在は、「モノ(製品)×コト(サービス)」として、顧客ニーズに合わせた具体的な用途提案を実現した売り場作り、サービスの提供実現を進めている。
「秋葉原に来るのはリテラシーの高いお客さんが多いですが、地方の店舗にはリテラシーが高くないお客様もいらっしゃいます。IoTだけでなく、パソコンについても、現在はゲームをプレイするため、絵を描くため、セキュリティー対策といった『こんなことができます』という使い方を紹介する導線の中でモノを展示して紹介するようになっています」とパソコン専門店でも、モノ×コトを紹介することが必要だと杉山氏は話す。
このコト売りへの変化が必要となっているという点については、CCCの大河内氏も、「抱えている課題は一緒」だという。
杉山氏はIoT 製品が受け入れられたケースとして、スマートロック製品の例をあげる。「複数の人が出入りする倉庫があり、鍵の受け渡しが面倒という声があがっていました。スマートロックは、鍵の受け渡しをすることなく、倉庫を開け閉めすることができるので、そこに合致して、是非、導入したいという声があがりました」
IoTを前面に打ち出すのではなく、課題を解決するものとして製品をアピールすることで、購買につながる。
一方CCCは購買データベースをもっているが、「これはIoTに限りませんが、データベースを愚直に分析し続けることが必要です。また、データベースを読み解くことが必要になりますが、その際に大きな力となるのが雑誌です。雑誌の特集は、『必要なもの』『どういう暮らしをしたいのか』を知るきっかけとして有力です」と書籍・雑誌を店舗に置いていることが大きな強みとなっていることを明らかにした。
データベースを使ったマーケティング例として、二子玉川 蔦屋家電のリピート顧客の例では、50代・世田谷区に居住する女性は、購買実績がある製品から「家族と仲が良い」「ホームパーティーを開催している」といった傾向が見える。そこから、バーミキュラの炊飯器のターゲットに最適という分析結果が出た。デザイン性が高いだけでなく、新しい生活シーンを想起させる製品として評価するという分析結果から、製品を薦めていく。製品というモノではなく、その製品を持つことで実現する生活シーンまで想定してアピールしていく。
「バーミキュラ炊飯器はIoT製品ではないが、IoTも同様の考え方でアピールしていくことを想定している」
また、立地も重要で二子玉川は楽天の本社など小さな子供を持つ世代のオフィスがある。そのため知育玩具の売れ行きは好調だ。スマホなどと連携したIoT機器である知育玩具だからというよりも、教育に関心の高い親の心に響く商品が人気を集めている。
IoT市場のすそ野を広げる意味でも、女性層獲得が鍵
IoTは開発されたばかりの製品も多いために、通常の製品仕入れとは異なる情報網が不可欠となる。そこで商品探しについては、2社ともに「日本だけでなく、全世界にアンテナを広げて商品探しをしています」と口をそろえる。
アーリーアダプターが多いユニットコムでは、「PSEなど、国内の法令に準拠したものを扱うようにしています」と話す。IoT機器は医療用などもあるだけに、海外製であっても日本の方に準拠しているのかチェックが必要になるという。
蔦屋家電はグループ内の調達部門に加え、店舗のコンシェルジュと協力して導入を進める。店頭で顧客の声を反映して導入をはかる。
なお今後、IoT市場を拡大するキーとなる点についても、両社とも「女性への普及が鍵」と共通している。
ユニットコムの杉山氏は「IoT市場のすそ野を広げる意味でも、女性層獲得が鍵」と分析。蔦屋家電の大河内氏は、「LGの衣類リフレッシュ機LG Stylerのように、新しい商材が登場してきている」と女性獲得につながる新しい製品も登場してきていると指摘する。
最後にIoTの将来についても聞いた。杉山氏は、「日本語対応のものが出そろうことで個人的には音声認識デバイスが本格的に普及するのではないかと考えるので、その後押しをしていきたい」と指摘。
さらに、秋葉原に開店したAKIBA STARTUPは、IoT・VRなどの新しいジャンルの商材、クラウドファンディングを中心としたウェブサイトで紹介されている商品に触れることができるタッチポイントとしての役割を持つ。
「スタートアップ企業にとって大きな悩みの1つ、販路をどう広げるのか? についてそれを実践する場として提供していきます」と新しい機器を提供する企業と共に拡大していく店舗となることを目指している。
蔦屋家電の大河内氏は、「IoTの将来像がどうなるのかについては逆に教えてほしいくらいですが(笑)、二子玉川 蔦屋家電という店としてはプレミア(アクティブなシニア)層、ファミリー層、ワーカー層の3つがターゲットです。この3つのターゲットは自分の生活をよりよくするための製品とともに、ギフト製品をよく購入する傾向があります。自分の生活と共に、自分以外の他者が喜ぶ製品を選択する傾向があります」と蔦屋家電を訪れる顧客の傾向を分析する。
こうした傾向をもとに、「店舗に来るお客様と相性がよい、新しい製品を常に探し出して提供していきたいと思います」と話す。
IoT市場は始まったばかり。今後、この2つの店舗がどのようなIoT商材を、どのように販売していくのかに注目していきたい。
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