2017年7月27日、AMDはZenアーキテクチャーを使用したバリューゾーン向けCPU「Ryzen 3」の発売を開始した。国内では、明日7月28日の午前11時に販売を行なう予定。3月に登場したハイエンド「Ryzen 7」、そして4月のミドルクラス「Ryzen 5」の弟(妹)分というべき製品だ。
Ryzen 3のラインナップは「1300X」および「1200」の2モデルのみが用意され、いずれも4コア4スレッド、倍率ロックフリーが共通仕様となっている。内蔵GPUは持たないためビデオカードが必須となるのはRyzen 5/7と同様だ。
今回のRyzen 3でも“価格帯で競合するインテル製よりも物理コア数が多くて安い”というコンセプトは継承されている。価格は、Ryzen 3 1300Xが税込で1万7800円前後、同1200は1万5000円前後とのこと。
物理コア数基準ではCore i5-7400~7500対抗(実売2万2000~2万3000円前後)となりRyzen 3が安価。また価格帯を基準に考えるとCore i3-7300(実売1万7000円前後)あたりが対抗となりRyzen 3の方が物理コア数が多くなる。
今回は短期間ではあるがRyzen 3の2モデルを試す機会に恵まれた。Ryzen 5/7で世間を沸かせたRyzenマジックはエントリークラスのCPUでも炸裂するのだろうか? ベンチマークを交えながら検証してみたい。
2コアCCXを2基組み合わせた4コアCPU
ではRyzen 3のスペックを上位モデルや競合CPUと比較してみよう。前述の通りRyzen 3はすべて4コア4スレッド。SMTが無効化され、微妙にベースクロックが下がったRyzen 5 1500Xと1400と言ってよいスペックだ。メモリー周りの仕様やXFR時のブースト幅も同じ。SMTがないRyzen 5と言い換えてもよいだろう。
Ryzen 3のスペック(価格は初出時価格で比較) | ||||
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Ryzen 5 1500X | Ryzen 5 1400 | Ryzen 3 1300X | Ryzen 3 1200 | |
コア / スレッド | 4 / 8 | 4 / 8 | 4 / 4 | 4 / 4 |
ベースクロック | 3.5GHz | 3.2GHz | 3.5GHz | 3.1GHz |
ブーストクロック | 3.7GHz | 3.4GHz | 3.7GHz | 3.4GHz |
XFR | 3.9GHz | 3.45GHz | 3.9GHz | 3.45GHz |
L2キャッシュ | 2MB | 2MB | 2MB | 2MB |
L3キャッシュ | 16MB | 8MB | 8MB | 8MB |
TDP | 65W | 65W | 65W | 65W |
実売価格 | 2万5000円前後 | 2万2000円前後 | 1万7800円前後 | 1万5000円前後 |
内部的な構造もRyzen 5と共通だ。ZenアーキテクチャーではCCX(CPU Complex)をInfinity Fablicで連結することで安価に多コア化できるのが最大の強みであり、Ryzen 7のCCX1基にはCPUコアが4つ、Ryzen 5ではCPUコアが2つないし3つという構成になっている。そして今回のRyzen 3でも2コアのCCXが2基内蔵されている。4コアCCXは優先的にRyzen 7やこのあと登場予定のThreadripperに回されるため、2コアCCXはRyzen 3や5で消費するということだろう。
AMDはRyzen 3が低価格で入手できる物理4コアCPUであることから動画エンコードやコンテンツ作成用と推しているだけでなく、ライトゲーマー向けCPUにも好適とアピールしている。かつて当サイトでもインテル製CPU対AMD製CPUの対決を4月、6月に実施してきたが、メインストリームのミドル以上ではほぼインテルに負けてきた。これがエントリーでは覆るとAMDは謳っているのだ。
検証環境は?
