肝心の音はどうだ? まずはリファレンス音源で基本をチェック
外観や使い勝手は確かに良さそう、だけど僕がこのモデルで最も気になるのは、やっぱりクインシー・ジョーンズとJBLという組み合わせによる音楽だ。ということで、ここからは音のインプレッションをお伝えする。リファレンスプレーヤーはAK380、無線モデルではあるが、ヘッドフォンの真の実力を試すために有線で試聴をした。
まずは定番中の定番「Hotel California」から。イーグルス最大のヒット曲であり、ハイレゾ配信でも有数のヒット曲のため、一度は耳にしている人も多いだろう。聴き所としては冒頭のベースとギターの撥弦ニュアンスの違い、ヴォーカルの力強さや音の分離といった部分だ。
まずベースモデルはふくよかな音が特徴的だ。音は全体的に甘やかで、それこそ“コリタスの香り”が漂ってきそうなほわっとした感触。演奏の中にヴォーカルがよく馴染んでいて、音楽としての調和が取れている。
一方のクインシーエディションは、ベースモデルが同じとは思えないほど音の方向性が違う。冒頭のギターには煌めきがあり、ベースはとても安定感がある。エレキギターは伴奏として音楽の骨格をしっかりと構成し、強固な土台の上に豊かなヴォーカルが展開される。何よりも1音1音が演奏に埋もれることなく、鼓膜を通して耳に響くのは流石だ。
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商業ロックに対する反骨精神を暗喩していると言われる名曲「ホテル・カリフォルニア」 |
次も定番曲「Waltz for Debby」。ビル・エヴァンスの名演はハイレゾ版でも大ヒット曲で、音よし、曲よし、演奏よし、おまけに多くの人が聴いているとあれば、これ以上望むものはない。
ベースモデルではHotel Californiaで感じたふくよかで甘やかな音がこの曲でも聴かれた。ヴィレッジヴァンガードの幻を見るようなメロウな響きの中でベースがグイグイと音楽を前に進め、ビル・エヴァンスはフワリとしたタッチで美しい旋律を奏でている。僕は当時のニューヨークのリアルな空気など知る由もないが、伝説的な名手をBGMにダイナーを愉しむ夜を夢想せずにはいられない、そんな不思議な雰囲気を持つ音だ。
これがクインシーエディションになるとガラリと雰囲気が変わり、音にグッと存在感が出てくる。ピアノのタッチはとても身が詰まっていてハリがあり、ダブルベースのマルカートとスネアの刻みがしっかりと音楽を前進させている。バランス的には強調感のないナチュラルな音だが、決してモニター的ではない、リスニングの愉しみのツボを的確に押さえたものだ。個人的な所感としては、ジャズならばもう少しだけベースが利いていると音楽的に心地よいと感じたが、このヘッドフォンの上品な音色による聴きやすさは、目を見張る(耳を聴き張る?)ものがある。
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ニューヨークのジャズクラブ「ヴィレッジヴァンガード」で収録された、ジャズの金字塔「ワルツ・フォー・デビイ」。これもハイレゾの定番曲 |
さらに音色と響きの美しさを確かめるべく、ヴァイオリンの名手ヒラリー・ハーンによるバッハ「ヴァイオリン協奏曲第2番」をチョイス。
音の印象はというと、ベースモデルはやはりメロウな響きが特徴的だ。室内楽に没頭するようなホールトーンの濃密さがあるわけではなが、「細部表現が」とか「S/Nが」とかいった神経質な聴き方にならない音で、気に障るようなこともなく聴き疲れしない。これをBGMとして流せばきっと贅沢な時間を過ごすことができるだろう、そんな事を感じた。
対してクインシーエディションは、相変わらず低音から高音までの全音域がしっかりと鳴っていて、音楽に安定した力強さを感じる。ヴァイオリンの音がしっかりしていて太く、それでいてチェンバロの微細音とその響きまでしっかり聞こえる豊かさには好印象だ。音楽の支えとなる低音がとても丈夫なため、ヒラリー・ハーンのヴァイオリンが奔放にメロディーを歌っても破たんしない。
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名手ヒラリー・ハーンによる「バッハ:ヴァイオリン協奏曲集」。音色の鮮やかさを聴くのによく、ハイレゾ時代に入ってから僕のリファレンス楽曲になった |
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