11月15日から17日まで「2017年国際放送機器展(Inter BEE 2017)」が幕張メッセが開催されました。「Inter BEE」は国内最大の放送・映像制作業界イベントで、最新の機器が一同に集まり、業界における直近のトレンドを伺い知ることができる展示会、とも言えます。
正直、テレビやラジオなどのその道のプロにしか縁が無い展示会であるような印象も受けるのですが、近年ではYouTube LiveやFacebook Liveなどの「ライブ配信」が身近なものとなったことによって、商品やサービスのプロモーションの一環として「ライブ配信」を活用する企業や、ライブ配信を専門とする私たちのようなクリエーターが訪れても楽しい展示会へと近年のInter BEEが少しずつ変化しているようにも感じます。
そんな、ライブ配信を活用する(&しようとしている)企業やライブ配信を専門とするクリエーターが気になる製品のひとつが、ローランドから10月に発表されたHDビデオスイッチャー「V-60HD」(12月発売予定)です。
今回、Inter BEEより一足先に触れる機会がありましたので、V-60HDの簡単な概要と特に気になる新機能を中心に紹介していきます。
V-60HDの概要
まずは入力面。映像入力はSDI(BNC)端子×4とHDMI端子×2、アナログRGB(D-Sub 15pin)端子×1。映像入力口は物理的に7つありますが、このうち、アナログRGBと1つのHDMIは排他利用(どちらかを選ぶ)となるため、同時に利用が可能なのは全部で6系統です。
音声入力は最大18ch。SDI×4およびHDMI×2の音声を取り込みミキシングすることができるほか、マイクに用いられるキャノン端子(XLR)とギターなどで用いられるフォン端子(TRS)のどちらも挿すことができるコンボジャック×4。ファンタム電源対応であることから、電源供給が必要となるコンデンサマイクも利用可能です。そして、RCA端子×2を備えます。
例えば、映像はSDIで接続された「カメラ3台」、プレゼンテーション資料を見せるためのHDMIで接続した「パソコン1台」、アプリの画面を見せるためのHDMI(へ変換して)接続した「スマートフォン1台」。さらに、音声は演者がつける「ピンマイク4台」、(ステレオミニからRCAへ変換して接続した)BGMを流すための「スマホ1台」といった、ライブ配信の現場でよくありがちな機材構成は、このV-60HD一台でまかなうことができてしまいます。
そして、出力面。映像出力はSDI(BNC)端子×2とHDMI端子×2、そして、カメラなどの入力映像やオーディオメーターなどを表示するHDMI端子のマルチビュー出力も備えます。音声出力はXLR端子×2とRCA端子×2、ステレオ標準のヘッドフォン。
SDI端子とHDMI端子の合計4つの映像出力端子には「PGM」「PVW」「AUX」の割当が可能。例えば、4つすべての端子に視聴者などが見る映像となるPGM(主出力)を割り当て、1つ目はV-60HDを操作するオペレーターが確認をするためのモニタ、2つ目は演者がいまどのように映し出されているかを確認するための返しモニタ、3つ目はライブ配信をする機器へ、4つ目はバックアップ用レコーダーへ送るなど、それぞれ分岐させることもできるでしょう。
また、会場に大型スクリーンがあれば、4つの映像出力端子のうちのひとつをAUX(補助出力)へ割り当て、操作パネル上にある1-8の「AUX」ボタンを押下することで、ライブ配信で見せる映像とは別に、選択した映像ソースを非連携で大型スクリーンへ映し出すような用途にも対応が可能。講演会をライブ配信するとき、大型スクリーンには登壇者のプレゼンテーション資料画面を会場内にいる参加者へ見せ、ネットワーク越しにライブ配信を視聴する視聴者にはプレゼンテーション資料と共に、登壇者の表情をPinP(小画面)に入れる、といったように、見せる映像を別にするようなこともできます。
ライブ配信とは別の映像を、会場内にある大型スクリーンで映し出すようなニーズは、これまでの場合であれば、もう一台ビデオスイッチャーを用意する、などの手間が少しかかるものでした。入力面に限らず、出力面においても、これまたライブ配信の現場でよくありがちな簡単なニーズをこのV-60HD一台でこなすことが可能となります。
前モデル「V-40HD」に比べて「V-60HD」はものすごいコンパクト!
