斬新なアイデアと量産ノウハウのマッチング、JDSoundとMakers Boot Campが実態を語る
スタートアップと地方工場が良好な関係を築くためには?
量産:信頼できるパートナー=工場をどうやって見つけるか
JDSoundでは、2012年発売のGODJにおいては韓国で基板を生産し、中国で組み立てるといった海外生産のかたちを取っていた。そのほうがコスト安だったからだ。しかし、GODJ Plusの生産においては、部品は海外から調達しているものの、最終組立と検品は国内工場で行うというかたちに舵を切っている。
「GODJ Plusに関しては、値段よりも品質で勝負することで、世界にも打って出られると考えた」(宮崎氏)
宮崎氏は、もともと創業時から、日本国内で生産したいという思いを持っていたと語る。生産パートナーとなる工場は、1時間以内で行ける場所にあり、何かあれば直接会って話し合い、一緒になって問題解決に取り組める関係を望んでいた。
そうした工場を探し、仙台市の経済局に相談したところ紹介されたのがヤグチ電子工業だったという。「ほかにも(業界団体の)宮城工業会など、宮城県内ではスタートアップでも相談できる窓口があり、工場どうしのネットワークは良く出来ていると思う」(宮崎氏)。
一方で牧野氏は、京都には京都試作ネットがあるものの、大阪や滋賀など他の府県ではそうした工場間のネットワークが弱く、行政の窓口にもなかなか紹介してもらえない、紹介してもらってもスタートアップとの仕事は敬遠されがちである、といった問題点を指摘した。
検品:高い生産品質という国内工場の価値
国内工場を使うメリットは、やはり生産品質の高さだという。宮崎氏は、海外調達の部品では大抵1~2%の不良品が混在するが、工場側で仕入れた部品のチェックや出荷前検品をしっかり行ってくれるため、「これまで1600台くらい出荷した中で、不良の発生は1、2台に抑えられている」と語る。出荷後に不良が発覚した場合の影響を考えると、単純に生産コストだけでは語ることのできない価値があると言えるだろう。
「『こういうテストをしてください』とお願いしたら、工場長に『それじゃ全然足りないよ』と指摘され、われわれも勉強になった。工場側にはウォークマン時代に培った検品品質にまで持っていきたいという思いがあって、こちらが『そんなに検品で落としたら出荷できないのでは』と思うほど厳しくチェックする。経験の少ないわれわれでも不良が少ない製品を出せた理由は、そこにある」(宮崎氏)
一方で、中国や韓国の工場との付き合いでは「この品質で出荷できちゃうんだ……」と思うことも多いと宮崎氏は言う。「こちらが準備した検査プログラムを絶対に通してない、というものが出てくることもある」(宮崎氏)。
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今後の取り組みとして、宮崎氏は、量産ノウハウを持たないハードウェアスタートアップに対して「クラウドファンディング駆け込み寺」を提供するプランを語った。JDSoundが量産向けの再設計と試作を行い、石巻の工場で製造する。「とにかくこれからも、Made in Japanの製品を多く作っていきたい」(宮崎氏)。
また牧野氏は、現在、海外スタートアップ2社に投資しており、そのうち1社が京都で試作をスタートしていると紹介した。「ハードウェアの世界はとても幅広い。MBCは試作の部分だが、ほかにも部品調達、量産、販売といろいろな要素がある。そうしたところも巻き込みながら、日本全体でひとつのビジネスモデルを作るのが大事なのではないか」(牧野氏)。
大企業による大量生産モデルが崩れるなかで、地方工場にもビジネスモデルの見直しが迫られている。また、中国の生産コストの高まりなどの新たな影響も見えてきた。そうした中で、スタートアップの斬新なアイデアを受け入れ、自らのノウハウも生かして付加価値を生んでいくという「スタートアップ+地方工場」の組み合わせには、これからの大きな可能性があるのではないか。そう感じさせてくれるセッションだった。
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