製品の形としては「N40」などの流れをくむNシリーズのデザインだが、実際に着けてみた感触はダイナミックを含めて5つものドライバーを詰め込んだモデルだけあって、ハウジングが少し大きい。そのため耳が小さい人にはフィッティングの問題が出ることが予想される。実際僕の耳にもフィット感は今ひとつで、付属イヤーチップのサイズを変えてもしっくりくるものはなかった。もし購入を検討しているならば、試聴でフィッティングまで確かめることをオススメする。
音のパワーとしっかり出る高音が特徴
実際の音を確かめてみた。まずはリファレンスとして「Hotel California」「Waltz for Debby」、そしてヒラリー・ハーンの「バッハ:ヴァイオリン協奏曲」の3曲でチェック。プレーヤーはQuestyle「QP2R」を使用した。
最初のHotel Californiaで一番に感じたのは、上から下までガッツリと音が出てくるということだ。低音分厚くて音が太く、とにかくパワーがある。ボーカルなどは非常にエネルギッシュで、ど真ん中で定位が安定しているのが印象的だ。
それと同時に、発音ポイントが判りやすいとも感じた。ギターの撥弦はガリッとしており、細いスチール弦を使うアコギの高音と、エレキギターとの音の違いが鮮明で、音の細さ・太さの対比が非常に鮮やかだ。それにしてもこのイヤフォン、パワー全開な感じが凄い。音の高低や大小を問わず、どの音もとにかく出てくる。全域に渡ってとにかくフラットで、変なクセはほとんど感じない。
ただし、音の色気はちょっと薄い。確かに凄い音ではあるのだが、のめり込むような魅力というか魔力というか、そういったやみつきになるものはこのイヤフォンの音からは感じられない。強いて言うと、アコギの高音にAKGらしいキラメキを感じるといったところだ。
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機材の良し悪しを聴き分けるのに最適な「Hotel California」冒頭のギター。AKGのハイブリッドイヤフォンは、この音が上も下も位相がズレずに出てくるのが特徴だ。加えてN5005は音が分厚く、圧倒される迫力を感じる |
次はジャズの定番Waltz for Debby。Hotel Californiaと同じく、やはりどの音もしっかり出てくる。上から下まで極めて自然で隙がなく、ハイブリッドの泣き所であるクロスオーバーの不自然さも嫌味な感じもない。それがこのイヤフォンの大きな強みだと思った。
ダブルベースの弦を触る感じ、弾くニュアンスに、とても弾力を感じる。ポンポンというマルカートの音がとても心地良く、パワーとしなやかさの両立が必要なこの感覚は、バランスド・アーマチュアだけではなかなか出しにくい。音色に関しては、この曲を聴く限り傾向は少々ウェット目。特にスネアのブラシがしっとりしている。ピアノも実に骨太な音で、変に硬質な感じ、キンキンした感じはしない。それだけに鍵盤を叩く爪の音や弦を爪弾くカチッとした音との対比を、アクセント的に強く感じる。低音の弾みと高音のカリッとした質感の両立、これこそハイブリッドドライバーの大きな魅力のひとつだ。
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「Waltz for Debby」のダブルベースはポンポンと小気味の良いマルカートが印象的。音の粒も細かく、スネアのブラシ音や、ビル・エヴァンスがピアノの鍵盤を爪で叩くなどの細密な音が聴かれた |
ヒラリー・ハーンのバッハ ヴァイオリン協奏曲は、音の太さをさらに強烈に感じた。ヒラリー・ハーンのバイオリンはかなりの存在感で、それでいて悪目立ちせずにバックの楽団とうまく溶け込んでいる。音のパワーと太さがなせる技だ。嫌味なキンキン音もせず、いぶし銀的、あるいは艶消しマットブラック的な質感も魅力に感じた。
通奏低音のチェンバロと上のバイオリンが喧嘩しないのも特筆点である。あまりよろしくないハイブリッドタイプだと、こういう音色の違う高音と低音で位相がズレて聴いていられなくなるのだが、N5005ではそういったことはない。正しくAKGハイブリッドモデルの血統だ。
ただ、正直言うとこのイヤフォンの音は面白みに欠けると僕は感じる。特に顕著なのがダ・カーポ前のバイオリンソロだ。ヒラリー・ハーンのバイオリンはリファレンスとして様々な機器で何度も聴いているが、真に素晴らしいシステムではもっと強烈な倍音を伴った、身悶えする様な音がする。それが聴けるか否かが、僕がこの楽曲で最も重視している点だが、残念ながらN5005にはそれがない。この音の艶の有無が、N5005最大の泣き所だと僕は思う。
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バロックにしては非常にパワフルな演奏になったヒラリー・ハーンのバッハ。キンキンとした感じはなく、マットな質感の特徴的なサウンドだった |
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