V-60HDを実際に触ってみて感じた大きな驚きは2つあります。1つは「V-60HDのコンパクトさ」です。
今回、新しく発売されるV-60HDと、前モデルに相当するV-40HDを比べてみると、V-60HDのコンパクトさに驚き。外形寸法は356(幅)×221(奥行)×96(高さ)mm。幅はV-40HDより39mmほど長くなったものの、奥行はV-40HDに比べて45mmほど短くなっています。V-40HD(写真左)とV-60HD(写真右)を並べ、上からコントロールパネルを覗き込むと、奥行が短くなったことがとてもよくわかります。
さらに、高さもV-40HDに比べて12mm低くなっています。カタログ値で比べると「横幅45mm、高さ12mm短くなった」と聴いてもあまりピンときませんし、「ほんの少し小さくなっただけ」の印象を受けますが、こうして実物を目の前に並べてみるとすごい小さくなった印象を受けます。
これは、V-40HDで備わっていたRGB/COMPONENTやCONPOSITEといったアナログ映像端子が減ったことも要因の一つでありますが、ビデオスイッチャーへ接続する機器はほとんどHDMIやSDIのものがほとんどとなりましたから、そのことによる不便さはあまり感じられません。
その一方で、V-60HDはV-40HDには無かった、「キャノン(XLR)とフォン(TRS)のどちらも挿すことができるコンボジャック×4」「RCA×2」のアナログ音声入力、音声出力として「XLR端子×2」と「RCA端子×2」も備えています。これまではV-40HDとともに、オーディオミキサーを持ち運ぶ必要がありましたが、V-60HDになるとオーディオミキサーを別途持ち運ぶ必要が事実上無くなります。
あまり使われなくなったアナログ映像端子が減り、逆に、ビデオスイッチャーとオーディオミキサーが一体化されたことを鑑みても、V-60HDのコンパクトさはとても大きな驚きであり、可搬性が非常に上がると思うのです。
V-60HD最大の注目機能は「スマートタリー」
V-60HDには音量調整の操作を自動化し、ミキサー操作を省力化できる「オートミキシング」機能、6つの入力映像/音声と2つの静止画をシームレスで切り替えられる「AUXバス」、DSK機能(ダウンストリームキーヤー)とピクチャーインピクチャー機能(PinP)とスプリット機能などの映像合成に欠かせない機能も搭載。
それ以外にも様々な機能が搭載されていますが、その中でも、今回、V-60HDをチェックする上で、最も注目したいのはV-60HDから初めて搭載された「スマートタリー」機能。
そもそも「タリー」はテレビスタジオ等で、どのカメラの映像がいま選択されている(記録中・放送中)かを、出演者やスタジオスタッフに知らせるために、カメラやモニタの上につけて点灯させるランプのこと。
例えば、テレビの「NHKニュース」が終わる瞬間、スタジオの俯瞰映像となり、スタジオ内のカメラの上にある赤色に光った「タリー」ランプが消える様を目にしたことがある方もいらっしゃるかもしれません。あのランプを「タリー」と呼びます。
この「タリー」はテレビの現場では当たり前の機能。ですが、ライブ配信の現場ではこのタリーが登場することはほとんどありません。設備が整った常設のスタジオであれば見かけることもあるかもしれませんが、特定の決まったスタジオで必ず収録・配信されるとは限らないライブ配信の現場ではこれまで「無くてもなんとかなる(省略される)」設備のひとつでした。
ただ、ライブ配信の映像に映る演者は、いまどのカメラが選択されているのか?を確認するためには、演者の目の前に用意される「映像返しモニタ」によって、どのカメラによって映し出されているのかを(自分が)判断しなければなりません。もしくは、カメラマンがいまどのカメラが選択されているのかを演者へ(指差しなどで)リアクションによって伝えることもあります。
テレビでは当たり前のタリー。でも、タリーは非常に高価なシステムで、ライブ配信の現場ではタリーがあることは非常に稀です。そんな、なかなか手を出しづらかったタリーをV-60HDではスマートフォンやパソコンを使って簡易的なものを作り出すことができるようになりました。これがV-60HDを実際に触ってみて感じた大きな驚きの2つめ。
