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「N5005」とは違う山

音楽の魅力は色あせない―― AKG「K3003」レビュー

1970年01月01日 09時00分更新

このイヤフォンからは“愉しい音楽”が鳴る

 では実際に音を聴いてみよう。リファレンスはN5005と同じく「Hotel California」「Waltz for Debby」ヒラリー・ハーン「バッハ ヴァイオリン協奏曲」の3曲で、プレーヤーも同じくQuestyle「QP2R」を使った。

 Hotel Californiaはまず、冒頭のアコギとエレベの位相がバッチリ合っているという点を確認できた。ハイブリッドモデルではこれが重要で、低音のパワー高音のキラメキが違和感無く同時に耳に届く。これには秘密があり、K3003とN5005はコイルとコンデンサーで帯域を調整するネットワーク回路を積んでいない。交流信号を流した時、コイルもコンデンサーも周波数減衰と同時に位相を変えるという動作をする。

 イヤフォンでもスピーカーでも、多帯域モデルの設計はこの位相差調節に四苦八苦するわけだが、AKGはそもそも位相差を生むネットワークパーツによる電気的な信号調整ではなく、サウンドフィルターなどで物理的に各ドライバーの音を調整している。もちろん調整は非常に敏感で困難だが、それにより帯域が重なるクロスオーバーを自然につなげつつ、上下の位相差を感じさせない独特のサウンドを手に入れたのである。

 そのほかN5005には一歩及ばないものの、ギターの爪弾き音は実にクリアで、充分にリアリティーを感じさせる。ボーカルも見通しが良く、ベースなどの低音とシンバルなどの高音が中音のボーカルを邪魔しない。そのシンバルもスティックで叩くカチッとした質感が非常に明瞭だ。

 何より外せないポイントが中音の色気である。これはラストのエレキギターソロが判りやすく、K3003独特の音色はちょっとN5005には出せない。確かに音のパワーはN5005に軍配が上がるし、低音もN5005の方がハッキリしている。でも“音楽”として愉しいのはどちらかと問われると、僕は迷わずK3003を推す。“雰囲気が良い”という特徴は、なかなかほかのモデルでは代え難い。

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「Hotel California」冒頭のギターがバッチリ揃って出てくる。秘密はネットワーク回路を使わない、AKG独自のサウンド設計術にある

 次はWaltz for Debby。まず感じたのはベースのポンポンというマルカート感で、これが実に心地よい。これは高音が明瞭というのがポイントで、上の帯域が心地よく抜けることで低音の弾みも生き生きとする。各帯域で特徴はあるが、どこか一ヵ所がわざとらしく強調されていたり、飛び出ていたり、あるいは物足りなかったりといった事がなく、低音・中音・高音の、音楽のピラミッドが良いバランスで出ている。そういう意味では基本に忠実だ。さすがは音楽の国オーストリアのブランド、サウンドバランスの良さにかけては一日の長がある。

 ピアノの雰囲気も実に良好で、ただ音が出ているというのではない、艶、生命感がある。音色はN5005よりも明るい感じで、高音が若干K3003の方がクッキリしているだろうか。ベースもピアノもドラムセットも、音楽へ引き込む音を出している。聴いていて気持ち良い、もっと聴きたくなる音で、スペック云々言うのが馬鹿馬鹿しいと感じた。

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「Waltz for Debby」はとにかく雰囲気が良い。細かいことは置いておいて、音楽を堪能しよう、そんなふうに音が語りかけてくるようだ

 ヒラリー・ハーンによるバッハのヴァイオリン協奏曲は、このイヤフォンの真骨頂を聴かせてくれる。まずチェンバロが実に軽やかなのが特徴だ。重くなるとバロックの雰囲気を壊すが、K3003は宮廷サロンなどで奏された室内楽の香りをしっかりと感じる。明るい音色というK3003のキャラクターとも合っており、全体的に音がきらびやかで、聴いていてワクワクする。

 それにしても、身悶えするようなバイオリンの艶がたまらない! K701に通じる上品さをキチンと備えている。僕がイメージする「AKGの音」はコレだ。ヒラリー・ハーンのフレージングも非常に軽やかで、そうかと思うと音楽の緊張感、ソロ部分の危うさ、フッと見せる儚さもしっかりと描き出す。これこそ音楽だ!

 エネルギーはN5005に譲るが、バイオリンの音色を堪能するなら、僕は絶対にK3003を選ぶ。ただし、大オーケストラなどはガッツリと鳴るN5005の方が愉しいかもしれない。

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ヒラリー・ハーンのバッハはN5005とは対象的で、バロックらしい軽やかさとヴァイオリンの艶が存分に愉しめる。僕にはこの音こそが、K701に通じる“AKGの音”だと感じる
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