読者は「プログラミング」に対して、どのようなイメージを持っているだろうか。ディスプレーに向かいながら眉間にしわを寄せてキーボードを叩いているような、地味な姿がまず思い浮かぶのでは? ところがそんなイメージを壊すようなパフォーマンスが、いま世界でさかんになっている。
ただのクラブイベントじゃない
百聞は一見に如かず、まずは次の映像を見てほしい。
クラブミュージックのような音楽が流れる中、バックスクリーンにプログラムコードが表示されている。リアルタイムでコードが書き換えられ、画面が点滅するたびに音楽が変化していることにお気づきだろうか。
これがこの数年、日本でも徐々に盛り上がりを見せてきている、音楽や映像を即興的にプログラミングで作ってみせる「ライブコーディング」というパフォーマンスだ。
面白いのは、このライブコーディング、日本ではいわゆるギークなプログラマーからではなく、美大から広まっているということだ。実際、著名なパフォーマーは美術大学の講師をしており、ライブコーディングに関連する授業は、すでに主要美大で何年も前から行われている。
そんなライブコーディングシーンを牽引するパフォーマーが揃うイベント、Interim Report edition 2が9月22日、渋谷CIRCUSというクラブで開催された。ライブコーディングとはどのようなものなのか、なぜプログラミング自体をパフォーマンスにするのか? そんな疑問をパフォーマーたちにぶつけ、ライブコーディングの魅力や現状を聞いてきた
音楽全体を即興でコントロールする魅力
実はこのInterim Report edition 2、文化庁メディア芸術祭協賛事業でもある。
多摩美術大学と情報科学芸術大学院大学(IAMAS)の関係者が多く出演しており、DJやバンド演奏、VJなどもある通常のクラブイベントの体裁を取っていたが、いずれもメディアアートの文脈からアプローチをしており、裏にはコーディングやクリエイティブツールが用いられていた。そしてその中心がライブコーディングだった。
ちなみにライブコーディングに利用される環境だが、坂本龍一も利用しているビジュアルプログラミングツールのMax(旧称Max/MSP)や、エレクトロニカ系ミュージシャンの使用も多いSuperColliderが一般にも知られているが、今回のイベントではCUIベースのTidalCycles(通称Tidal)使用者が多かった。TidalにはSuperDirtというサンプラーが付属しており、TR-808/909などのサンプルが200種類ほど入っている。
しかし同様のことはAbleton LiveなどのDAWソフトや、シーケンサー等の機材でも可能かもしれない。わざわざパソコンを利用する意義はどこにあるのだろうか?
ライブコーディングに魅了される人たちは、その自由度の高さを利点として挙げる。多摩美でライブコーディングをテーマに博士号を取ったRenick Bell氏は次のように語る。
「僕は子供の頃ピアノを習っていたけれど、それほど上手ではなくて。でも、プログラミングは6歳頃からやっていたから、タイピングスキルは悪くなかった。ライブコーディングならば、自分もギターやピアノのように音楽を演奏できることに気がついた。すべての楽器を自分でコントロールできるから、いわば自分は指揮者のようなもの。思いついたことを即興でコーディングすると、予想していなかった音が出てきたりして、とてもエキサイティングなんだ」
2007年頃からライブコーディングを始めたと言うRenick Bell氏は、Haskellで作成した自作のライブラリ「Conductive」でベースミュージック(クラブミュージックの1ジャンル)を披露した。このライブラリは、1音1音入力しなくても、パターンを自動生成する仕組みとなっているとのこと。
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