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『仮面女子』とのコラボも話題、AIを活用した感性情報学研究の現在を訊いた

人工知能学者・坂本真樹氏の夢は「オノマトペで世界を平和的に征服」!?

2017年06月27日 13時00分更新

情報技術を活用し、オノマトペ表現を科学的に解析する気鋭の人工知能学者が坂本真樹教授だ(写真中央)。

 国が異能を探すプロジェクトとして話題の、総務省が実施する独創的な人向け特別枠『異能(Inno)vation』にちなみ、世の中の“異能”な才能を見つけ出してご紹介する本連載。その第2回目となる今回は、AIを活用したオノマトペ(擬音語や擬声語、擬態語などの表現)の研究を行っている、坂本真樹(国立大学法人電気通信大学情報理工学研究科/人工知能先端研究センター 教授)さんの活動をフィーチャーする。

 日本語という言語は、特にオノマトペ表現が多いことで知られている。たとえば、今あなたがこの記事を読むために使っている眼が、ディスプレイの見過ぎで疲れている状態だとして、それをどんなふうに表現されるだろうか。「チカチカ」のときもあれば「ゴロゴロ」のときもあるだろうし、何なら「バチバチ」という表現も許される。微妙なニュアンスや感覚的にしか伝えられない現象を表現したいとき、日本語はオノマトペを介することで非常に豊かなバリエーションを備えている言語だと気付かされる。

 そんなオノマトペを、AI活用など最新の情報技術的アプローチで科学的に解き明かしているのが坂本氏の研究である。最近では、アイドルグループ『仮面女子』の楽曲『超☆アドベンチャー』の歌詞をAIで再構築し、新たな楽曲『電☆アドベンチャー』を作り出すという非凡なコラボレーションを披露されたことでも知られている。日常的でありふれた現象へ“異能”な切り口で迫る、人工知能学者・坂本氏ならではの着想はどのような思考から生まれているのか。

人間の感性を“オノマトペ”から解き明かすのが感性情報学の醍醐味

坂本氏の活動へ注目度は高く、この日も別に取材が組まれていた。

―― 坂本先生と言えばオノマトペ研究のイメージが強いですが、研究のご専門というと、何という分野になるのでしょうか?

坂本氏(以下、敬称略) “感性情報学”という学問で、人間の感性を情報技術を用いて明らかにしようという研究領域になります。その研究を通じて分かったことを、世の中の役に立つように活用するというのが目的と言えますね。

―― ご研究の社会的な活用について、ご紹介いただけるような事例があれば教えてください。

坂本 「ずきずき」や「がんがん」といった病気の症状を伝える際のオノマトペをシステムで解析して、病気の診断に役立てる取り組みや、「つるつる」や「ぬるぬる」といった質感を表すオノマトペを認知症の診断に応用する取り組みをしています。

―― 認知症の診断とオノマトペ表現の関連性と言われると、なかなか想像がつきません。

坂本 私たちはモノの質感を「つるつる」や「ぬるぬる」といったオノマトペで表します。この2つのオノマトペは、異なる質感を表現していることは明らかですが、認知症の人は、このような質感の違いが分からなくなる、といったことがあるんです。

―― オノマトペを、感覚する能力が低下しているシグナルとして扱うというイメージでしょうか。

坂本 オノマトペの音には、その人がその対象を好んでいるのか嫌っているのかも反映されます。手触りを「さらさら」のように清音の“さ”を使ったら、その人は心地よく感じているし、「ざらざら」のように濁音の“ざ”を使ったら、その人はあまりよく思っていない可能性があります。そのようなオノマトペに結びつく快不快などの印象を利用して、自動車の内装などに使われる金属調加飾デザインの高級感を上げるためにオノマトペを数値化するシステムを構築したり、製品の質感を伝える効果的な広告表現や製品名を提案したり、「もふもふ」したパンを実現するための材料を提案するシステムを作ったりと、研究の活用事例はいろいろあります。

―― “オノマトペ”という感性のシグナルを、客観的なデータとして扱えるようになったことで、研究面での幅広い応用が可能になっているということでしょうか?

