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AIで過疎地を救う 過疎地連携経済圏構想に取り組むエルブズの挑戦

過疎地連携経済圏構想の実現に向けて

京都府南山城村の手仲村長も、「60~70のばあちゃんがタブレット使えるかい」と最初は半信半疑だった。実証実験での調整を行い現在に至るが、今後の動きが村としては楽しみであり期待も大きいと語っていた。

 AIを使ったエージェントという触れ込みの一方で、かなり独特なアプリのUI・UXは、普段スマホやPCに慣れ親しんだ層には非常に違和感があるが、これこそが成功のポイントだった。あくまで機械ではなく、いかに人とコミュニケーションをとっているかという部分で、エルブズの対話エージェントはPCすら遠い高齢者と強い接点を獲得した実績を残している。

 高齢者の生活のなかにAIが入り込むということだけで、地域を超えたさまざまな挑戦が可能となってくる。過疎地連携経済圏構想は、過疎で孤立していた各地域に、経済的な横ぐしを刺す壮大な計画だ。レガシーだがきめ細かな金融システムがインフラとして強かった日本だが、過疎地域のような場所ではそのような恩恵は受けられない。コンビニすらない土地で、決済や行政などのシステムを維持させるには、このような取り組みが必須とも言えるのではないか。

 大企業が自ら持つ課題と、一方で社会解決に寄与するという部分で、今回の取り組みは理想的な絵図に見える。印象的だったのは、「日本の大企業には、ポテンシャルの高い人材が多数いる」(田中氏)ことをうまく生かしているという点だ。ヒト・モノ・カネで最も難しい技術者採用のハードルの部分で、TISが果たしている役割は的確だ。目下オープンイノベーションは活発化しているが、このような枠を超えた動きはもっと広まるべきだろう。

過疎地連携経済圏構想概要(画像提供:エルブズ)

 過疎地連携経済圏構想を実現するための、技術力と協力体制はそろった。残る地域通貨での課題についても、顧問弁護士とともに資金決済法などの法律に関して、財務省、金融庁との調整を重ねているところだ。「消費者保護の観点ではとてもよくできている法律。日本における法をクリアしてこれを提供しないといけないが、必要なハードルだと考えている」と田中氏は語る。

 この事業は現在約1700の基礎自治体がある中で、全体の10%弱、140~170が参加する規模まで到達させたいと田中氏は考えているため、エルブズとしては今後より多くの基礎自治体に足を運び、協力を募っていく予定だ。

 「過疎地、高齢者というと、ビジネスになりにくいというが一般的な考え。あえてそこに商機を見いだしていきたい」(田中氏)

 エルブズが同社独自のAIエンジンをつくった2016年、日本はAIブームに沸いていた。田中氏は「まだまだ完成度を上げなければというのはその通りだが、AIは技術要素としてはコモディティー化したと判断している」と話す。AIが当たり前になりつつある現在だからこそ、生活の中にAIが溶け込む。都市部でも過疎地でもそうした風景には大差がなくなる時代がそこまで来ている。エルブズのAIが日本を元気にしていく。

●株式会社エルブズ
2016年2月26日設立。「社会性エージェント®で幸せを提供する」をビジョンに掲げ、Agents of Socialization(社会性エージェント)サービスを提供。過疎地連携経済圏構想の実現に挑戦。
資本面では、創業時のTIS株式会社からのシードマネーに加え、2017年11月に大阪大学ベンチャーキャピタル、TIS、大阪大学石黒浩教授、同特任講師小川浩平氏、Gunosy CFO伊藤光茂氏らより共同出資として総額8450万円を調達。資本金1億円を上回った。
常勤スタッフ数は2017年11月時点で6名。企画職、開発エンジニア、バックオフィススタッフを募集中。

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