プロキオン・スタジオに所属する土屋俊輔氏は、ゲーム音楽などを中心に制作する作曲・編曲家だ。
直近の代表作は「アナザーエデン 時空を超える猫」。スマートフォン向けのゲームで、第27章の配信がはじまるなど、長い期間を通してユーザーに愛されている作品だ。
作中で使われている土屋氏の作品は、耳馴染みのよいメロディーの立ったアレンジと、どこか牧歌的な雰囲気を感じさせる曲調が印象的だ。現在もアップデートがかかるたびに新たな楽曲を制作し、作品に携わっている。
土屋氏は、「高校生の時に、友達が音楽を作っているのを見て、自分にもできるのではないかと思い作曲をはじめた」と話す。彼が作曲家としてさまざまなゲーム音楽を担当するようになった経緯と、日常的な作曲の姿勢について話をきいた。
懐かしいRPGっぽさの秘密
ーー今年手がけられた「アナザーエデン 時空を超える猫」のサントラは、iTunes Storeのサントラ部門1位だったそうですね。
「そうみたいですね。とてもありがたいことだと思います」
ーーご自身のキャリアにとって、どんな作品になりますか。
「たくさんの方にプレイしていただいて、自分の名前もみんなに知っていただけるきっかけになった作品です」
ーー今回はどのくらい作曲をされたんですか?
「ゲームのリリース時点(Ver1.0)で、およそ60曲インストールされているのですが、その60曲をプロキオン・スタジオの光田(光田康典)と、僕と、マリアム(マリアム・アボンナサー)の3人で制作しています。光田がメインテーマを1曲、僕とマリアムが残りの半分ずつ、僕が少し多いくらいですね」
ーーこのくらいのボリュームになると、期間も相当かかるのでは?
「ゲームの制作と同時進行で作曲するので、1年半くらいだったでしょうか。その間、違うプロジェクトも並行して進めながらになりますが」
ーー長い期間ひとつのゲームに関わっていると、頭の中がそのゲームだらけになりそう。
「そう、なりますよね(笑)。締め切りが近い時は、ずっと頭の中でテーマが鳴っている状態になりますよね」
ーーこのゲームはどういったテーマで作曲されたんですか?
「クライアントからの要望は、『ケルト系の民族の音楽』と『昔懐かしいRPGの雰囲気を出して欲しい』のふたつでした。
自分なりに『昔懐かしいRPGの雰囲気』を考えたときに、『メロディーが立っていて、わかりやすい音楽』が要素のひとつだと思いましたので、そういった音楽を目指しました。レコーディングでは生楽器を使いました」
多くの人が関わるプロジェクトが好き
ーー楽器はご自身で演奏されるんですか?
「いや、僕は楽器の演奏はしないんですよ。プロキオン・スタジオでいつもお世話になっているミュージシャンのコーディーネート専門の会社へお願いして、適任のミュージシャンを選定してもらい、一緒にスタジオに入ってレコーディングをするという作業になります」
ーーミックスやマスタリングはご自身で?
「最近は、ミックスまでエンジニアさんにやっていただくことが多いです。オーディオデータをパラで書き出して。
ゲームの作曲家さんだと、個人で最後までやってしまうタイプの方も多いんですが、僕は個人で完結するよりも、なるべく多くの人に関わっていただいて、多くの人の協力で作品を仕上げていくスタイルが好きなんですよね」
ーー御社の場合、今回のように、組織としてひとつの作品を手掛けるというパターンもありますよね。作曲でなく、曲を作品に落とし込んでいくフローも気になります。
「入社したばかりの頃は、光田に毎回、曲を確認してもらって、クライアントとのやり取りもお任せしていたのですが、最近は......これは案件にもよるのですが、作曲からクライアントとのやりとりまで、個人で完結することも多くなってきました。
『アナザーエデン』のやり取りは、僕が主な窓口になって進めました。 プロキオン・スタジオという会社は、光田がいつも言うことなんですけど『会社はあくまでも箱で、会社という場所を利用して個人個人が活躍の幅を広げればいい』という理念があって。最近では、自由に作曲させていただけるようになってきましたね」
ーーご自身のキャリアの中で、特に思い入れのある作品がありますか?
「5〜6年ほど前に『TOKYOヤマノテBOYS』という作品を担当したことがあるのですが、そのとき、はじめて弦楽器を生録したんですよ。それで印象に残っていますね。
いわゆるアドベンチャーゲームなのですが、当時の僕は、『光田サウンド』といいますか『プロキオン・スタジオっぽい音』を出していった方がいいのかな?と悩んでいた部分があったんです。
でも、『TOKYOヤマノテBOYS』を担当したときに、自分らしさ、自分の好きな音をたくさん取り入れて作曲することができ、その楽曲がゲームにもうまくマッチしていたので、『自分の好きな音を出していいんだ!』という発見、心境の変化がありましたね」
スーパーファミコンソフトがきっかけ
ーー元々、ゲーム音楽を専門にされていたんですか?
