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ICT導入による待ち時間短縮の恩恵を受けるのは若者だけという誤解

2017年06月01日 16時00分更新

クラウド型モデルも登場し、拡大を見せる電子カルテ領域。いま、医療はどこまでIT化が進んでいるのか。ASCIIによる最新情報を毎週連載でお届けします。

第16回テーマ:電子カルテ x 待ち時間

 さまざま外部サービスと連携することによって、業務効率を図ることができるクラウド型電子カルテ。なかでも予約システムや電子問診票システムは、患者の待ち時間を大幅に短縮できる。

 患者側がいつでもどこでも診療予約を取れるタイプの予約システムであれば、患者の待ち時間は大幅に減少する。また電子問診票システムとの連動によって、医師の診察そのものが効率化されるようになる。

 近年大きな広がりを見せている遠隔診療も、待ち時間というストレスを解消する武器になるというが、はたしてどのような働きをしてくれるのだろうか。

 ここからはクラウド型電子カルテに詳しいクリニカル・プラットフォーム鐘江康一郎代表取締役による解説をお届けする。最新トレンドをぜひチェックしてほしい。なお、本連載では、第三者による医療関連情報の確認として、病院経営の経営アドバイザーとしても著名なハイズ株式会社の裵(はい)代表による監修も受けている。


診療所での滞在時間を削減するICT活用

 日本医師会総合政策研究機構(日医総研)が2015年に報告した『第5回 日本の医療に関する意識調査』によると、受けた医療に満足をしていない人の最大の理由は「待ち時間」であることがわかっています。

 待ち時間を不満に感じる理由は、患者さんがその時間に「価値」を感じていないからだと言えます。リーンやシックスシグマなどのプロセス管理の世界では、“Value Added Time”(VAT:価値を生み出している時間)という考え方があります。

 顧客にとって付加価値を提供した時間を重視し、その割合を最大化することによって業務効率を高めようという考え方です。診療所においては、患者さんが医療行為を受けている時間がVATであり、それ以外の時間は価値を生み出していないということになります。

 具体的にイメージするために、次のような患者さんを想定します。

 この場合のVATは、黄色で塗りつぶした業務となるため、診察5分+検査5分+診察5分=合計15分間がこの患者さんにとって「価値を生み出している時間」ということになります。この患者さんが診療所に滞在している時間は80分間ですから、VAT率は15÷80=18.75%となります。つまり、この患者さんにとって、診療所で費やした時間の8割以上は付加価値のない時間となっています。

クリニカル・プラットフォーム代表取締役 鐘江康一郎氏

 診療所におけるVAT率を高める上での対策の1つが、ICTであると考えています。

 まず、診察の待ち時間を減らすためには、患者さんが来院しなくても受付できるようにする対策が考えられます。いわゆる順番予約システムです。自宅や職場から診察の列に並び、自分の番がまわってくるころに診療所に行けば良いのです。理論上は診察の待ち時間をゼロにすることも可能です。

 検査結果を待つ時間は、遠隔診療を取り入れることでゼロにすることができます。緊急性の高いものでなければ、検査結果は後日あらためて遠隔診療で報告を受ければ良いのです。

 さらに会計待ちもゼロにできます。患者さんが当日支払う自己負担分を、銀行口座、クレジットカード、携帯料金などから引き落とせるサービスがすでにあります。これなら、診察終了後、患者さんは会計を待つことなく帰宅することが可能になります。

 これらのサービスをすべて活用した場合、上記の診療は次のように変化します。

 この場合のVATは10分、VA率は10÷25=40%となります。患者さんが診療所内で待っている時間は検査待ちの15分だけとなります。全体の滞在時間も短くなるため、診療所にとっても物理的な待合スペースを削減できるというメリットもあります。

 このような提案をすると「ICTリテラシーの低い高齢者に不利になるのではないか?」という指摘が出されますが、それは正しくありません。

 仮に、すべての患者さんの半分の滞在時間が上記のように短くなれば、残り半分の患者さんも、診察や会計の順番が早くまわってくることや、待合室が混雑しないことなどのメリットを享受することができます。重要なことは、ICTを使用しない人にもメリットがあることをきちんと説明した上で、ICTを使う人と使わない人に共存していただくことにあります。


記事監修

裵 英洙(はいえいしゅ)MD, Ph.D, MBA
ハイズ株式会社 代表取締役社長

著者近影 裵 英洙

1998年医師免許取得後、金沢大学第一外科(現:心肺総合外科)に入局、金沢大学をはじめ北陸3県の病院にて外科医として勤務。その後、金沢大学大学院に入学し外科病理学を専攻。病理専門医を取得し、大阪の市中病院にて臨床病理医として勤務。勤務医時代に病院におけるマネジメントの必要性を痛感し、10年ほどの勤務医経験を経て、慶應義塾大学院経営管理研究科(慶應ビジネススクール)にてMBA(経営学修士)を取得。2009年に医療経営コンサルティング会社を立ち上げ、現在はハイズ株式会社代表として、各地の病院経営の経営アドバイザー、ヘルスケアビジネスのコンサルティングを行っている。

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