難しい顔して、フェーダーの上げ下げしてもかっこ悪い
多摩美大などでウェブ技術やTidalなどの授業を担当する田所淳氏も、即興で音楽を作り上げられる点に魅力を感じているという。
「以前からラップトップでパフォーマンスをしていたんですが、あらかじめ作ってきたものをその場で再生する感じになってしまって。難しい顔してフェーダーを上げ下げしててもかっこ悪い、もっと面白い方法がないかと思っていた時期にライブコーディング環境に出会ったんです」
多摩美や慶應大SFCなどでマルチメディア系の授業を持つ田所淳氏は、emacsでTidalCyclesをコーディング。プロジェクタで投影されている画面の右半分はopenFrameworkで作成した画面で、流れている音をヴィジュアライズしたもの。
なお、ライブコーディングではクラブ系の音楽を演奏することが多いが、これはシンプルな反復を基調としたクラブミュージックとプログラムが生み出すアルゴリズムの親和性が高いから。実際、TidalCyclesの開発者たちがイギリスで主催しているイベントの名前はAlgorave(アルゴリズム的なレイヴの意味)だそうで、アルゴリズムが現在のメディアアートでは重要なキーワードとなっているようだ。
AIをも取り込む最新メディアアート
ライブコーディングがいつごろ始まったかは定かではない。記録に残る最初のパフォーマンスは1985年にオランダ・アムステルダムのSTEIM(STudio for Electro Instrumental Music)で行われたもので、電子音楽の試みとして演奏されたという。
田所氏によると、日本国内でのライブコーディングは前述のRenick Bell氏や、今回のイベントにも参加している多摩美術大教授の久保田晃弘氏が先駆者。2000年代後半ごろから始まったという。久保田氏は、芸術のための人工衛星を打ち上げるプロジェクト・ARTSAT(http://artsat.jp/about)の中心として、第66回芸術選奨文部科学大臣賞(メディア芸術部門)を受賞、テクノロジーと芸術の境界を追求し続けている人物である。
多摩美術大学教授の久保田晃弘氏は、TidalCyclesでピアノ音源を演奏。単純な音列を徐々に変化させる様は現代音楽のようで、クラブミュージック寄りの音を出す他のパフォーマーとは違ったライブコーディングの一面を見せてくれた。
今回のパフォーマンスにはAIを一部利用したとのことで、先端アートが最新テクノロジーを旺盛に取り込んでいる様子がうかがえる。
AIはメディアアートの世界でも注目されている様子で、メディアアートの祭典として毎年オーストリアで開催されているアルス・エレクトロニカでも今年のテーマはAIだったという。新しい技術をどうアートに応用していくか、フィールドワークの一つがライブコーディングだとも言えそうだ。
イベントの大トリを務めた現役多摩美大生の白石覚也氏もTidalCyclesを使用。IAMASのScott Allen氏が担当するレーザーと合間って、サイバーな空間を演出。パフォーマンスは、音色を指定すると、AIがコーディングを行なってくれる仕組みを用いているとのこと。
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