「実は、プロキオン・スタジオに入社する前、フリーで活動していた時期があったんです。
僕が音楽をするきっかけになった作曲家の成田旬という友人と、いまはベイシスケイプというゲーム音楽会社に所属している千葉梓という友人と、現在スクウェア・エニックスの効果音を担当している齋藤祐輔という友人と、4人でチームを組んでいました。その時代は、歌モノを作ったりですとか、ドラマCDのBGMなども作っていましたね」
ーー歌モノというのは、楽曲提供というかたちですか? それともご自身で?
「楽曲提供ですね」
ーー土屋さん自身もバンド経験があったりとか。
「いえ、元々、作家一本ですね。作曲するときにギターやピアノを触ることはありますが、本格的に楽器を演奏したり、自分でバンドを組んだりという経験はありません」
ーーなるほど。それでは、純粋に作曲のみでここまできているんですね。ちなみにきっかけはあるのでしょうか?
「高校生の頃に、先ほどお話しした成田旬という友人が『これ作ったんだけど、ちょっと聴いてくれ』と言ってきて。当時、プレイステーション向けの『音楽ツクール かなでーる 2』というゲームソフトで作った曲を聴かせてくれたんです。
聴いてみたら、カッコよくてびっくりしたんですね。それで、『僕にもできるんじゃないか』と思ったんです。それで、『音楽ツクール かなでーる 2』を貸してもらえないかと打診しました。
まったく作曲経験がなかったので、いま思えば、酷いものだったんですけど。彼の曲にはシャープ記号がついていたので、『僕もシャープを使ってみたい』と思って、適当にシャープを入れたら、変な感じになっちゃったりとか(笑)」
ーーでも、それが作曲の出発点になったんですね。
「そうです。そのあと、音楽の道に行きたいなと思い、コンポーザー・アレンジャー科のある音楽の専門学校に進み、作曲を学びました」
ーーそのあとフリーで活動された後に、プロキオン・スタジオに入社されたという流れですね。なかなか、はじめからフリーというのは珍しいのでは?
「就職活動もちゃんとして、いろいろ受けたんですけど、全部落ちてしまって、その時は、『もう自力で頑張ろう』と思ったんです。
僕が専門学校を卒業した頃って、ネットに気軽に作曲の応募が載っていたりしたんですね。仕事の大小に関わらずどんどん応募して、そこから徐々に仕事の幅が広がっていきましたね。いまでも当時のチーム全員が音楽業界で活躍しているのでうれしいです」
打ち込みはマウスで入力!
ーーDTMをはじめたのは専門学校の頃ですか?
「そうですね。Cubaseを買ってはじめました」
ーーCubaseは学校の教材とかで?
「学校の教材はDigital Performerという別のソフトだったので、個人的にCubaseを買い使っていました。そこから一度 Nuendoを使ってみましたが、またCubaseに戻ってきました。なので、もう7〜8年くらいCubaseを使っていることになりますね」
ーーほかのソフトも使いますか?
「あとは、『CHERRY』というフリーのMIDIシーケンサーも当時からずっと併用しています。これは、軽くてすぐに立ち上がるので、ラフを残すときに便利なんですよ」
ーー楽器は演奏されないということだったので、基本的には打ち込みですよね。拝見したところ、MIDIキーボードが見当たらないような……。
「MMIDIキーボードは、すこし前に処分してしまったんですよ。マウスの入力に慣れているので、マウスで打ち込みしているんです。必要なときはクラビノーバがあるので、それを接続しています」
ーーえ! マウスのみで打ち込みしてるんですか。
「そうなんです。マウスで音符を書き込んでいて」
ーーものすごく時間がかかるのでは?
「僕の場合、弾いた方が時間がかかるんですよね。キーボードで弾くよりもマウスで入力した方が早い」
ーーでも、理論的なことは頭に入っているわけですよね。
「はい。元々はピアノを弾いてラフを作って、重要パートを譜面に起こしてから入力に移っていたんですけど、最近はあまりしていないですね。いきなり制作していくことが多いです。以前は、五線譜になぜかこだわっていました。そこだけは、アナログでやりたいみたいな(笑)」
ーー楽譜の知識は専門学校で身につけたんですか?
「小学校で習ったのを覚えていたのか、気づいたら五線譜は読めましたね。でも、子どものときに姉がピアノを弾いていたので、その頃から興味を持っていた部分はあるかもしれません。ちなみに、作曲に使っているクラビノーバは姉が当時使っていたものなんですよ」
もう一つの顔、二児の父
ーーお子さんがいらっしゃるんですね。
「はい、4歳と2歳の兄弟です」
ーーデスクにシールが貼ってあったりするのもお子さんの仕業ですか?
「そう、こういうの貼っちゃうんですよね。あ! ギターにも貼ってある……気づかなかった」
ーーお父さんが作曲していると、気になるんじゃないですか?
「もう少し小さいときは、近寄ってきちゃったりしていましたけど、最近は『お父さんが仕事をしている』というのがわかるようになったみたいで、仕事中は近寄ってこないようになりましたね(笑)」
ーー音楽に興味を持っている様子はありますか?
「あー......どうなんでしょう。ギターやピアノなどを触って音を出したりしていることはありますね。でも、音楽の道には行かない方がいいんじゃないかなって思っているので(笑)。
積極的に楽器を習わせたりとか、そういうことはしないですね。でも、もしもやってみたいとなったらそこは本人たちの自由ですけど」
サスペンスへの挑戦
ーーこれから先、どんな作曲家を目指していきたいですか?
「独立したいとか、どういう作家にという明確なビジョンはまだありませんが、サスペンスっぽい音楽を作ってみたいという気持ちがあります。ジャンルや媒体は問わず、サスペンススリラーのような曲を作ってみたいです。
サスペンス系の曲はメロディーが立っていて、メロディーによって作品全体の雰囲気を作るというパターンが多いと思っています。自分の曲がサスペンスの作品に入ったときに、どうなるのかということに興味があります。今後は、いままで機会がなくて手がけられなかったジャンルにも挑戦していきたいですね
ーージャンルを指定するところが、根っからの作曲家さんですね。今日はありがとうございました。
土屋俊輔
2007年プロキオン・スタジオ入社。
「アナザーエデン」、「ステラグロウ」、「TOKYOヤマノテBOYS」など、ゲーム音楽を中心とした作品を手がける。
オーケストラを中心としながらも、ロック、トランスなど幅広いジャンルの音楽に精通。熱い戦闘曲と、弦とピアノによる繊細な楽曲を特に得意としている。
作曲から編曲まで全て一人でこなし、幅広いジャンルに対応したオールラウンダーでもある。
アナザーエデン オリジナル・サウンドトラック
プロキオン・スタジオ代表の光田康典氏によるメインテーマ「Another Eden 〜時空を超える猫〜」や土屋俊輔氏による「殺されし時よ、人よ」など、60曲を収録する大ボリュームのサウンドトラック。
iTunes Storeほか、Prime Musicなど各種配信サイトで販売中!
Cubase Nuendoを選ぶ50の理由
SteinbergがYouTubeにアップしている動画シリーズ。
CubaseとNuendoは、その音質、操作性、先進的な機能で、世界中のオーディオプロダクションから愛されているDAWです。
とはいえ、搭載された機能が多すぎて、便利な機能を知らないまま使っている人も多いでしょう。
この動画シリーズでは、Cubase/Nuendoに搭載された数多くの機能から、様々なTipsを紹介しています。
今回は、シリーズから4本の動画をご紹介!
■Cubase Nuendoを選ぶ50の理由 1-1 : 環境設定編 vol.1
Cubase/Nuendoの環境設定では、ソフト全体の様々な動作・操作の設定が可能です。この動画では、
- 自動バックアップの間隔の設定
- MIDIデータインポート時の設定
- メーターの色や動作のセッテイング
- エディターの開き方の設定
- 各ゾーンの配色設定
についてご紹介します。
■Cubase Nuendoを選ぶ50の理由 1-2 : 環境設定編 vol.2
引き続き環境設定について。Cubase/Nuendoは、使う人の好みに合わせて様々な設定が可能です。この動画では、
- 各種編集操作の設定
- メディアベイに表示する項目数の設定
- ミキサーのゲイン操作をマウスで行う方法
- プリレコーディングの設定
についてご紹介します。
■Cubase Nuendoを選ぶ50の理由 2-1 : プロジェクト設定編 vol.1
Cubase/Nuendoでは、プロジェクト毎にも様々な設定を施すことが可能です。この動画では、
- プ口ジェクトのセットアップ
- グリッドの種類変更
- カラーのカスタマイズ
- トラックカラーの一括変更
についてご紹介します。
■Cubase Nuendoを選ぶ50の理由 2-2 : プロジェクト設定編 vol.2
引き続き、プロジェクト設定について。この動画では、
- トラックコントロールの設定
- プロジェクト内に境界線を作る方法
- プロジェクト画面にマスタートラックを表示させる方法
- トラックへのマスター録音(ループバック)の設定
- グループチャンネルの録音
- パンチイン/アウトの独立設定
- 別プロジェクトのトラックインポート機能
についてご紹介します。
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