実は腕時計を企画・設計したことがなかった
スマートウオッチを企画・設計する上で苦労したところを伺ったところ、「私どもはもともと時計事業部出身ではなかったんです。それぞれ違う研究開発をしていて、私はカメラの事業部にいました。ですので時計の設計をした者が少なく、ノウハウがない者たちが設計しているんです」(鈴木氏)と衝撃的な事実を知った。
「このプロジェクトの前にいくつか日の目を見なかった製品はあるのですが、ほぼF10が最初の製品と言う感じですね。そのため、開発するにあたり時計事業部と接点が生まれ、G-SHOCKやPRO TREKなど長年培ったノウハウを共有させていただきました。ただ、スマートウオッチは時計とは違った部分もあります。例えば、最近は電波時計がありますが、基本的には電波を出す製品がありませんでした。そのあたりはデジカメだと、こういう評価をしなければならないとか、設計しなければならないというノウハウがありますので、それらを組み合わせて開発しています」(鈴木氏)。
「あと、カラー液晶もデジカメ由来なんですね。腕時計ではなかなかカラー液晶がないので、そのあたりの取り扱いノウハウは、カメラの設計が大いに生かされています」(水野氏)。第1弾からカラーとモノクロの2層式液晶を採用。Android Wearは、アンビエントモードが用意されていて、低消費電力で利用できる仕組みは用意されているが、あえてモノクロ液晶を搭載し、従来の時計の機能をいつでも見られるようにしている。モノクロ表示だと約1ヵ月ももつ。
「モノクロ液晶はカラー液晶に比べて約1/100ぐらいの消費電力で済むため、長時間駆動が可能になります。これをカラー液晶だけで実現しようと思うと現状は不可能なので、モノクロ液晶を搭載しています。あと、アウトドアでの見やすさは、モノクロ液晶がピカイチなんですよ」(水野氏)。電池容量が少なくなるとカラー表示されず、モノクロモードのみの表示になる。先述のように、「腕に着けているのに何も映らない状態を避ける」をこうして実現している。
カシオ=タフネスというお客さまの認識に応える
充電は、マグネット式を採用しているが、扱いやすさとともにタフネスにも関係しているという。「企画からの提案で、着脱を簡単にしてほしいということで、マグネット式を採用しましたが、5気圧防水を実現するため、通常のmicroUSBタイプのコネクターでは無理というのもひとつの理由です」(鈴木氏)。最近は無線給電方式もあるが、そのあたりも検討したとのこと。「無線給電も考えてはいましたが、タフネスをうたう中で、カシオの時計の裏蓋部分は金属製なんです。そこでひとつハードルが上がるのと、ステーションのようなものをその都度持ち運ばなければ充電できないという点が引っかかって、採用しませんでした」(鈴木氏)。
F10が登場して1年強、F20が発売されて約2ヵ月。お客様の声も多くいただいた。「F10はいろいろと話題性もあって、最初にご購入いただいたのは割とITガジェットに明るい方が多かったですね。ところが今回のF20の場合は、発売開始直後から実際のアウトドアで使っていただいた感想だったり、ご要望だったり、そういった声が非常に多くなっています。アウトドアで使える商品ということが、ある程度認知いただけたという感触がありますね」(坂田氏)。
PRO TREKを冠したことで、アウトドア用製品という認識をさらに高めたはずだ。「F10はカシオがスマートウオッチを出しましたということを強くアピールすることもあって、何かのブランドに乗っかるのではなく、カシオのスマートウオッチであることを全面に押し出したかったんです。その後お客さまの声から、アウトドアでGPSを載せるというコンセプトであれば、カシオのアウトドアブランドを冠することで、よりアウトドアに特化しましたということを、お客さまにアピールできると思いました。そこで、F20はPRO TREKブランドとして開発しています」(水野氏)。
「PRO TREKらしさを取り入れた部分のひとつにボタンガードという突起を付けたことですね。アウトドアだと落下したり、岩にあたったりすることもあるので、PRO TREKモデルには、ほとんどボタンガードが付いています。あとは時計画面の部分で、F10にはなかったPRO TREKらしい顔の「ロケーション」と「トラベラー」というウオッチフェイスを搭載しました。これは、パッと見て時刻がわかるように時字や針の太さが鮮明になるよう、PRO TREKが持っているアナログウオッチとしての視認性の良さを取り入れました」(坂田氏)。
F20は第1弾のときよりもかなり好調で、アウトドアだけでなく普段の生活でも役に立っているという声が多く寄せられているという。「まだ発売して間もないということもあり、使いこなしていただく中で、いろいろとアップデートしたり、使い方を覚えたりと、普通の時計以上にスマートウオッチを理解してもらわなければなりません。そういったところをサポートするという点では、まだまだ課題があるかなと思っていますが、使い込むと便利な使い方や使い道が、お客様目線でいろいろと発見できると思います」(坂田氏)。
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