スタートアップには、ハードウェア製品の量産を行なっている企業はまだまだ少ない。理由は明確で、量産のための資金が必要であり、また量産をするには開発とは異なるモノづくりのノウハウが必要になるからだ。量産のための資金調達・ノウハウはともに簡単に用意することができない。
そんな問題点を解決すべく、「ハードウェア/IoTスタートアップの量産化試作を支援する」とアピールするサービスがある。京都に拠点をおく株式会社Darma Tech Labsが運営するMakers Boot Camp(以下、MBC)だ。現在、日本だけでなく世界のスタートアップ企業を対象に、「投資による資金支援」、「中小の製造業による量産化に向けた試作支援」を提供している。
創業者の1人である牧野成将氏は、「製造業としての機能と、金融としての機能の両方を提供する新しいビジネスモデルを実現している」とアピールする。そして、「我々のビジネスによって、ハードウェアスタートアップが製品を世に送り出すチャンスを得るのと同時に、日本の中小製造業にとって世界のスタートアップ企業と連携する新しいチャンスを実現する手助けをしている」と話す。MBCが目指すビジネスとはどんなものなのか。牧野氏に聞いた。
海外ハードウェアスタートアップも量産化に困っている
MBCのウェブサイトを見ると、「世界的なモノづくり企業が集積する京都をベースに、ハードウェア/IoTスタートアップの量産化設計を支援します」とある。
MBCは2015年に活動を始めた団体であり、モノづくり関連では起業家人材育成を含めたスタートアップ支援を事業としている。たとえば2017年4月には米ピッツバーグでビジネスコンテスト「Hardware Cup 2017」が開催されたが、このコンテストに参加した日本のハードウェアスタートアップを選出する予選をMBCが共催している。
「Hardware Cupは元々、米国だけで予選を開催していたが、カナダ、韓国、イスラエルと参加国が増えていった。4月の大会から日本からも参加できるように働きかけた。ハードウェアのスタートアップ企業は、日本だけでなく全世界的に少ない。少しでもその数を増やしていくために、世界で開催されるコンテストに日本からも参加することが必要だと考えた。日本でスタートアップを増やすには、人材育成も含め起業の底上げとなるような活動が必要。たとえば京都では若い人材を育成するために、高校生を対象とした『起業家育成コース』を開講している」(牧野氏)
そのようななかでMBCはハードウェアの量産化支援、資金援助を主な事業としており、その背景は、MBCの創業者3人に起因している。
代表である牧野氏はベンチャーキャピタリストとしての10年以上の経験をもつ。共同創業者の藤原健真氏はソニー・コンピュータエンタテインメントにてエンジニアとしてゲーム機PlayStationの開発に従事した後、数社のテクノロジーベンチャー企業の共同創業者だった。もう1人の共同創業者である竹田正俊氏は、光造形の試作企業の経営者であるとともに50社超の中小製造企業が加盟する試作のプロフェッショナル集団「京都試作ネット」前代表理事でもある。異なる経歴を持つ創業者同士が結びつくことになったのは、それぞれが感じていたジレンマだった。
「私が前職で日本のベンチャー企業をシリコンバレーに連れて行き、現地の投資家に紹介などを行なった際、ほとんどの企業に興味を持ってもらうことができなかった。その中で唯一興味を持ってもらったのは、これまで音楽室用に提供してきた防音設備を、音楽室以外で利用することを提案したいわゆるハードウェア企業だった。その時、日本ではあまり注目されることがない日本の製造業の技術の中に、世界に通用する技術、ニーズがあると感じた」(牧野氏)
また、米国のスタートアップ企業が、日本のスタートアップ企業と同様に製品を量産化するプロセスに大きな悩みを抱えていることも明らかになった。
「IoTに注目が集まっている中で、多くのハードウェアベンチャーが登場してきている。ところが、日本同様、量産化に踏み切る際の試作でつまずくケースが多く、困っているという声があがっていた。日本同様、海外のハードウェアスタートアップも、量産化に困っていることは明らかだった」(牧野氏)
この時の経験から、牧野氏は日本の製造業には、海外で勝負できる可能性があると考えるようになった。製造業が持つ技術を海外で提供することに加え、海外のハードウェアスタートアップを日本の製造業者が支援することができないかというアイデアが浮かんだ。
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