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『ヨチヨチ父 とまどう日々』ヨシタケシンスケさんインタビュー:

育児メチャクチャで大丈夫です

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34歳の男が家事育児をしながら思うこと。いわゆるパパの教科書には出てこない失敗や感動をできるだけ正直につづる育休コラム。

 家電アスキーの盛田 諒(34)です、おはようございます。水曜の育児コラム「男子育休に入る」の時間です。今年2月に赤ちゃんが生まれて2ヵ月の育休を取り、地獄だ幸せだと騒いでいます。モデルになってくれている赤ちゃんにお礼をしなければ……

 親としての勉強をしていく「親勉」シリーズ第3回。今回は、絵本作家でありイラストレーターのヨシタケシンスケさんを先生にお迎えしました。

 絵本『りんごかもしれない』(ブロンズ新社)、『りゆうがあります』(PHP研究所)などで人気のヨシタケさん。今年初めて育児をテーマとしたイラストエッセイ『ヨチヨチ父 とまどう日々』(赤ちゃんとママ社)を上梓しました。

『ヨチヨチ父 とまどう日々』ヨシタケシンスケさん

 「生まれたての赤ちゃんをかわいいと思えないけど、言えない」
 「何ひとつ準備をせず、赤ちゃんと出かけようとして怒られた」

 お母さんの前では禁句ともいえるお父さんの正直すぎる本音を、かわいいイラストとともに巧みに描いた1冊。「そうだよね! やっぱりそのくらい思ってるよね!」と、育児疲れでガサガサになったお父さんの気持ちをやさしくのばしてくれます。

 逆に「夫がなぜあんなにムカつくことをするのか理解できない」という女性は、ぱらぱら読んでもらえると、腑に落ちるところがあるかと思います。「産後お父さんの取り扱い説明書」と思ってもらってもいいのかもしれないですね。

 一方、本の大きなテーマは「ふつうの育児なんてどこにもない」ということ。

 子どももそれぞれなら、子どもを生むまでにどんなことがあったかも家庭によってさまざまです。それでも育児に普遍的なものがあるとしたら、それはいったい何なのか。ヨシタケさんはなぜそんなテーマを書こうと思ったのか。そしてヨシタケさんにとって、親になるとはどういうことなのか。たっぷり時間をいただき、お話を伺いました。


■ファイル名だよ人生は

── ヨシタケさんの子ども時代は、姉1人、妹2人に囲まれて「場を荒だてない」ことが生きる目標。その性格がいまも変わらず、基本はネガティブ志向。以前のインタビューでそう話されていました。でも、結婚や出産というのはポジティブですよね。

 いやもう、最初はぜんぜん結婚したくなかったし、子どももほしくなかったですよ。

── えええ。大丈夫ですかそんなこと言って。

 自分1人でやっていくのも精一杯だったので。当時は、パンタグラフ(広告美術会社)※1で仕事をしながら、帰ってきて、夜にイラストを描いてたんです。「経済的な余裕がないから結婚したくない、子どももほしくない」という人はいると思うんですけど、もう典型的なそういうタイプでした。でもぼくの場合は、運が良いのか何なのか、嫁が強気な性格だったので。ある日、嫁が婚姻届を持ってきたんですよ。「ハンコ押せ」って。

※1 パンタグラフ:広告美術、コマ撮りアニメなどの映像企画制作や楽曲制作をしている会社。グーグルのエイプリルフール企画「日本語入力キーボード」シリーズの制作でも有名。実はパンタグラフが作品をまとめた本を出したとき、ヨシタケさんにお話を伺ったことがありました(取材後に気づきました……)

── ええーっ。

 ぼくも「ええーっ」と思って。「いいじゃないか、ハンコ1つ押すだけなんだから」と言われた。でもそれがけっこう新鮮で。子どもに関しても「結婚してもう7年なんだからそろそろ子ども作るから」って感じで。ずーっと生返事して今に至るので、そういうサクセスストーリーもあるんだなって。

── サクセスなんですか、それは。

 そこにサクセスって名前つけなきゃダメなんですよ。育児に関してもバタバタすぎる日常に「楽しい」って名前をつけなおさないとやってけない、というのが発見だったので。なんでもファイルの名前のつけかたなんですよ。「中身は変わらなくてもファイル名を変える」というのが、人生でやらなきゃいけないことなんだろうと。

ヨシタケさんの仕事部屋。自身の造形作品がたくさん並んでいます

── ご結婚は2003年、30歳のころですね。初のイラスト集『しかもフタがない』(PARCO出版)を出版された年です。それ以前はイラストと造形をともに作られていました。奥さまもヨシタケさんの造形作品に惹かれたところがあったんでしょうか?

 嫁はぼくの作るものには全然興味を示さなかったんですけど、ぼく自身には興味を示してくれたんですよね。で、「同棲するから」って。同棲したらしたで「同棲してるんだから結婚するでしょ」、「結婚してるんだから子どもつくるでしょ?」と。ぼく自身では絶対にやらないことをやらせてくれた、経験をさせてくれたことにはすごく感謝しています。ぼく自身は決断力もないし、度胸もないので。

── いい意味で奥さまに流されてきたと。

 そうそう、ぼくはずーっと流されてきたので。嫁さんの機嫌を損ねると面倒くさいということですべてが回ってきたんです。それで結果として子どもができましたけど、やっぱりできたらできたで面白い。そういう、流されることの面白さ、ファイルの名前をどんどん書き換えていくことの面白さっていうのは、実際そうなってみないとわからない。人生ってこういうことなんだろうなって、今では感じますね。

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