社名と製品名の由来
――それではここからは話題を変えまして、「エルザ」というメーカー名はそもそもどんな意味なのか、うかがってもよろしいですか?
技術Aさん:もともと1980年代にドイツの「ELSA AG」という、ワークステーションやハイエンドコンピューター向けのグラフィックスボードを設計・製造・販売する会社がありまして、そのELSA AG社が日本国内でグラフィックスボードの販売を行なう上で、我々の親会社「テクノロジー・ジョイント」との合弁で1997年12月に設立されたのがエルザ ジャパンになります。ですので、当時のエルザ ジャパンは、今で言うNVIDIAのQuadroのようなハイエンドなグラフィックスボードのみを取り扱っている会社でした。
三好さん:「GLoria」っていう名前のボードでしたね。あとこれはトリビアなんですが、ドイツの会社なので英語読みのエルサではなく、ドイツ語読みでエル「ザ」と濁ります。
――では、次の話題に移りましょう。「S.A.C」とか「ST」とか、御社のグラフィックスボードのブランド名の由来を教えてください。
技術Aさん:まずS.A.Cは略称なんですが、一応製品パッケージにも小さくは入れているんですけども、「Silent Air Cooling」の略です。まあ要は静かだけど冷えるということで。静音性と冷却性を両立したモデルという意味ですね。
――なるほど。「ST」は?
三好さん:STはスタンダードの略でして、いわゆるFounders Edition(以下、FE)と同様の外排気のモデルだよということでスタンダード。その略でSTですね。どうしても外排気のモデルを求めるお客様が一定数いらっしゃっるんですよ。でも、FEって最初期にしか売られないので数が限られるんですけども、外排気モデルは長い期間で引き合いがあるんです。それにお応えする形で、同様の構造・寸法で、しっかり置き換えができるモデルとして開発したシリーズになります。ワークステーション用途では、STを望むお客様が多いですね。静音性よりも確実な冷却を求めるような使い方をされる場合ですね。
――「確実な冷却」というと、S.A.Cモデルのほうが良さそうなイメージでした。
技術Aさん:三好の説明を補足させていただきますと、「確実な冷却」というよりも、メーカー製のコンピューターの場合ですと、エアフローの設計を外排気のグラフィックスボードを載せることを前提に作られていることが多いので、S.A.Cだと内排気なのでそのエアフローを乱してしまう可能性があるんですね。なので、いわゆる外排気モデルと同じデザインにしております。
高品質の基準と検査スキームはQuadroで培われた
――御社はGeForceのほかに、Quadroも販売してますよね。そのあたりを詳しくお聞かせください。
技術Aさん:もともとNVIDIA社が初代Quadroを設計・製造・販売するにあたってELSA AG社がサポートしていまして、そこで日本国内でもエルザ ジャパンが初代Quadroを、確か1999年の12月に「ELSA GLoria II」という名称で販売開始しました。それが経緯ですね。そこから当然ELSA AG社もコンシューマー向けのゲーミング用グラフィックスボードも発売し始めまして、我々はQuadroもGeForceもどちらもやるメーカーとなりました。
――競合他社の経緯とは違うんですね。
技術Aさん:そうですね。他のメーカーさんですと、マザーボードをやっていてそこからコンシューマー向けのグラフィックスボードをやり始めたってパターンが多いんですが、我々はもともとワークステーション向けのグラフィックスボードが生業でしたので、そこからコンシューマー向けのゲーミング用のボードも始めたというわけです。
三好さん:当然、コンシューマー向けのボードよりもワークステーション向けのボードの販売が先だったので、先ほどの検査スキームに関してもそっちが基準になっているんですね。高いものを買ってくださるお客様には当然、万が一のことがあってはならないわけですから。やはり念には念を入れた検査をした上で出荷をする。それを今のGeForceでも変わらずやっています。
――今の検査基準の高さはQuadroが基になっているんですね。
技術Aさん:Quadroは日本国内のミッションクリティカルな用途にも使われておりますので、必然、出荷基準・検査は非常に厳しいハードルを設けております。それをGeForceにも落とし込んでいるということですね。
――ひょっとしてGeForceもゲーミング以外の用途で使われていたりします?
技術Aさん:GeForceも結構ミッションクリティカルな用途で使われているケースが多く、名前は出せないんですがけれど……みなさんが驚くようなところで使われていたりします。まあそれよりも、いまどきの産業機の表示であるとか、絵を映すシステムは必ずグラフィックスボードというかなんらかのGPUが載ってますので、画面が出るところでは意外と弊社の製品が使われていますね。
――ちなみに、Quadroはどこで使われているのかうかがってもいいですか?出せる範囲で結構ですので……
技術Aさん:Quadroの一例として出してしまって問題ないのは、羽田空港の国際線ターミナルにある、世界遺産のコンテンツなどが表示されている36面の非常に大きなサイネージのディスプレーがあるんですが、あれは弊社のQuadroで動いてますね。
――え!あそこQuadroなんですね!
