kintoneのカスタマイズを容易にする「gusuku Customine(グスク カスタマイン)」が発表された。JavaScriptスキルなしに、カスタマイズが可能になる製品の開発経緯について開発元のアールスリーインスティテュートに聞いた。
Scratchのような感覚でkintoneカスタマイズできないか?
gusuku Customineはサイボウズのkintoneで作ったアプリを業務に合わせてカスタマイズできるサービス。ユーザーがポイント&クリックで「やること」と「条件」を選択すると、カスタマイズのためのJavaScriptが自動的に生成され、自社のアプリに組み込むことができる。
業務にあわせて自由にアプリが作れるのがkintoneの大きな売り。しかし、プラグインでできること以上のカスタマイズにはJavaScriptのスキルが必要という壁があった。アールスリーインスティテュートの金春利幸氏は、「お客様もJavaScriptのカスタマイズにチャレンジしようと、サンプルコードを動かすのですが、少し変えると動かなくなる。相談されるわれわれもツラい」と語る。
一方、kintoneでSIをしているアールスリーもエンドユーザーと同じ壁を感じていたという。「kintoneのSIを始めてすぐ、ゆっくりプログラム書いている時間ないとは考えていた。でも、カスタマイズのためにお客様と仕様をやりとりする段階で、いきなりスピード感が落ちてしまうのが問題。本来的にはユーザー自身がカスタマイズできるのが一番速いはず」と金春氏は語る。
gusuku Customineの開発を担当したアールスリーの西島幸一郎氏は、「JavaScriptって品質のレベルを揃えるのが難しい。できる人とできない人の差がものすごく出る言語なんです」と指摘する。これに関しては、社内で標準ライブラリを作ろうとか、TIPSを充実させようとかいろいろ考えたが、結局プロダクト化したほうがよいことに気がついたという。
こうした課題のなか、金春氏がヒントを得たのは、「Scratch」のようなプログラミング教育ツールだった。オブジェクトと処理内容をドラッグ&ドロップで組み立てることでプログラムが作れる「Scratchのkintone版」のようなものができないか? こうして作られたのがkintoneのカスタマイズツールであるgusuku Customineになる。
プログラマーじゃない人に使ってもらうために
とはいえ、結果的にScratchのようなGUIプログラミングツールにはならなかった。gusuku Customineが目指すのは、プログラマーではないkintoneのユーザーでもカスタマイズできるツール。そう考えると、Scratchでも難しかったという。「UI設計に関しては社内でいろいろな議論があった。プログラミング言語のようなものを作っている割には、プログラミングを知らない人に使ってもらわないといけないという矛盾があった」と金春氏は振り返る。
たとえば「and」で条件をつないでいくgusuku Customineは「or」を設定できない。「開発者からすれば、andとorが普通なのですが、orを入れるとUI/UXが一気に複雑になってしまう。これはkintoneユーザーなのかを考え、あえて削ったんです」(金春氏)。さまざまな判断の結果、社内エンジニアのアイデアを用いて、制御構文もなく、左の『やること』と右の『条件』をつないでいく今のgusuku Customineに落ちついたという。
昨夏、コンセプトが決まったことで、同社は「Gajumaru」と呼ばれるプロトタイプを大急ぎで開発。昨年のCybozu Days 2017に出展し、大きな反響を得た。会場の反応で面白かったのはエンドユーザーのみならず、パートナーからのレスポンスがよかったこと。「われわれ自身が使いたいツールを作ったので、パートナーのSIerさんからの反響が大きいのは当然と言えば当然。他のSIerさんがCustomineを使っていただき、世の中の課題が解決してもらえるのであれば大歓迎です」と金春氏は語る。
業務リーダーだけではなく、kintone SIの裾野も拡げられる
その後、リリースまでの4ヶ月は開発も急ピッチで進められた。西島氏は、「なにしろ組み合わせの数が膨大になるので、テストが大変。kintoneの制限事項なのか、Customineがうまく実装されていないのか、判断に迷うところもあった。とにかくプログラミング言語をイチか作っているのに近いので苦労した」と振り返る。
こうした苦労のかいあり、先週いよいよプレビュー版を公開した。今夏の正式リリースに向け、スピーディに機能追加を進めて行くという。「今予定しているような機能を入れることで、プラグインでは難しいこと、コード書くと大変なことがかなりできるようになるはず」と金春氏は語る。
発表したばかりだが、プレビュー版の試用申し込みやデモライセンスの依頼は殺到。「予算とります」「もう提案してきてしまいました」などの声もあったという。「AWSの新製品が出たときに近いような興奮を、kintone界隈に与えられたみたいでうれしいんです。社内の開発陣にもプラスになっています」(金春氏)。
金春氏は、kintoneの世界を変えられるプロダクトと断言する。「業務リーダーがカスタマイズを容易にできるのはもちろん、kintone SIの裾野を拡げられる。今後、ローコード・ノーコードの市場が拡がるにあたって、kintoneでできることはますます増えるはず」(金春氏)。正式版のリリースとともに、英語版の開発も進め、北米のkintone Corporationと連携し、グローバル展開も視野に入れていきたいとのことだ。
週刊アスキーの最新情報を購読しよう