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Mod PC制作のためにプログラミングも始める執念

稀代のMod PC制作者、ついにポンプなしで冷却液が循環する水冷PCを作ってしまう

2018年01月01日 10時00分更新

絶妙なバランスで成立している振り子システム

 このACアダプターやペルチェ素子の制御に使っているファンコンの重さがカウンターバランスとなって、巨大な本体部を回転させるサーボモーターやギアを補助しているのでそうやすやすと別のものに変えることはできません。ポンプではなく「重力」によって冷却液を循環させるとなると、このように絶妙なバランスを計算しなければいけません。サーボモーターもご機嫌ななめの日があったりするそうで、ギリギリのバランスで成り立っています。

 そう考えると、構想3ヵ月は決して長い期間とは思えませんね。しかも「構想」とは言っても、その間CADでデザインしていただけではありません。まずはスケッチから始まり、CAD、木版によるモックアップでの制作検討、各パーツの仮組検討といった細かな作業段階をsaito_MODさんは「構想」と呼んでいました。

 もちろん、制作に入ってからも試行錯誤は続き、構造チェック、素材チェック、水漏れチェック、冷却力チェック、サーボモーターのチェック、ギア比のチェック……と実にさまざまな困難と課題がsaito_MODさんに振りかかった9ヵ月だったことでしょう。

DC-DCコンバーターボードとスイッチ基板。

 なお、ACアダプターはこのようにDC-DCコンバーターボードやスイッチ基板を介して、各ユニットへつながっています。ゆえにケーブルの本数も必然増えていきます。

 しかしながら、このように各部の隙間をうまく活かしてケーブルの経路を短すぎず長すぎないようリケーブル(電源ケーブルの端子とケーブルを一旦分離して、長さを調節して再度接続すること)して最適化し、可動部にからまらないようにしています。「夏の間はひたすらリケーブルしていて、頭がおかしくなりそうでした」とsaito_MODさん。これはもはや自作PCの「裏配線」なんてレベルをゆうに超えており、ロボットとしての美しさすら感じました。

トルクを考慮した結果、ギア部はアルミ製になったとのこと。

 サーボモーターにはギアが取り付けられてますが、当初からギアの数を追加してトルクを1/2に軽減。最初はギアもアクリルで制作したそうですが、トルクに耐えられず粉々になったそうで現在のアルミ製に変更したそうです。

 ちなみに制作において難しったことは?と質問すると、「自作リザーバーの制作」に「電源ケーブルなどのリケーブル作業」、「サーボモーターによる回転を実現する施工精度と強度の確保」の3点が山場だったとのこと。

アクリル板とアルミ板で制作したリザーバー部。最終的な形状決定に至るまでは相当苦労なさったそうです。

 特に自作リザーバーはアクリル板とアルミ板がミルフィーユのような多層構造になっているんですが、この形状の組み合わせは何度も施行を重ねたそうです。止水材も水漏れしないようトライ&エラーを繰り返し、現在のシリコンゴムシートに行き着いたとのこと。また、作業場が自宅リビングのため、奥様の機嫌を損ねないように細心の注意を払ったと笑いながら話すsaito_MODさん。

 毎月お小遣いが出てはすぐ材料費や加工費に回して、制作し、試行し、練り直し、再び新しい月になったらお小遣いをまた全額つっこみ……を繰り返した1年だったそうで、saito_MODさんの涙ぐましい努力と情熱を感じました。

サーボモーター制御のためにプログラミングを始める

「Microsoft Visual Studio」で作ったサーボモーターと電子弁の制御プログラム。周期的に動かすことで、自動冷却を実現します。取材中はずっとアイドル状態でしたが、CPU温度は26~27℃で安定してました。

 saito_MODさんの作品は今回で4作目。前回の取材でも紹介しましたが、必ずsaito_MODさんの作品には「既成概念の破壊」と「初めて挑戦すること」というテーマを感じます。第1弾はPCケースの素材にモルタルを使った「モルタルPC」で、PCケース素材の概念を変えました。第2弾では左右どちらにおいても中身のPCパーツを愛でられる「リバーシブルPC」で、自作PCの視覚的な当たり前を吹っ飛ばしました。そして、第3弾「曲面ワイドモニタ型PC」では、驚くべき施工技術で自作PCとは立方体であるという既成概念を崩しました。

 そんなsaito_MODさんですが、今回もサーボモーターを使って水冷PCにはポンプが必要であるという従来の枠組みを見事粉砕しました。しかし、そこには並々ならぬ努力が隠れていました。サーボモーターや電子弁の制御はプログラムが必要なんですが、saito_MODさんはまったくのプログラミング未経験者。サーボモーターを制御するためのプログラムを作るために、「Microsoft Visual Studio」のぶ厚い指南書を購入し、一から勉強したそうです。

 この常に新しいことや必要だと思ったことにまっすぐ挑戦していく姿勢がsaito_MODさん最大の強みだと感じました。普通はこういった門外漢な壁にぶつかると、専門性のある人に助けを求めたりするものですが、「誰も教えてくれなかったんですよ。なので自分で一から勉強するしかないなと(笑)」と、はにかむsaito_MODさん。「ああ、こういう人だからこんなスゴイPCを作れるんだな」と妙に得心がいきました。「自作」ってこういうことですよね。いいですよね。僕もずっとこんな風にモノを作っていきたいなと思いました。

次なるテーマは「-50℃冷却で常用OCの限界」

次回作のスケッチ。

 そんなsaito_MODさんですが、早くも次回作の計画があるとのこと。上記はそのラフスケッチですが、話を聞くとどうも次回のテーマは「-50℃冷却で常用OCの限界」に挑戦したいとのこと。融点-59℃のプロピレングリコールという食品添加物を冷却液に採用する密閉型のPCだとか。サッと聞いた感じだと昔話題になった「ガス冷」に近い構造の予感なんですが、さて一体どんなPCになるのでしょう。完成がすごく楽しみです。

オリオスペックの松沢店長(左)とsaito_MODさん(右)。なお、saito_MODさんの手前においてあるミニディスプレーも自作物で、案外これも人気展示で問い合わせが多いとか。1月半ばぐらいまでは展示しているそうなので、ご興味がある方はぜひオリオスペックまで足を運んでみてください。

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