斬新なアイデアと量産ノウハウのマッチング、JDSoundとMakers Boot Campが実態を語る
スタートアップと地方工場が良好な関係を築くためには?
ハードウェアスタートアップの場合、せっかく斬新な製品アイデアがあっても、それを実際の“もの”として生産し、ユーザーの手元に届けるまでには数々のハードルがある。スタートアップが抱えるそうした課題を、豊富な“ものづくりノウハウ”を持つ日本の(特に地方の)工場がサポートし、お互いに刺激を与え合いながら市場を活性化していくことはできないか。
8月28日開催の「IoT&H/W BIZ DAY 4 by ASCII STARTUP」では、「IoTハードウェアスタートアップと向き合う日本の工場」と題し、JDSound代表取締役の宮崎晃一郎氏、Darma Tech Labs共同創業者/代表取締役の牧野成将氏によるパネルディスカッションが開催された。
ハードウェアスタートアップと日本の工場が手を組み、世界を目指す
宮崎氏のJDSoundは、2012年に宮城県仙台市で創業した、デジタルオーディオ機器の設計/開発/販売を手がけるスタートアップだ。従業員数は現在7名。2012年末発売のポータブルDJ機器「GODJ」を皮切りに、多くのプロミュージシャンも愛用するギター用デジタルエフェクター「Flight Time」「Ambi Space」、ハイレゾオーディオプレイヤーの「VALOQ」(受託開発)といった製品を生み出してきた。
そして今年発売したのが、GODJの強化モデルとなる「GODJ Plus」だ。どこでも持ち運べるバッテリ駆動/小型(A4サイズ)/軽量の本体に、2台のプレイヤーやミキサー、エフェクターだけでなく大音量高音質スピーカーまで搭載した完全一体型のDJ機器となる。4月に出荷開始したファーストロット2000台はすでに完売し、9月に予定しているセカンドロットからは、海外市場(北米、東南アジア、欧州)での販売も狙っていくという。
GODJ Plusの生産(最終組み立て/検品)は、JDSoundと同じ宮城県の石巻市にあるヤグチ電子工業が手がけている。かつてはソニー「ウォークマン」を生産していた工場であり、宮崎氏は両社による高品質な製品の提供を通じた“Made in Japanの復権”というビジョンを持っている。
一方、牧野氏のDarma Tech Labsは京都府京都市で、国内/海外スタートアップのものづくりをサポートするハードウェアアクセラレーター「Makers Boot Camp(以下、MBC)」を立ち上げ、包括的な取り組みを展開している。
9月1日には、3Dプリンター、レーザーカッター、CNCマシーンなどが使えるモノづくりスペース「Kyoto Makers Garage」を京都にオープンした。
ベンチャーキャピタルでの業務経験も持つ牧野氏は、国内/海外を問わず、ハードウェアスタートアップは皆「ハードウェア製造プロセスの難しさ」という課題に直面していると説明する。たとえば、Kickstarterにおける統計でも、資金調達に成功したハードウェアスタートアップのうち「75%以上(つまり4分の3以上)」が、製品を予定どおりに生産/出荷することに失敗しているという。「量産化の前段階でつまづいているスタートアップが多い」(牧野氏)。そこで、この課題を解消すべくMBCを立ち上げたわけだ。
MBCによる取り組みのひとつが「京都試作ネット」との連携による、国内外のスタートアップと中小製造業とのマッチングだ。50社超が加盟する京都試作ネットでは、部品加工からシステム/装置開発、ソフト開発まで、試作に特化したソリューションを提供する企業集団である。ハードウェアスタートアップがつまづきやすい試作段階を、開発と量産のノウハウを持つベテランたちがサポートする。
加えて、試作にかかる費用を投資する“Shisakuファンド”の運営(京都銀行やDMG森精機が出資)、量産段階以降のサプライチェーン構築やアフターサービスの支援といった取り組みも行っている。MBCが掲げるテーマは、国内外のスタートアップを京都から支援することで「京都を“ものづくりベンチャー”の都に」するというものだ。
以下では、ハードウェアスタートアップが新たなプロダクトをリリースするまでの流れ(資金調達、試作、量産、出荷……)に沿って、宮崎氏、牧野氏それぞれの体験談やアドバイスをまとめてみたい。まずは「資金調達」から見ていこう。
週刊アスキーの最新情報を購読しよう
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります