日本はグローバルリーダーになりうる潜在力がある
── 日本に研究拠点を置く理由は?
ホスキンソン 日本は科学的な側面からも市場的な側面からもグローバルのリーダーになりうる。日本は家電市場の規模が大きいし、ハードウェアの設計にも強みがある。暗号通貨を安全に保管するためのコールドウォレットやATM、通信の安全性の高いTrusted Hardware、セキュアモジュール、マイニングデバイスなど様々な分野で躍進が期待できる。
ソニー、東芝、NECといった企業はIoTにフォーカスしている。暗号通貨やブロックチェーン技術はIoTとの融合が見え始めている。ブロックチェーンを使ったIoTの世界で、面白い実験プロジェクトが出てくると思う。
ブロックチェーンは現状、JavaやC++といった一般的な言語を使って開発されているが、徐々に高保証のプログラミング言語での開発に移行しつつある。日本はこうした関数型言語を使ったプログラミング言語で先行している。
金融向けアプリケーションや暗号化技術、例えば暗号通貨に使われる技術も基盤となる技術と切り離してより深く研究していく機会が増えていく。これが進めば、日本が頭角を示してくるだろう。IBMのHyperledgerでも日本企業の三菱UFJフィナンシャルグループが目立った貢献を示している。こういった活動が少しずつ表面化すれば、2020年ごろには日本も開発側面でリーダー的な役割を果たすのではないか。世界は広いが、ほかのアジア諸国、中国や韓国と比べても日本に強みがある分野だと思う。
信用できない政府にこそブロックチェーンを
── ブロックチェーンというと仮想通貨の技術というイメージが強いが、応用分野として現在注目しているものは?
ホスキンソン 本当に様々な分野での利用を期待している。
その中で、最も注目しているのが資産の記録、特に不動産の管理だ。
例えばシリアは内戦で難しい状況が続いているが、いつかはこれも終わり、平和が訪れると思う。その際には何百万人もの難民が帰国する。このとき大きな問題となるのは、所有権の帰属問題だ。誰が何を所有しているのか。これまでは、政府の記録に頼るしかなかった。しかし短期間で政府の立場が入れ替わると記録自体が失われたり、信ぴょう性が下がってしまう。そこでブロックチェーン技術が、重要な役割と変革をもたらすと考えている。政府が仮になくなってしまったとしても、トークンを実在する資産と紐づけて管理ができる。それにタイムスタンプを付け、どこにあるのかがいつでも分かる。外部からの透明性を確保し、無断で書き換えられることなく管理できる。
IOHKはエチオピアにも進出しているが、ブロックチェーン技術は発展途上国にこそ入っていくことが重要だと考えている。
また、不動産を管理できるのと同様に、ブロックチェーン技術で人の管理をすることもできる。金融以外の応用例では、身分保証のシステムが注目を集めている。ベトナムやカンボジアでは、身分証明書、出生記録、レピュテーションの書き換えや偽造が問題になっている。こうした身分を管理するシステムと評価システムを導入することで、ブロックチェーンをクレジットの仕組みに応用していく流れが業界全体の大きな動きとしてある。
最後に投票だ。通貨に求められる特徴がそのまま投票システムでも有効だ。書き換えられず、リアルタイムで状況が分かり、透明性を持ち、具体的に誰が票を集めたのかが追える。この側面には我々も注目していて、ランカスター大学に投票システムだけに注力して論文を書いているチームがいる。
これら3つの領域。つまり、不動産管理、身分証やレピュテーションの管理、そして投票の研究が私の好きな3つのテーマだ。暗号通貨とは全く関係ないが、同じ技術をベースにしている。非常にシンプルなトピックスだが、これがうまくいかないと社会が安定しないものであり、重要なインフラだと考えている。ブロックチェーンの技術が研究されることで、政府がどう正直になれるか。そうでない場合にどう運用していくかの有益な議論ができると思っている。
そのために運用コストを下げ、携帯電話やほかのコンシューマーシステムでも運用できるようにするシステムの研究が進んでいる。
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