坂本 そうですね。人間が感性的に感じたことを表現するために用いるのがオノマトペなのですが、それを数値化する技術が現在はあるんです。具体的なツールとしてはiPadを使ったアプリケーションを使用しているのですが、アプリを使ってオノマトペを数値化することによって、たとえば「もふもふ」といった比較的新しいオノマトペがなぜ生まれたのかが分かるようになるんです。

独自に作成された“木の質感オノマトペマップ”。一言に木材の質感表現と言っても、樹齢や水分量、表面の状態でこれだけのオノマトペバリエーションが存在している。

―― 坂本先生がお持ちの知見から、どうして新しいオノマトペは次々と登場するのか、ぜひ教えてください。

坂本 「既存のオノマトペでは表せない感覚を表現したい」という衝動に駆られると、人間は新しいオノマトペを作ることがあるようです。“も”や“ふ”など、一つ一つの“音”に結び付いた印象に対して人間が生まれながらに持っている言語を超えた普遍的な感覚や、“ふ”が「ふわふわ」や「ふにゃふにゃ」などのやわらかさを表すときによく使われる音であることから経験的に獲得される印象などを元に、“言葉の音”と“印象”の組み合わせによって、人は新しいオノマトペを生み出すことができます。この能力そのものが面白いし、それをコンピューターで再現できるのというのもまた面白いんです。

―― 研究対象としてオノマトペに注目された、そもそものきっかけはなんだったのでしょうか?

坂本 人間が感じていることって目には見えませんが、言葉には出てきますよね。じゃあそれを知るためには言葉に迫りたいと思ったとき、オノマトペがいい着眼点だなと思ったところがきっかけですね。

―― 他の研究を積み重ねたことでオノマトペにたどり着いたという経緯だったんですか?

坂本 たどり着いたというより、オノマトペは私自身も普段から使う表現ですし、学生さんたちが好きなマンガにも多用される表現ですから、オノマトペをテーマにすれば他の人がやっていなかった研究ができるのではないかと思ったというほうが正しいですね。

―― 坂本先生はその研究領域に、AIなどの情報技術を活用されている点も異色ですが、誰もやっていない研究アプローチをどのようにして発見されたのでしょうか?

坂本 私はもともと文系の言語の研究者で、オノマトペは主に文系の言語学の研究者の研究対象でした。これに情報技術を適用すると、文系の研究者にも理系の研究者にもできない研究ができるのではないかと思いました。オノマトペ以外の研究についても、私の研究は、文系の研究対象に理系の技術を使うところに特徴があります。

すべてのオノマトペを明らかにして、世界を征服したい

―― 先生の研究的な野望を教えてください。

坂本 人間は様々な対象をオノマトペで表現しようと試みる生き物ですよね。他の人間に対して、物に対して、時には痛みなどの感覚に対しても。私が今持っている野望は、そのすべてのオノマトペを把握して、明らかにして、征服したいということなんです。

―― 征服したい!

坂本 実世界に存在するモノと、人間の頭の中でのモノのイメージについて、人類全体で共通している部分と、個人差がある部分をそれぞれとらえたいし、それを適切に扱いながら人間に寄り添えるような人工知能を作り出せたらいいなと思っています。

―― ユニークな着想をたくさんお持ちの坂本先生が“他の人がまだ手掛けていない領域を探し出す”ために日頃から意識されたり、工夫されていることをぜひ教えてください。

坂本 先入観にとらわれず、良い意味で子どものような気持ちを大切にして世界を見つめ、なんでも楽しんでしまうことが大切かと思います。「さらさらした紙」「さらさらした布」「さらさらした髪の毛」など、どうして物理的には違うモノに同じ「さらさら」を使うのかな?と不思議に思ったり、不思議をたくさん発見できると毎日が楽しいです。当たり前だと思ってしまった瞬間に、発見はなくなってしまうし、世界は止まってしまう気がします。

