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JBL「E55BT クインシーエディション」を聴いてみた

充実した音の存在感が魅力! クインシー・ジョーンズが創る音の世界を聴き比べ

2017年08月01日 17時00分更新

JBLとクインシーに合わせて、ジャズとマイケル・ジャクソンを試してみた

 お決まりの音源はここまでにして、ここからはそれぞれのヘッドフォンが得意そうなジャンルで楽しんでみたい。3曲を聴いたところでベースモデルには、小さなJBLが鳴るジャズ喫茶の趣を感じた。スイートな音で音楽の雰囲気を演出する様は、コードとモードで自在に音楽の性格を描き分けるジャズによく合うかもしれない。

 一方クインシーエディションに対しては、ポップスを切り拓いてきたクインシー・ジョーンズのキャリアを音に感じた。一音一音の分離のよさはヴォーカルをグッと引き立てる重要な要素であり、ベースモデルよりも存在感のある音に対してはアーティストのキャラクターがより強調されるポップスの音楽性が見え隠れする。

 そういうわけでジャズとポップスをそれぞれ2曲ずつ聴くことにした。まずはジャズから、楽曲はオスカー・ピーターソン「You look good to me」。ソウルフルな演奏が魅力のカナダ人ピアニストで、気分良く演奏していると歌いだすことでも有名だ。ささやきのように録音に入っているこの歌声も、オーディオ的には聴きどころのひとつ。楽曲としてはストリングとピチカートによるダブルベースの音の違いなどが聴きどころだ。

 そんなオスカーのピアノをベースモデルはどのように鳴らすかというと、まず冒頭のストリングベースは柔らかく歌い上げている。ビル・エヴァンスと同じくピアノはフワリとしたタッチでトゲが無い。甘やかな音色が不思議な空気感を作って、このヘッドフォンはジャズを流すとなぜか雰囲気におぼれるように感じる。その感覚はまるで魔法にでもかけられたようでさえあり、好きな人にはたまらない魅力にもなるだろう。

 だがクインシーエディションで聴くと、こちらはよりハッキリした音で、聴きどころに挙げたオスカーのリアリティーあふれるささやき声にぞわっとする。身が詰まった音は弾みのよさとなってベースに表れ、ピアノのタッチは細密、ドラムは子気味よくブラシ音を響かせる。この楽器間の音の対比がまるで会話を楽しんでいるようで、自由なアンサンブルにワクワクする。

Image from Amazon.co.jp
自由奔放な演奏が魅力のオスカー・ピーターソン「プリーズ・リクエスト」。「You look good to me」はカノンコードから始まる耳馴染みのよい楽曲。実はハイレゾ盤では、CD盤にはなかったマスターテープの揺らぎがイントロ部に入っている

 もう1曲はグレン・ミラー・オーケストラによる「In The Mood」。ビッグバンド・ジャズのスタンダードナンバーで、ジャズの大編成としてハーモニーやリズムとソロメロディーとの対比、あるいは楽器の音色の違いなど、聴きどころが多い。

 ベースモデルで聴いてみると、これもやはり甘やかで、空気を聴くというか演奏に身を任せるというか、カチッとした端整な音とは違う、トラッドなジャズ独特の雰囲気を感じる聴き方がよく感じる。

 これがやはり、クインシーエディションでは音の雰囲気が一転。見通しがよい現代的な響きとなり、しっかりと分離した音がハッキリと鳴る。サウンド自体も骨太で、大編成でもどんな楽器がどんな鳴り方をしているかという事が実にわかりやすい。

Image from Amazon.co.jp
グレン・ミラーの名曲が詰まった「永遠不滅のグレン・ミラー」。今回聴いた「In The Mood」以外にも「ムーンライト・セレナーデ」「茶色の小瓶」など、馴染み深いチューンが満載

 さてクインシーエディションが得意そうなポップスはどうだろう、ここはクインシー・ジョーンズに敬意を表し、氏が手がけた世界的アーティストのマイケル・ジャクソンをチョイスした。

 ハイレゾ配信サイトmoraのアーティストページには「ギネスブックには最も成功したエンタテイナーとして記録されており、“Thriller”は人類史上もっとも売れたアルバムとして認定を受けている」とその偉業が記されている。「King of Pops」と称えられる彼の音楽から、今回は「Thriller」と「Smooth Criminal」で音を試してみたい。

 まずスリラーだが、ベースモデルの音は音楽の雰囲気を出すのに長けている。その軽快感がポップスというジャンル名をよく表しており、まるで“神経質になるのが間違いだぞ”と曲にたしなめられているような気さえしてくる。この偉大なアルバムが生まれる3年前に初代ウォークマンが誕生し、「音楽を待ちに連れ出す」という文化が生まれたわけだが、なるほど、確かに軽やかなポップスは変わりゆく街の風景とともに愉しむのがぴったりだ。

 ではプロデューサー・クインシーはマイケルをどう歌い上げてくれるだろうかというと、軽さの中にカッチリしたお行儀のよさが聴かれた。やはり高い解像感が特徴的で打ち込みリズムが小気味よいのだが、それ以上に印象的なのはマイケルの声がグッと浮き立ってきて、身の詰まったボリューミーな音がよく伸びるということだ。ああ、やはりアメリカを代表するポップスのプロデューサー。どんな音楽もきれいに流すが、人間の声が最も心に響く音作りを心得ている。

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「人類史上もっとも売れたアルバム」とされる「スリラー」。ムーンウォークの並ぶ、マイケル・ジャクソンの代名詞

 より音が先鋭的なスムースクリミナルでは、さすがのベースモデルでも刺さるような高音が聴かれた。録音の影響が大きいのだろうか、今までの傾向とは違って勢いがある。シンセサイザー主体のとてもモダンなサウンドは、タテのそろい方が良く出ていて子気味よい。

 クインシーエディションはこの特徴的な音によい意味で緊張感が加わる。バチッとど真ん中に定位したマイケルのヴォーカルがしっかりと立っていて、存在感がベースモデルより一段も二段も上だ。研ぎ澄まされたキレが更に鋭くなり、印象的で脳裏に残る。「スパッ」という擬音がまったくよく合う。

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マイケル・ジャクソンを手軽に楽しむならば「NUMBER ONES」がオススメ。「スリラー」「スムースクリミナル」などの名曲が1枚にまとめられている

クインシーエディションは「もっと鳴らしたい」に応える1本

 以上、7曲を聴き比べしてみたが、いかがだったろうか。僕が感じた傾向は「気軽なベースモデル、しっかり聴けるクインシーエディション」だ。

 実はレビュー中に、ベースモデルでオスカー・ピーターソンを聴きながら「きっとこのヘッドフォンは、こんな風に音とにらめっこするような聴き方自体がナンセンスなんだろうな」と感じていた。編集部帰りに手元のiPadで何気なくBluetoothを使ってみたところ、Amazon Musicでスピッツ「ロビンソン」などを流すと、僕の印象を裏付けるようにベースモデルではとても手軽によい雰囲気を味わえた。

 さらにBluetoothでiPadに入っている「Listen!」(放課後ティータイム)のwav音源を流すと、これまた非常によいノリだ。一方のクインシーエディションで同じことを試してみると、Bluetoothのというフォーマットの限界から来る響きの浅さが気になり「もっと鳴るはず」という欲求不満感が払拭できなかった。

 僕の結論は「ベースモデルは定額制音楽配信をワイヤレスで楽しむよいオトモ、クインシーエディションはワイヤレス“も”使えるオトナな良音」としたい。自分の音楽スタイルに合わせて、カジュアルとシリアスが選べるラインアップになったことがとても喜ばしい。

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