『週刊アスキー』電子版の連載「神は雲の中にあられる」(10月3日発売 Vol.1146)からの転載です。
目の前にサイコーの入力方式がある!
モバイル向けの入力方式は、ケータイ時代に草分け的に登場した「T9」あたりから始まったものが、「9Keys」、「Swift」、「Fleksy」、「Swype」などさまざまな方式に発展している(主にアルファベット語圏向けだが)。スマートフォンで、いかに気持ちよくすばやく文字入力できるかは世界的なテーマで、『ギネス世界記録』でも「Swype」と「Fleksy」での記録が、公式に登録されている。
Swype(正確にはSwype keyboard)は、2010年に図1の文章を35.54秒で入力した記録で使われた。それに対して、2014年にこの記録を「Fleksy」(こちらも正確にはFleksy Keyboard)を使って、一気に18.19秒で更新した17歳の少年があらわれた。
図1 ギネス世界記録のスマホ入力チャレンジ問題文
The razor-toothed piranhas of the genera Serrasalmus and Pygocentrus are the most ferocious freshwater fish in the world. In reality they seldom attack a human.
しかし、後者は物凄く速く入力する記録の樹立者が、「Fleksy」方式を使っていたというふうにとるのが正しいと思う。というのは、モバイル向けの文字入力に求められる要件にはいくつかあって、Fleksyは、「文字の押し間違い」をカバーすることが主たる特徴だからだ(フリック操作によってさまざまな操作がスムーズに行えるバランスのよさもあるが)。
一方、Swypeは、1つの単語を「一筆書き」のようにして一気に書いてしまう! QWERTYのソフトキーボードの上で指をなぞるようにするとそのまま文字が入ってしまう。ちょうど、日本人にはなじみやすいカナ漢字変換的に候補が出てくる。図2や私が入力している動画を見ていただくのがはやいのだが、なんとなく書道の達人が流れるような書体で書いたものが、実はこんな意味の言葉でしたみたいな不思議な楽しさかある。
ということで、ここ1カ月ほど「Swype」を使ってスマートフォンの入力を試していた。提供社の米Nuance Communications社によると、世界中で2億5000万のユーザーに使われているという方式だが、なんと日本語入力にも対応しているのだ!
世の中は、いま人工知能ブームというわけで、スマートフォンの音声認識もかなり便利に使えるようになった。経済学者の野口悠紀雄氏は、『話すだけで書ける究極の文章法 人工知能が助けてくれる!』(講談社)とそのものズバリの内容を、まさに音声認識で1冊書いてしまったそうだ(ここでも一度触れました)。私も、スマートフォンでお店検索やLINEで返事を書くときなんかは、音声で入力してしまうことが少なくない。しかし、当たり前のことだが音声入力というのはどうしても場所を選んでしまう。
その点、Swypeなら音声入力的な滑らかさで、文字入力ができるんじゃないかというわけだ。
ちなみに、ギネス世界記録で、Swypeの記録を大幅に塗り替えた「Fleksy」という方式は、KDDIが一緒になって日本語版ベータを提供していたが、なぜか現在のバージョンでは対応していない。マイクロソフトが買収した「Swift」は「Swype」と比較される方式で評判がよいが、これも日本語対応していない。やはり、頼りはSwypeのようである。
1カ月間、Swype入力を使ってみていちばん「有りがたい」と感じたのは、必ずしも入力スピードばかりではない。たとえば、「えんどう」と入力するとき指を画面にタッチさせる(キーボードでは打つ)操作は1回である。「e」「n」「d」「o」「u」のキーの上をサササッっと1ストロークでなぞることになる。「さとし」は「s」「a」「t」「o」「s」「i」を1ストローク。
つまり、キーに指を「触れる」操作は2回しかやらない。これが、フリックだと「えんどう」は5回、「さとし」は3回の画面タッチとなる。平均してタッチの数は4分の1になる。これの何がよいのかというと、要するに「指に対する負担」が明らかに少ない。大量の文字を入力しても、指が痛くならないのだ!
ここで気になると思うのは、日本語は「漢音」の影響が大きいといわれるので、最上段の「UIOE」あたりは頻繁に使用することになることだ。その場合、指でなぞるルートをキーボードの領域から上にはみ出して認識させたくない文字を避けるようにするとよい。また、「ん」のように「n」「n」と続けて入力したいときには、キーのあたりで小さく円弧を描くとよい。
これでダメなときには、ふつうに「sokowonanntoka」とかバラバラに入力してあげて、いちど出てきた単語を選択すれば、そのあとは同じ文字並びを一筆書きして認識できるようになる。さらにいうと、全体のパターンがあっていれば、必ずしも単語を構成するキーの上を正確に通過しなくてもいいファジーさもある(これが実にすばらしい!)。
逆にいうと、「なぞりパターン」の学習がとても重要な要素になっていて、少し前の音声認識のようにエンロール的な時間がいささか手間になる。それを除けば、Swype入力って「本当にサイコー」と書きたいのだが、非常に重要かつ致命的(とはいっても簡単に解決可能=提供社が対応すればだが)な問題点があるのだった。
ひとことでいうと、「日本語辞書がダメ過ぎる」。しかも、「学習」のしくみが不十分で、単語登録もまともにできない。いまどき、グーグルの「Mozc」というオープンソースの変換エンジンを組み込んでやればいいと思うのだが。これをまじめにバージョンアップしてくれたら、日本の7600万全スマホユーザーの生産性は確実に30パーセントくらいあがるはず。これなんとか実現できないですかね?
ちなみに、スマホ日本語入力のお話をしていたら「アルテ on Mozc」という入力ソフトがあることを教えてもらった。これが、フリック入力の進化形とされていてテンキー上でなかなか快適な入力ができる。さらにいうと、「きょう」などと入力するときには、テンキー上で一筆書きのように入力するのである! ただし、Swypeみたいに単語や文節まではやっていない。テンキーでやる場合には、一筆書き入力では重なる単語が多すぎるということらしいのだが……。
遠藤諭(えんどうさとし)
株式会社角川アスキー総合研究所 取締役主席研究員。月刊アスキー編集長などを経て、2013年より現職。角川アスキー総研では、スマートフォンとネットの時代の人々のライフスタイルに関して、調査・コンサルティングを行っている。また、2016年よりASCII.JP内で「プログラミング+」を担当。著書に『ソーシャルネイティブの時代』、『ジャネラルパーパス・テクノロジー』(野口悠紀雄氏との共著、アスキー新書)、『NHK ITホワイトボックス 世界一やさしいネット力養成講座』(講談社)など。
Twitter:@hortense667Mastodon:https://mstdn.jp/@hortense667
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