今回の検証環境を紹介しよう。前掲のAMD資料でライバル視されてたCore i3-7300、価格帯的に1ランク上だが同じ4コア4スレッドのCore i5-7500を準備し、エントリーゲーミングPCにやや寄せた構成でそれぞれ対決させてみる。AMD環境については、今回AMDから提供された評価用キットに含まれていたマザーボードとメモリーをそのまま流用している。メモリーはDDR4-3000動作が可能なものだったが、全環境でDDR4-2666に統一している。電源オプションは、Ryzen 3が「Ryzen Balanced」、インテル環境が「バランス」とした。
【検証環境】
CPU:AMD Ryzen 3 1300X(3.4GHz、XFR時最大3.9GHz)、Ryzen 3 1200X(3.1GHz、XFR時最大3.45GHz)、Core i5-7500(3.4GHz、最大3.8GHz)、Core i3-7300(4GHz)
マザーボード:MSI X370 XPOWER GAMING TITANIUM(AMD X370、BIOS 7A31v17)、ASRock Z270 GAMING K6(Intel Z270)
メモリー:Corsair CMK16GX4M2B3000C15(DDR4-3000 8GB×2、DDR4-2666で動作)
グラフィック:ASUS ROG-STRIX-GTX1060-O6G-GAMING(GeForce GTX 1060)
ストレージ:Crucial CT1050MX300SSD4/JP(SATA M.2 SSD、1.05TB)
電源ユニット:Silverstone SF85F-PT(850W、80PLUS Platinum)
OS:Windows 10 Pro 64bit版(Creators Uptade)
電力計:ラトックシステム REX-BTWATTCH1
1万円台4コアCPUとしては優秀なマルチスレッド性能
検証は定番「CINEBENCH R15」を利用したCPUの計算力比べから始めよう。シングルスレッド性能とマルチスレッド性能をスコアー化する。
まずマルチスレッド性能に関してはRyzen 3はCore i3-7300に対して物理4コアという強みを活かし上回った。スコアーそのものは高くないが、1万円台で買える4コアCPUとしては、十分評価に値する性能といえる。だがその一方でシングルスレッド性能はCore i3-7300に負けている点にも注目。これはZenアーキテクチャ共通の弱点ではあるが、さらにCore i3-7300はTBなしの4GHz動作と高いことも手伝い、このような差を生んでいる。
一方スペック的にRyzen 3 1300XとCore i5-7500はスペック(どちらも物理4コア、動作クロックも近い)的に競り合う製品だが、CINEBENCH R15のスコアーではCore i5-7500が高スコアーという結果となった。ただCore i5-7500の実売価格は現在2万3000円前後。Ryzen 3 1300Xよりも5000~6000円は高ことを考えれば、値段に見合った仕事をしているといえる。
ではRyzenが推す動画エンコード処理ではどうか? ということで「TMPGEnc Video Mastering Works 6」を使って検証する。再生時間3分のAVCHD動画をx264およびx265エンコーダーを利用してMP4形式に書き出す時間を計測する。いずれも2パスエンコードとし、画質などのパラメーターはTMPGEnc側のデフォルト値をそのまま利用している。
Ryzen 3 1300XはライバルCore i3-7300よりも短時間で処理を終えている。筆者の経験上TMPGEncのx265の処理はRyzenだとインテル製CPUより遅くなりやすい傾向が見られたが、Core i3-7300は2コア4スレッドに対しRyzen 3 1300Xは4コア4スレッド。物理コアの多さは力であると改めて認識した。ただ同じ4コア4スレッドでもクロックの低いRyzen 3 1200はCore i3-7300よりもわずかに遅い。つまりクロックの高さも1300X勝利の大きなファクターになっていることがわかる。
ゲーム性能検証に入る前に総合ベンチマーク「PCMark10」で様々なシチュエーションでの性能差を見ていきたい。今回は全てのテストグループを実行する“Extended”テストを実施した。ExtendedテストはPCMark10が実施可能な4つのテストグループを全部実行するテストなので、総合スコアーの他に各テストグループの結果も比較する。
まず総合スコアーではRyzen 3はインテル製CPUに迫りこそすれ、あと一歩のところで追いつけなかった。筆者の経験上スコアー5000ポイントはエントリーPCとしては十分な性能が期待できる値ではあるが、どのようなテスト結果がこの差を生み出したかさらにチェックしよう。
まずアプリの起動速度やWebブラウジング、ビデオチャットでのエンコード処理等をみるEssentialsテストをさらに細かく眺めてみる。どのテストでもおしなべてRyzenが低めだが、CPU負荷が高いビデオチャットでは辛うじてRyzen 3とCore i3-7300が並んだ。性能としては申し分ないが、後述するプラットフォーム価格で考えると、Ryzen 3のコスパはやや微妙だ。