気になるV-60HDのスマートタリーの仕組みですが、非常にシンプルに作られています。そして、専用のスマートフォンアプリを必要としません。
スマートタリーの仕組みを簡単に実現するならば、無線LANルーター(Wi-Fiルーター)を用意し、Wi-FiルーターのLANポートにはV-60HDをLANケーブルで、タリーの役目をするスマートフォンは無線LANでそれぞれネットワーク接続。同一のネットワークセグメント上に「V-60HDとタリーの役目をするスマートフォンが存在する」ような構成を構築します。
その後、スマートフォンのブラウザで(Wi-Fiルーターが自動で割当、もしくは、V-60HDのメニューから手動で設定した)V-60HDのIPアドレスを入力してアクセスすることによって、V-60HDに内蔵された簡易的なhttpサーバーが応答し、WEBページのメニューが表示。
どのカメラのタリーの役目をスマートフォンに担当させるかに応じて、該当のリンクをクリックすると「1」「2」「3」「4」と表示された画面へ遷移。V-60HD側でスイッチング操作をすることで、スマートフォンブラウザの背景色が赤(もしくは緑)へ変化していきます。
これはスマートフォンだけに限らず、パソコンのブラウザでもスマートタリーの役割をさせることもできますし、さらに、ひとつのカメラに対して複数台のスマートフォンやパソコンを割り当てることができ、演者やスタッフ個別のスマートタリーを作り出すことも可能です。
また、V-60HDからタリーの役目をするスマートフォンやパソコンは無線LANだけでなく、有線LANで接続することも可能。無線LANが利用できない場所や距離がある場合には、有線LANなどでV-60HDを含めたネットワークを構築することでスマートタリーの機能を実現することもできます。
蓋をあけてみれば、スマートタリーの仕組みはとっても簡素なものですが、これであれば、普段使っているスマートフォンだけでなく、使わなくなってしまったスマートフォンやパソコンの有効活用もできそうですし、自由度も非常に高いのではないでしょうか。
これまでタリーがなくて苦労したライブ配信の現場も多かったはずです。仕組みは簡素といえども、スマートタリーがあることで、これまでのストレスを少し軽減させ、声を発したり、リアクションで伝える必要もなくなり、スムーズな意志疎通ができる仕組みであると感じてします。この機能は、実際のライブ配信の現場でも機会があれば積極的に使ってみたいものです。
SDI / HDMI 両対応の 6ch ビデオスイッチャーで、18チャンネル入力デジタル・オーディオ・ミキサーを搭載する「V-60HD」は12月発売予定。気になる価格はオープンプライスで、店頭予想価格は40万円(税込)前後とされています。
個人で買うには少し高額かもしれませんが、これからFacebook LiveやYouTube Liveなどのライブ配信を活用し、商品やサービスのプロモーションを自社でしていきたいと考えている企業にとっては金額的にも、スイッチャー自体の大きさ的にも、手の出しやすい製品であるように感じています。
これまで、4chのビデオスイッチャーが多く登場し、もう少しカメラを増やしたり、接続したいパソコンを増やしたいと思ったときには8chのビデオスイッチャーを選ぶしかありませんでした。しかし、その中間にあたる6chビデオスイッチャー「V-60HD」が登場したことによって、そのちょっと痒いところへ手が届き、しかも、小中規模のライブ配信ではこれ一台で完全に対応できてしまうのではないでしょうか。
ライブメディアクリエイター
ノダタケオ(Twitter:@noda)
ネット番組の企画制作・配信、ライブ配信メディアとソーシャルメディア関連の執筆などその活動は多岐にわたる。イベント等のマルチカメラ収録・配信や、自治体・企業におけるソーシャルメディアを活用した情報発信サポート業務などもこなす。タイ王国とカフェ好き。
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