研究室の学生たちとともに、AIを駆使したオノマトペ解析ツールの開発を日々行っている。

―― 自身の興味や研究を深め拡げていくために、ICT(情報通信技術)を活用することは今や欠かせないことだと言えると思います。坂本先生のように、ICTを活用して新たなアイデアを形にしようと挑戦している方々へ、是非メッセージをいただきたいです。

坂本 どんなに技術が進化しても、ありのままの世界を見つめつつ、最新の技術について学ぶ姿勢も大切にしてほしいですね。そうすることで、たとえばまだ技術的アプローチが入っていない分野へ、一見結び付かなさそうな最新技術、それこそ例えばAI技術を使ってみることで、誰もやったことのない新しい研究や挑戦ができるのではないかと思っています。この世界はまだまだやることがたくさんありますから、是非一緒にがんばりましょう。

―― お忙しいところ貴重なお話をしてくださり、ありがとうございました!

インタビューのおまけ

―― せっかく研究室へおうかがいして、学生さんもいらっしゃるので、学生のみなさんから坂本先生がどんな人か、オノマトペで教えてもらえませんか?

学生さん(1) いつも明るくて、キラキラした先生です!!

学生さん(2) ピカピカした笑顔で指導してくださる方です!!!!

学生さん(3) とても優しくて、ふんわりした印象があります!!!!!!

―― ノリがいい学生さんでありがたいです(笑)。オノマトペで表現すると、坂本先生お一人をとってもいろんなとらえ方があるんだと、確かに分かりやすく感じられますね。

坂本 本当は「ガツガツしてる」って言われちゃうんじゃないかとヒヤヒヤしてたんですが(笑)。キラキラやピカピカで居たいと思っているので良かったです。

―― そういえばオノマトペって“いいオノマトペ”とか“わるいオノマトペ”とかってあるんでしょうか?

坂本 「ごわごわ」とか「ざらざら」といった、濁音が入っているオノマトペは、よくない印象を持ったときに使いやすいです。たとえば「さらさら」と「ざらざら」だと、やっぱり「さらさら」のほうがイメージがいい感じがしますよね。

―― “ギラギラな人”よりは“キラキラな人”のほうが、印象はいい気がします。

坂本 でも本当は、学生たちが私が居ないときに、私をどんなオノマトペで表現しているかが、一番気になりますよね(笑)。

坂本 真樹

1998年3月東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻博士課程修了(博士(学術))。1998年4月同専攻助手、2000年4月電気通信大学電気通信学部講師、准教授を経て、2015年4月同大大学院情報理工学研究科教授。2016年8月同大人工知能先端研究センター教授を兼務。2016年10月よりオスカープロモーション所属(業務提携)。人工知能学会、情報処理学会、認知科学会、VR学会、感性工学会、広告学会等各会員。2012年度IEEE国際会議にてBest Application Award、2014年度人工知能学会論文賞など受賞多数。著書に『坂本真樹先生が教える 人工知能がほぼほぼわかる本』(オーム社)などがある。

近著のご案内

坂本真樹先生が教える 人工知能がほぼほぼわかる本
坂本 真樹 (著)
坂本真樹先生(人工知能学会、オスカープロモーション所属)がやさしく人工知能を解説!本書は、一般の人には用語の理解すら難しい人工知能を、関連知識が全くない人に向けて、基礎から研究に関する代表的なテーマまで、イラストを多用し親しみやすく解説した書籍です。数少ない女性人工知能研究者の一人である坂本真樹先生が、女性ならではの視点で、現在の人工知能が目指す最終目標「感情を持つ人工知能」について、人と人工知能との融和の観点から解説しています。

平成29年度『異能(Inno)vation』プログラム

詳細情報、応募は公式サイトをご確認ください。

総務省がICT(情報通信技術)分野において、失敗を恐れず破壊的価値を創造する、奇想天外でアンビシャスな技術課題への挑戦を支援する『異能vation』プログラム。平成29年度は下記の2部門で公募を受け付けています。

両部門とも平成29年度の申請受付は、2017年6月30日(金)まで。また全国で公募説明会を開催中です。詳しい情報は『異能vation』の公式サイト http://inno.go.jp/ をご確認ください。


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