「LibreOffice」を利用した文書作成や表計算処理の快適さを比較する“Productivity”テストグループでも、インテル製CPUに大きく後れをとっている。Core i5-7500よりCore i3-7300の方が高スコアーをあげているのは、このテストでは物理コア数よりもクロックの高さが効いているためと推測できるTBなしの4GHz動作は思ったより強い。
写真編集や3DCG作成処理、動画編集といった重めの“Digital Contents Creation”テストグループでは、Ryzen 3 1300XがCore i3-7300に総合スコアーで勝利したが、Ryzen 3 1200はわずかに及ばなかった。
テストの細目に目を向けると、Ryzen 3 1300XがライバルCore i3-7300に対してはPhoto EditingとRendering and Visualizationが優位だが、Video Editingに関しては今ひとつだった。Ryzen 3 1200がCore i3-7300に全テストを通じて負けていることを考えると、半端なクロックの4コア4スレッドCPUより、高クロックの2コア4スレッドCPUの方が実用的である、と言える。
最後は“Gaming”のテストだが、これは「3DMark」の“Fire Strike”をほぼそのまま回している(ただ同じハードでも3DMarkとは異なるスコアーが出るので、完全に同一ではないようだ)。
CPUの物理コア数が多いのでRyzen 3のPhysicsスコアーはCore i3-7300より高くなるのは当然だが、スコアーの大勢を握るGraphicsテストでは高スコアーを稼ぎきれていないどころか、Core i3-7300より下回る。CINEBENCH R15でも見られたシングルスレッド性能の低さが、ここでも影響しているようだ。
ゲーミング性能比較には「ファイナルファンタジーXIV:紅蓮のリベレーター」の公式ベンチを使用した。解像度はフルHD、画質は“最高品質”と、その2段下の“高品質(ノートPC用)”でそれぞれ計測した。
今回は時間の都合上、FF14以外のゲームベンチを試すことはできなかったが、Ryzen 3と同価格対のCore i3-7300だけの対決を見ても、平均fpsベースで10fps程度Ryzen 3の方が遅い結果となった。全てのゲームがこうなると断言するつもりはないが、エントリーCPUにおいてもインテル製CPUに勝てていない。別の機会にCPU負荷のもっと高いゲームでも検証してみたいところだ。
最後にシステム全体の消費電力を比較する。アイドル時とはシステム起動10分後の安定値、高負荷時とは「OCCT」のCPU Linpackテスト(64ビット、全コア使用、AVX)を30分実行した際のピーク値を採用している。
物理コア数が多いのでCore i3-7300よりも消費電力が増えるのは当然の話だが、Ryzen 3 1300Xにおいては同じ4コア4スレッドのCore i5-7500よりも消費電力が大きい。動作クロックをブースト時3.7GHz、XFR時最大3.9GHzまで引き上げたことがRyzen 3 1300Xのパフォーマンスの源泉ではあるが、同時に電力効率を悪化させてしまったといえる。
エントリーでは内蔵GPU搭載の次期APUに期待
以上で駆け足だがRyzen 3のレビューは終了だ。いくつかのシチュエーションにおいて価格的なライバルであるCore i3-7300を上回る性能を見せたが、Ryzen 7のようにCPU選択そのものに影響を与えるほどのインパクトは筆者には感じられなかった。
もちろんRyzen 3はCore i3-7300の方が良好な結果を示す、あるいは同等の結果を示すシチュエーションもあったが、今ひとつ中途半端感が漂う。なによりこれからエントリークラスのCPUで一台組もうかという人にとっては、Ryzenが内蔵GPUを持たないということは大きなハンデといってよい。現状のインテル製内蔵GPU性能の低さはさておいても、Ryzen 3でもビデオカード必須というのはかなり残念。ゲーミング性能はFF14しか試せなかったが、逆に言えばFF14あたりでパフォーマンスをアピールできる程でないと、このクラスのCPUを求める国内ゲーマーの財布の紐を緩めるのは難しいのではないだろうか。
さらにインテル製CPUなら内蔵GPUがあるため、ビデオカード分の予算をCPUに回し、Core i3ではなく性能面で安定してRyzen 3を上回れるCore i5にするという選択ができるが、Ryzen 3では無理だ。これはRyzenシリーズ共通のジレンマだが、Ryzen 7や5の上位モデルはKaby Lakeをマルチスレッド性能で大幅に上回るという強烈な武器があるので問題にならない。エントリークラスのCPUだからこそ、この縛りが問題になる。
と、考えてみると真にAMDがこのゾーンに投入すべきはZen+Vega構成を採用する第8世代APU“Raven Rigde”であることは明らかだ。AMDがエントリークラスのCPUで無双する日を楽しみに待ちたい。
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