シャープが8Kテレビに取り組む意味
それではなぜシャープが8Kに取り組むのか。これは4つのキーワードを軸に考えると分かりやすい。
第1に「臨場感」。解像度が高まることによって、より近い距離で映像を見ることが可能になり、広い画角の迫力ある映像を得られることになる。
第2に「実物感」。つまり解像度の向上によって、実物と映像の差がほぼ認識できないほど高い実物感が得られるという点だ。NHK放送技術研究所の実験による「実物の蝶の標本」と「ディスプレー上の蝶」の比較(実物に見えるかを「1」か「0」で答える一対比較法、スコアが1.0になると実物と区別できない)によると、2K解像度(30cpd程度)では0.3~0.4程度、4K(60cpd程度)でも0.8~0.9程度のスコアだったのに対して、8K解像度(100cpd以上)では限りなく1.0に近い結果が出た。つまりほとんどの人間の目は8K以上の解像度を区別できないのだ。
これは8Kの映像のきめ細かさを示すだけではなく、テレビ放送において8K映像が最終的なゴール、つまり8K以上の解像度を追い求めても実物感という点ではごく限られた違いしか出ないということになる。
第3に「立体感」だ。テレビ画面の最適視聴距離は、フルハイビジョンパネルでは3H(画面の高さの3倍)、4Kパネルでは1.5H(同1.5倍)が目安とされてきた。これは人間がドットを識別できる限界値に基づいたもので、これ以上の距離まで離れると細かすぎて人間の目ではドットの有無が判別できないことになる。この計算式に基づくと、8Kでは0.75H(同0.75倍)となり、70型ディスプレーの場合、70㎝以上離れると4Kディスプレーとの差がなくなるハズである。
しかし、実際には解像度の差によって、より細かな階調差が得られるため、映像の奥行き感や立体感に差が感じられるという。
最後が「見えなかったものが見える」ことだ。これまでの映像では気付かなかったもの見えなかったものを映し出すことで発見や感動が得られる。
これはいくつかの8Kコンテンツを実際に見せながらの解説となったが、絵画の映像では60×70㎝四方の絵に描かれた絵の遠景の中にある橋のさらにその上に、ゴマ粒のように小さく人が描かれていたことや、葛飾北斎が描いた竜の顔の荒々しい筆のタッチが分かる。
また解像度の高さを8Kの内視鏡カメラに生かし、目に見えないほど細い糸を使った手術をするといった応用も考えられるという。細い糸を使えば、手術を受ける患者さんの負担を減らすことができる。
8Kの高画質を液晶パネルで実現する理由
ハイエンドテレビの表示デバイスとしては、液晶に加えて、有機ELの存在感が増しているが、シャープは液晶での8Kテレビ実現にこだわっている。これはシンプルに現状、8Kの液晶パネルはあるが、8Kの有機ELパネルはないためだ。
加えて8K時代の高画質に貢献する、色域の広さ(LV-70002はBT.2020比で79%程度で市販の有機ELより広い)、ピーク輝度、階調性といった部分で有利であるためだ。一方で暗部階調やコントラスト比、動画応答性などは自発光型のデバイスである有機ELには譲る。ただし消費電力の面では有利で、発売した70型モデルで470W、有機ELテレビは65型で500W前後の機種が多い。
8K時代を見据えた「高解像度」「大画面」を「家庭で」と考えた場合、液晶パネルに利があるという考え方のようだ。同時にインフラとして8K放送が始まるのであれば、その開始タイミングに合わせたい、そのためには形のない有機ELではなく液晶にしたいということになるようだ。
シャープが最初の8K対応モニターを発売したのは2015年10月で、サイズは85型だった。これと比べて重量と奥行きは約半分の9.2mm/42.5㎏、消費電力は1/3の470Wとなりほぼ市販4Kテレビ同等になった。並行して、周辺回路のシュリンク(縮小)にも取り組んだ。85型では、畳一畳の大きさに様々な基板を収納し、それでも入りきらず2階建て構造になっていた。難点は熱がこもることで、ファンを大量につける必要があった。
一方70型では85型の開発を活かして基板が大幅に縮小し、枚数も1/3以下に減った。結果ファンレス化も実現した。筺体内の空きスペースができたことで、8K放送が受信できるチューナーを内蔵するめどもできた。
現状では8K映像を伝送するための規格がなく、HDMI入力のうち入力1~4までは2Kまたは4Kの伝送(SDR)のみ。8Kは入力7にHDMI×4本で8K映像を伝送する仕組みとなっている。ちなみにこの4つの端子はHDR(HLG/PQ)に対応している。放送局やポスプロ向けなので、極力絵作りなどを排除したマスモニ的なチューニングとのことだが、8Kモニターとしての利用だけでなく、4K入力も可能なため、マスモニ的な4K映像の評価にも使えるという点はメリットになっているそうだ。
2018年までの道筋としては、2017年中は「放送業務機器」「共同開発」「放送要素」を事前に開発し、残りの1年で来年の発売に向けた開発を(4Kテレビやチューナーも含めて)進めていきたいとする。
もちろん強みである一貫生産にも磨きをかける。「液晶パネル」「設計・製造」「テレビの製造設計」「製造」「サービス」といった要素で構成されるが、従来外販だった、8K放送に向けた高画質LSIも内製化していく考えだ。これが実現すると、液晶パネルの設計から製造まで、自社で一貫して手掛けられる唯一の日本メーカーということになる。
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