テレビよりコンテンツが先行する8Kの世界
ここで8Kテレビの現状についてまとめてみよう。4Kテレビは2011年ごろから製品化され、5~6年経ったここ数年で、ようやく普及し始めた。
ただし「立ち上げから普及までの期間」で比較した場合、4Kと8Kでは対照的な要素がいくつかある。
もっとも大きな違いは、ハードに先行してコンテンツ提供のめどが立っている点だろう。現在8K放送の受信が可能なテレビは市場に存在しないと書いたが、コンテンツ(8K実用放送)のスタート時期は明確にアナウンスされている。4K時代はテレビが先行し、コンテンツはごくごく限られていた。追って4Kによるライブ放送が開始され、ULTRA HDブルーレイなどのパッケージが登場した。ただし初期はネイティブと言えるコンテンツは限定的で、基本的には既存のハイビジョンコンテンツをアップコンバートして観るものだった。
一方、8K時代はテレビと最も相性がよくニーズも高い「放送」という形で、一気にコンテンツ種類と数が増えていく。NHKも2018年12月に、8Kの実用放送(NHK SHV 8K)を開始する計画だ。
そしてもうひとつ注目したいのは、そこに到達する時間が、約1年半しかないということだ。改めて書くと思いのほか短く感じるが、8Kテレビに対する成果を具体的に示しているメーカーは思いのほか少ないのだ。
コンテンツを再生できるハードをいつ準備するのか。それはどのような形になるのか。ここがなかなか見えてこない現状がある。
民放4K放送も含め、放送の高画質化時代が始まる
2018年は「スーパーハイビジョン普及」の元年となりそうだ。8K放送だけでなく民放各局による4K実用放送の開始が予定されている点も見逃せない。
スーパーハイビジョンの利点は大きく3つある。それぞれ「高解像度」「HDR対応」「サラウンド音声」だ。8K放送は既存のフルハイビジョン放送の実に16倍の情報量(約3318万画素、最大7680×4320画素)を持つ「緻密な映像」が放送され、明所と暗所の表現の幅を広げ、肉眼に近い表現が可能になる「HDRの技術」が活用され、最大22.2chの「サラウンド音声」の提供も可能となる。
8K/4K実用放送のユーザーにとってのメリットは分かりやすい。一言で言えば質と体験の向上だ。その一方でこれを実現するメーカーには、越えなければならないハードルがいくつもある。順に見ていこう。
まず2018年から始まる「8K/4K実用放送」では、既存のBS放送と同じ電波を使った4K放送(「右旋」と呼ばれ、民放各局が使用する)とは別に、新電波を使ったBSデジタル/110度CS放送も提供される(「左旋」と呼ばれる)。NHKの8K実用放送やCS局の多くは、この「左旋の新電波」を利用する。
この新電波の利用に加え、4K/8K表示ができるパネル、そして22.2chの音声への対応はもちろんだが、それだけではない。チューナー自体の広帯域化、変復調の多値化(16APSK)、新しい多重化方式への対応(MPEG-2 TSからTLV/MMT)、コーデックの変更(映像:HEVC、音声:MPEG-4 AAC)、色域・ガンマ値の変更(BT.709/SDRからBT.2020/HDR対応へ)、見逃し視聴・マルチ視点視聴・Widget表示などデータ放送の進化、双方向リモコンやスマホ・タブレットとの連携など……非常に多岐にわたる変化に対応しなければならないのだ。
ユーザーの目には見えにくい部分だが、技術的な面ではこれまでにないブレークスルーが必要であり、残された期間で早期に取り組む必要がある。となるとやはり8K表示や8K放送にかねてからとりくんできたメーカーが有利になるのは間違いがない。例えばシャープは、これまでも以下の様な形で8Kテレビの開発に取り組んできた。
2011年5月 8Kディスプレーを開発
2014年10月 試作品をCEATECで参考展示
2015年9月 IBC2015でNHKと共同開発した8Kモニターを出展
2015年10月 85V型業務用8Kモニター発売(LV-85001)
2016年5月 NHK技研公開で、高度広帯域デジタル放送受信機を出展
2016年8月 NHKが全国の放送局でパブリックビューイング開始
2017年6月 70型業務用8Kモニターを発売(LV-70002)
特に全国54ヵ所のNHK放送局に85型モニターと受信機を納入したという実績はアドバンテージだ(一部フルハイビジョンを4×4=16面敷き詰めて8Kを実現している場所もある)。
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