技術Aさん:そうですそうです。うちのWEBサイトでも紹介している導入事例なんですが、当然空港なんで24時間365日動かしています。こういう場所でも正常に動くように作ってますね。
Teslaは単体販売だけでなくサーバー納品も対応
――Quadroのほかに、御社ではTeslaも扱っていると思うんですけどそのあたりも詳しくお聞かせください。
技術Aさん:全く用途が違う、というのがありまして。基本的にQuadroは業務用にコンピューターを使う上で、例えばCG編集とか動画編集など映像出力を伴うときに使うものです。で、Teslaは最近ですとディープラーニングなど、いわゆるGPUを計算用途に使うために特化したボードなので映像出力用の端子がないんですね。当然一般のお客様が使われるOpenGLやDirect 3Dなども動かない。
――御社のWEBサイトでも、GeForceは「コンシューマ向けグラフィックス」、Quadroは「プロフェッショナル向けグラフィックス」、Teslaは「GPUコンピューティング」と紹介されてますもんね。
技術Aさん:はい。また、QuadroはTeslaの機能を備えながら業務用のソフトウェアの表示が行なえるボードなので、そこが最大の違いですかね。ですので、今現在のポジショニングで言うと、Teslaはデータセンター向けと呼んでますが、直接そのコンピューターを触るのではなく、別のコンピューターから呼び出されて計算するようなサーバーに入れる商品になっております。
三好さん:あと構造面から言っても、TeslaはQuadroとかGeForceのようなアクティブファンがないんですね。現行モデルは。過去にファン付きのモデルもあったんですけど、現行モデルとしてはサーバーのエアフローを使うことを前提として設計されてるボードになります。なので、ボード本体にはファンがついてないんです。
――TeslaもQuadroやGeForceと同じように単体で販売しているんですか?
技術Aさん:もちろん単体販売もございますし、弊社でシステムを組んでセットアップして納品しているものもあります。我々はSupermicro社のサーバーも取り扱ってますから、そこに組み込んで出荷してます。
「安心して使いやすい製品」が第一
――最後の質問なんですが、エルザのモノづくりのこだわりについてお聞かせください。例えば、オリジナルファンモデルを作りたいっていうときに、冷却機構のデザインは日本でやっているんですか?
技術Aさん:新しいGPUの仕様などを入手した時点で、どう風をあてたら冷えるかなどを工場の機械を使ってシミュレーションを繰り返します。シミュレーションで最適なデザインが完成したらサンプルを製造し、それを日本の環境で評価して問題点を洗い出すという作業を繰り返し行なっています。
――日本の環境で評価とは?
技術Aさん:工場では恒温試験などの検査・評価をするんですが、それと合わせてサンプルを日本国内で、お客様が使われる環境に近い実環境で評価するのも我々の特徴かと思いますね。
――実環境テストというと、デスクトップPCに挿してなんらかのソフトを起動して使ってみるということですか?
技術Aさん:もっと端的に言ってしまうと、例えばGeForceなら実際にPCゲームを動かすというところまでやってますね。社内には最新のゲームタイトルが試せる環境がありますし、VRヘッドマウントディスプレーはすべてありますね。モニターも当然、G-SYNC対応のモデルや4Kモデル、最近ですと8Kのテレビも導入しています。
三好さん:技術Aはゲーマーでもありますんで(笑)。つい最近もMinecraftを社内の8K環境で試してましたね。
――それはすごい(笑)。それで、日本で実環境テストを経たあとは工場にOKって言って終わりですか?
技術Aさん:そうですね。しかし、テスト中に日本の環境だとダメな場合もありまして、例えば日本の気候とか使い方ですね。
――使い方でダメな場合というのは、例えば?
技術Aさん:よくあるケースですと、冬場に暖房を入れずに寒い部屋でPCを使う場合ですとか。寒い地方ですとどうしても室温が低くて起動できないとか、夏場にゲームを起動して放置したまま外出する際エアコンを切ってしまうなど、PCに対してはかなりつらい環境になることもあります。あとは日本だとまだまだ小型な筐体の人気も高いので、キューブPCなどに入れて評価したりもしています。そのような様々な使い方を考慮して、安定して動作するようクロックをいくつにするかとか、セミファンレスのモデルにするかどうかなど、そういうところまで含めて実環境でテストしています。
――なるほど。
技術Aさん:で、ちょっと話が前後してしまうんですが、基本、S.A.Cというのは、先ほど三好が静かに冷やす商品だという説明をしたと思うんですが、それともうひとつ、S.A.Cシリーズは「使いやすい製品」という性質がありまして。使いやすいというのは、ボードのサイズがリファレンスサイズであり、どのようなPCでも搭載可能です。例えば基板をがちがちにカスタマイズしてフェーズを増やした、サイズの大きなOCモデルを作るというのはS.A.Cシリーズではやらないですね。
――確かにハイエンドのOCモデルだと基板が異様に大きくて使いづらいものってありますね。
技術Aさん:我々は基本ゲーマー向けの製品と考えておりますので、第一はゲームをプレイすることなので、それ以外の余分なストレスは極力お客様にかけないようにしています。買ったボードがPCケースに入るかどうかわからないとか、ファンがうるさいとか、安定しないとか、そこらへんにつながるのがさっきのサポートですね。なにかあったときは電話ですぐにサポートできるっていうのもありますし、当然ゲームタイトルのチェックも国内でやっておりますので。
――まあ正直、フェーズ増やしてOCして3DMarkのスコアーが上がろうと、PCゲームプレイ時のパフォーマンスは数%しか上がらないし、使いづらいサイズになってしまったら本末転倒だったりしますもんね。
大日方さん:本当、こういうところが日本のメーカーさんらしい考え方だなって思います。やっぱり海外だと「大きさこそ正義」って考え方があって、そこと真逆の方向というか、ちゃんとそういう理由があってやっているということが評価できるなと思っております。
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