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マラリア研究用血球細胞/再生医療/京都大学発

70年間新薬が開発されないマラリア研究を塗り替える幼若赤血球様細胞作成

2018年05月17日 07時00分更新

先端領域での国内スタートアップは数々ある。ライフサイエンスとテクノロジーが交差する現在において、未踏に挑む国内HealthTechスタートアップを紹介する。

マラリア等感染症研究を加速するため
高難度な再生医療技術で血球様細胞を提供

 新興国での感染症(三日熱マラリア)は培養法がないために、新薬開発が進んでいないものも多い。WHOも、2030年までにアジア地域からのマラリア撲滅を目指している。

 東南アジア・中南米でまだまだ発症が多い「三日熱マラリア」は、現代であっても約70年以上前に発見されたプリマキンという薬しかなく、副作用問題・薬剤耐性から未充足ニーズが世界的に高い。

 三日熱マラリアを体内から殺せる薬はプリマキンだけだが、特定の遺伝子疾患患者(G6PD)の場合副作用として溶血が起こり、赤血球が破壊されてしまう。撲滅するには地域のマラリア虫+ヒトの体内に入るマラリア虫の双方をなくさなければいけないが、誰にでも使える薬は現状存在しない。新薬が出ない背景には、研究開発においては赤血球になる直前の特殊な血球(網状赤血球)が必要とされており、その試料入手の困難さある。

 これを解決するため、再生医療技術を活用し、マラリア研究に適した幼若赤血球様細胞製品を提供するスタートアップがMiCAN Technologies(マイキャン・テクノロジーズ)だ。

 マイキャン・テクノロジーズでは、ES/iPS細胞などの再生医療技術を用い研究用の特殊な血球の提供に焦点を当て、均一な調製、安価・安定的な生産に対する技術開発を行なっている。

 2015年からは京都大学・長崎大学と共同でマラリア研究用血球細胞の開発を行なってきた。人工的な赤血球様細胞へのマラリア原虫の侵入を確認しており、すでに数研究室分の必要細胞量の供給体制を構築、さらに原価率を商業ベースまで削減している。2018年には試作品(有償)を複数の国内外研究機関に提供予定だ。

 出荷先・エンドユーザーとなるのは国内外の血液疾患研究者・研究機関・製薬会社。細胞材料は京都大学との共同研究の成果を利用し、加工・製造をマイキャン・京都桂研究所(中小機構 京大桂インキュベーションセンター)で行なう。

 市場性としては、マラリア薬・ワクチン開発に年間580億円(全世界・殺虫剤・蚊帳含まず)もの研究費がつぎ込まれているので、その2-4%売上高10-20億円を目指すという。

 代表の宮崎和雄氏は「今回提供し始める試作品を元に、さらにマラリアがより好む細胞に仕上げていき、世界のマラリア研究者に提供することで、社会的課題に貢献したいと考えています。マラリアが好む細胞を探索し、最適化していく過程、および再現よく細胞を大量に調製する際に、ITテクノロジーは必要不可欠であると考えます。この分野に詳しい専門家はおらず、IT分野の方から見ると、まさに職人的な開発を行なっています。方法・アイデアなどございましたらご指導くださると助かります」と述べる。

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