“明るさ”“軽やかさ”“きらびやかさ”をMQAで満喫
ここからはN5005で堪能したMQA音源を、K3003でも聴いてみる。楽曲も同じく「アルルの女組曲第2番 ファランドール」「カチューシャ」「マイ・フェイヴァリット・シングス」の3曲で、プレーヤーもソニー「NW-WM1A」を使用した。出力を要する、言うなれば“重量級”のN5005に対して、“中量級”のK3003は空間表現や瞬発力などにどんな違いが表れるだろうか。
まずはアルルの女から。この曲で驚いたのは意外と難しい“硬いピッコロ”を上手く出していることだ。特に感じるのが中間部の「三人の王の行進の主題」後、ファランドールの主題を短調で奏でる部分である。弦楽セクションがグワッと押し寄せる行進に対して、ファランドールを奏でるピッコロは決して大音量にならず、それでいて存在感が求められる。音が散りやすいエアリード楽器で芯のあるサウンドが必要な場面なのだが、カラヤンとベルリンフィルはここを見事に描き分けた。これには「流石!」と膝を叩いたのだが、よくよく考えるとイヤフォン(しかもポータブル!)でこの描き分けが鮮明にできるというのも素晴らしいことだ。
N5005でも挙げたが、バイオリン、チェロ、ホルン、トランペットなど、音色と響きが本当に華やかで煌びやかだ。ホールトーンは濃厚で、響きが非常に多い。直接音はもちろん、それ以上に間接音の美しさに聴き入る幸せを感じた。言うなれば「カラヤンの雰囲気」「カラヤンの作る空気」を浴びている感じだ。
ただ軽めの音色からか、ドイツ的・カラヤン的な威風堂々とした圧倒感はN5005の方があった。ラテンっぽさは存分に感じるが、カラヤンっぽさはN5005に一歩譲るといったところだ。また高音が少々耳につく傾向にあり、タンバリンは若干自己主張が強い。それでも速いパッセージの明瞭さには驚きで、まごついた発音に由来するフレージングの誤魔化しはなかった。
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ファランドールはN5005よりもラテン色が強くなった印象を受けた。響きの多さ、豊かさが噴出する感じだが、オーケストラの迫力や「カラヤンの雰囲気」といった面はN5005の方が上手だ |
続いて「TVアニメ『ガールズ&パンツァー』オリジナルサウンドトラック」から「カチューシャ」のボーカル入りバージョン。
一聴して感じたのは、上坂すみれさんの歌声が、N5005で聴いた時よりも近いこと。音の彫りが深くて息使いが色っぽく、イヤフォンで聴くとまるで耳元で囁かれているようだ。これはファンにはたまらない。金元寿子さんも“カチューシャらしい”頑張り感がある。カチューシャというキャラクター(楽曲ではない)は常に上坂さん演じるノンナに肩車してもらっている、幼さを残すもの。そんな年齢表現が声色から感じられる。これも息使いがN5005より明瞭に聴こえる影響だろう。アニソン、特に女性ヴォーカルを聴くならば、K3003の方が僕は好きだ。
グロッケンの粒立ち、コツンという打鍵感もN5005より金属質だった。全体的に音が軽やかなので、ガルパン本来の“女子高校生らしさ”“女の子っぽさ”を感じる。クラリネットの音色も吹奏楽っぽさ、中高生っぽさを盛り上げているように聴こえた。特にスネアの粒立ちは顕著で、N5005の音で感じた重たさからは軍歌の色を感じたのに対して、K3003の音からは民謡の色がにじみ出ていた。
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「カチューシャ」はN5005よりも楽曲の性格がにじみ出ている印象を受けた。N5005は軍歌の色が濃かったのに対して、K3003はロシア民謡の雰囲気が強かったというのが興味深い |
最後にMy Favorite Thingsはどうだろう。まず一聴しただけで、N5005とは明らか空気が違う。カラッとした雰囲気の中で演奏されるシンバルにもサックスにも、響きに色気がある。
解像感に関しては、N5005の方が上手で、シンバルやダブルベースはあちらの方がハッキリ聴こえる。加えてN5005を聴いた後にK3003を聴くと、若干のクセっぽさを感じる。誤解を恐れずに表現すると、ほんのわずかに音色のフィルターをかけたような感じだろうか。それが良いのだ、ダブルベースがガリガリと出てこないところに、僕は“音楽としての心地よさ”を感じた。
My Favorite Thingsで言いたいことは「とにかく雰囲気が良い」この一言に尽きる。音楽が醸し出す、身体の芯からワクワクする感覚、それがK3003の演奏にはある。ヒラリー・ハーンでも語ったが、解像度がどうだとか、音のバランスがこうだとか、そういう次元で語るのがバカらしくなる。これこそ“音楽を聴く”ということだと、僕は思う。
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「My Favorite Things」はモード・ジャズらしい、雰囲気の転換が鮮明だった。よく聴こえるN5005に対して、K3003は“よく描いている”のだ |
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