クラウド型モデルも登場し、拡大を見せる電子カルテ領域。いま、医療はどこまでIT化が進んでいるのか。ASCIIによる最新情報を毎週連載でお届けします。
第18回テーマ:電子カルテ x 病院検索
患者が医療機関を探す際に、当たり前のようにインターネットを活用する今の世の中。情報が手に入りやすくなり、選定する精度が上がっていることもあって、診療所側の開示する情報の多寡が重要になってきている。
大病院を中心に、具体的な数字を示した診療データを公表するという動きが徐々に始まりつつあるが、果たしてどのような効果を生むのだろうか?
ここからはクラウド型電子カルテに詳しいクリニカル・プラットフォーム鐘江康一郎代表取締役による解説をお届けする。最新トレンドをぜひチェックしてほしい。なお、本連載では、第三者による医療関連情報の確認として、病院経営の経営アドバイザーとしても著名なハイズ株式会社の裵(はい)代表による監修も受けている。
診療データを開示することによる医療機関側のメリット
前回は、「電子カルテやレセプトコンピューターのデータを分析して診療や経営に活用する」という話をしましたが、あくまで診療所内での活用に限った話でした。もう少し未来に話を進めてみると、分析したデータを一般公開することにたどり着きます。諸外国ではすでにこのような取組みが普及しています。
アメリカでは、公的保険であるメディケアが運営するHospital Compareというサイトがあり、全米の病院の診療の質に関するデータを公開しています。具体的には、患者満足度調査の詳細な結果(例:医師の対応について『とても良い』と回答した人の割合)や、手術における合併症の発生率が全米平均に比べて高いか低いかといったことまでわかるようになっています。
また、第12回の記事でご紹介したように、イギリスでは診療所(GP)の治療成績を一般に公開しており、患者はこのデータを参考に、受診するGPを選ぶことができます。国内でも一部の病院が自主的な取組みとして診療データを公開しています。たとえば、聖路加国際病院では、毎年70個以上の指標を測定し書籍にまとめて一般に公開していますし、聖霊浜松病院はすべてのデータをホームページで公開しています。
診療データを開示することは医療機関にとっては大きなプレッシャーとなりますが、開示するデータの内容によっては医療機関側にもメリットがあると考えられます。まず、データを開示すること自体に医療機関の信頼性を高める効果があります。また、専門分野が細分化されている診療所においては、自院の得意な領域を明確にすることによって、専門性をアピールすることにもつながります。
たとえば、次のようなデータを開示している2つの診療所があったとします。
【疾患別患者数】
・A医院:糖尿病 800人、その他 200人
・Bクリニック:高血圧 500人、高脂血症 300人、痛風 100人、その他 100人
このデータが開示されなければ、患者さんからは A診療所もB診療所も単なる「内科診療所」と認識されることになりますが、このようなデータを示すことによって、A医院は糖尿病診療に、Bクリニックは高血圧診療に強みがあることがわかります。
これを見た糖尿病を患っている患者さんはA医院を選ぶでしょうし、そのことは糖尿病を専門とするであろうA医院のドクターにとっても良いことだと考えられます。もちろん、数字を示さなくても「糖尿病内科」などを標榜することなどで専門性をアピールできますが、実績となる数字を開示することで、より説得力が増すことは言うまでもありません。
クラウド電子カルテとレセプトコンピューターから自動的にデータが取りこまれ、「疾患別患者数」などのあらかじめ設定された指標が自動的に分析され、結果の値が自院のホームページで自動的に開示されるようになると、診療所側ではいっさい手間をかけることなくデータを公開できるようになります。今から数年後には、患者さんの医療機関選定行動が、よりデータに基づいたものに変わってくるかもしれません。
記事監修
裵 英洙(はいえいしゅ)MD, Ph.D, MBA
ハイズ株式会社 代表取締役社長
1998年医師免許取得後、金沢大学第一外科(現:心肺総合外科)に入局、金沢大学をはじめ北陸3県の病院にて外科医として勤務。その後、金沢大学大学院に入学し外科病理学を専攻。病理専門医を取得し、大阪の市中病院にて臨床病理医として勤務。勤務医時代に病院におけるマネジメントの必要性を痛感し、10年ほどの勤務医経験を経て、慶應義塾大学院経営管理研究科(慶應ビジネススクール)にてMBA(経営学修士)を取得。2009年に医療経営コンサルティング会社を立ち上げ、現在はハイズ株式会社代表として、各地の病院経営の経営アドバイザー、ヘルスケアビジネスのコンサルティングを行っている。
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