低域は割り切っているが、質感描写に優れる
トーンバランスとしては、中音や中低域が少し強めに出る味付けで、第3世代のAstell&Kernをイメージさせる。芯が通り、しっかりと安定した感じのある再生音だ。93Hzというと、音域的には下のソぐらいなので、パイプオルガンなどの再生では、低域がスパッと切り落とされてしまう感じがあるののは否めない。ただし、リアバスレフ型ということで、机に面した壁の反射を利用すれば、ある程度の量感を確保できそうだ。
一方で質感描写はなかなか得意。例えば、アデルの「21」では、ボーカルの後に続く、バスドラムに注目。量感はコンパクト機としては頑張っているかなという程度だが、雰囲気は再現。一方で風圧感やどんな硬さのどんな素材を鳴らしているかの質感の表現が緻密である点には感心した。空気感がきちんと伝わってくる。
逆に、楽器数が限られたアコースティック曲などでは、多少腰高になるきらいがあった。藤田恵美「Camomile Audio Plus」から「The Rose」を聴くと藤田さんの声が非常にきれいに届く一方で、ギターを中心にしたシンプルな伴奏では、下がちょっと足りない感じる面があった。と言いつつも、聴かせ方自体はうまく、一般的なボーカル再生では、それほど気にならない。
ソースの差もかなり明確に描き分けるので、録音状態の善し悪しが如実にわかる印象だ。ジャンルを問わず様々な曲の再生をこなす機種だが、ジャズを生々しく聞きたいといった層にはアピールするのではないか。例えばグレゴリー・ポーターの「Liquid Sprit」では音源自体の透明感の高さが際立つ。ボーカルがクリアーで明晰だ。また、クラップの立ち上がりの速さや音の広がりなども生々しかった。
ちなみに、このあたりの表現力は、ACRO L1000の能力も貢献していると思う。同じ環境でスピーカーだけELACの「CINEMA2 SAT」に変えてみた。スピーカーの特性もあり、ワイドレンジで癖がなく高域が伸びる感じのサウンドで、ちょっと淡白だが整った品のいいヨーロッパ製スピーカーらしい表現になる。これでも十分満足いくできであったのだが、大きな違いとしては、奥行き感の再現がある。ELACの場合は、スピーカーのバッフル面あたりを基準に平面で聞こえてくるサウンドだったのに対して、ACRO S1000は立体的で奥まで深いサウンドになる。
とはいえ、ACRO L1000とACRO S1000は30万円近い組み合わせになってしまう。サイズを考えなければ、単品システムも視野に入る、それなりに高額なシステムだ。
ELACのCINEMA2 SATはペア3万円台後半ぐらいで売られていたもの。逆に言えば、ACRO L1000とこういった組み合わせで低価格にリスニング環境を作り、あとから機器を拡張していくといった楽しみもできるかもしれない。パソコン回りでヘッドフォン再生も含めて、高音質な音楽再生環境を作るというコンセプトであれば、まず最初にL1000を導入して、その次にS1000を試すといくのも現実的な選択肢かもしれない。
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