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仕組みレベルから農業の世界を変えるスタートアップ

専業農家が増える未来 垂直統合型で農業ビジネスを変えるLEAP

2017年06月09日 07時00分更新

1時間半で農作物が届けられる範囲が商圏

明治屋での店頭「ゆる野菜」販売

 厳しい環境から挑んだ農業だが、ただ作物が作れるようになればいいわけではない。WHILL参画の後に、インキュベーション事業を手がけるアーキタイプ株式会社での経験を経て、栗田氏は農業を事業として捉え、どうすれば就農者を増やすことができるのかについても早い段階から課題としてきた。

 自ら厳しい条件の土地での農業に取り組みながら、「農業を事業として細分化し、『最小ユニットで考えてその中での最適化を行なう』という通常の事業であれば当たり前に行なわれていることに取り組んだ。農業を事業化するというと、大規模農業ととらえるのが一般的だが、それが事業化ではない」(栗田氏)と小規模でも収益が出る事業を模索した。

 じつは藤沢市にある農地で収穫したミニトマト、キュウリについては、すでに「ゆる野菜」というブランド名を付け東京のスーパーで販売している。品質が認められ、デパート、高級スーパーでブランド野菜として評価を受けた。LEAPでは、農作物の栽培支援だけでなく、このような販路までセットにして提供する。

 「大都市圏に近いという立地から、朝に収穫したミニトマトを昼過ぎには店頭に並べることができる。高級スーパーであれば、朝採れ野菜としてこの点をアピールし付加価値商品として販売できる。コストも抑えているので、高級スーパーに並んでいるミニトマトの中では決して高くはない卸値となるので、スーパー側にも評価を受けている」(栗田氏)

 小規模農業でも収益が出るビジネスモデル実現の鍵のひとつが、農作物を作ることだけではなく、販売、さらにはその先まで視野に入れていた点だ。2016年9月、寺田倉庫株式会社、三菱UFJキャピタルからはシードラウンドで6000万円の資金調達を実現しているが、この時点から現在のLEAPの見通しは評価されていた。

 「資金調達が実現できたのは、栽培したトマトが評価を受けたから。さらに、三菱UFJキャピタルさんには商品の販売面でも協力を受けている。明治屋さんを紹介してもらって、店頭でトマトを売ることができるようになった。朝に収穫したトマトを昼過ぎに都心店舗に並べるというビジネスモデルは、農業にありがちな薄利多売というストレスを減らすことができる。商圏から1時間30分圏内に農地を持つことで、就農者にとって付加価値の高い農家として事業を展開することができる」

 日本の農業がいくつもの課題を抱えていることは確かだが、「部分改善となる提案だけしても、本質的な改善にはならない。農業に必要な技術、販売における価格、すべてを含めたコストなどトータルにものごとを考えなければ本質的な問題解決につながらない。一生懸命働いて時給が400円や500円では、新たな就農者を募ってもうまくいかない。農業にITを取り入れることも、部分的な改善にはつながるものの、農業改革につながらない」とトータルな改革が必要だと栗田氏は主張する。

 東京23区内から1時間30分圏内であれば、藤沢市だけでなく、埼玉県辺りまでが農業を行なう候補地となる。関東だけでなく、関西であれば大阪を中心に滋賀県辺りまでが農業を行なう場所として候補地となり、同様の視点で新たな農地を増やしていけるようになる。

 「格好をつけて垂直統合型と呼んでいるが、農作物を作るところから販売まで含めて一貫して提供できることに大きな意味がある」と栗田氏は話す。現在、農家の高齢化が大きな問題となっているが、LEAPでは農業に興味がある人であれば、農地など農家としてのバックグラウンドを持たない人でも就農できるプラットフォームを目指している。

 既存の農家は年間4000時間の労働時間が必要とされていると試算されているが、LEAPであれば年間1500時間の労働で生計を立てていくことができる。副業として農業を手がけることは難しいが、専業農家としては既存の農家よりもワークライフについてもバランスよく取り組むことができる。

もっとライトな感覚で農業をスタートすべき

 地道な取り組みが実って、seak株式会社は2016年9月、神奈川県藤沢市から認定新規就農者として認定を受けた。法人格での取得は藤沢市では初めてとなる。この認定を受けたことで、優先的に農地を確保できるようになったことから、LEAPを本格的に展開するベースが整ったという。

 就農者を増やすために、全国にある農業高校、農業大学と連携し、進路としてLEAPを提供するという取り組みも進めている。

 「日本の農業は、軽い気持ちで挑戦することが否定され、本格的に取り組むことが求められているような雰囲気がある。就農人口をもっと増やしていくためには、もっとライトな感覚で就農を選択肢とできるようにする必要がある。そのためのベースがようやく整ったので、2017年、現在のビジネスモデルをさらに磨き、1年後にはもっと大きな事業とすることを目指したい」(栗田氏)

 栽培野菜もミニトマトだけでなく、キュウリ、ピーマンと種類を増やしている。「野菜の種類ごとにKPIを算出し、1ファーマーあたり1種類の野菜を手がけていく。販売する店舗も増やして、ゆる野菜を育てる人、売る場所を増やしていく」(栗田氏)ことを進めている。

 社員の中にはタジキスタン人のスタッフもいる。「彼は大変なノウハウを持った人で、袋栽培の土の配合をはじめとしてさまざまな知見がある。実際に農地で試行錯誤をする実践に加え、こうした最先端ノウハウを展開できることも当社の大きな強みといえる」(栗田氏)

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