「世界一マズい飴」にだって、合う飲み物はあるはず
フィンランドに「サルミアッキ(Salmiakki)」という飴があります。
生薬として知られる甘草リコリスをベースに、せきどめに使われる塩化アンモニウム(SAL AMMONIAC)を配合した闇のキャンディーです。
味は……なんていうのかな。ゴムタイヤを塩水で煮詰めて、よせばいいのにそこに甘みをぶち込んだ味といえばいいのか。本当にご無体な言い方をするとマズいです。「世界一マズい飴」などと呼ぶ人もいます。
筆者も食べたことがありまして、100点満点でいうとマイナス6万5536点といったところ。どう取りつくろおうとしても「マズい」という感想しか出てこないシロモノでした。
この暗黒飴、一応、フィンランド名物的な扱いになっている。現地の人たちも「コンナマズイモノダレモクワヘンヤロwwwww」と考えているかと思いきや、普通に食べているのだそう。
かつてフィンランドを取材した盛田さんによれば「フィンランドでは大人気。スーパーでは1つのレーンまるごとサルミアッキ、品ぞろえも価格帯もバリエーション豊富、大人も子どもも、おねーさんも、みんな大好きサルミアッキという状態だ」(該当記事)。
フィンランドの人たちは……その……非常に言いにくいのですが、どうかしているのでは……いやこの書き方も失礼なのですが……。
僕はフィンランドが嫌いではありません。シベリウスの交響曲も好きですし、イッタラのランプも部屋にありますし、ムーミンの本も何度も読みましたし、ノキアの端末にもあこがれていました。全体的に薄っぺらいアピールで申し訳ないですが、とにかく私怨など一切ない。しかし、サルミアッキだけは……。
こんなにフィンランドが好きなのにサルミアッキが好きになれないわけがない、俺のフィンランドがこんなにまずいわけがない……。ここで筆者、ハッとひらめきました。スイーツにはおいしい飲み物がつきものです。だから、サルミアッキも飲み物で化けるのではないかと。
さっそく用意したのは、緑茶、コーヒー、レモンティー、オレンジジュース、コーラ、炭酸水、ビタミン系炭酸飲料、エナジードリンクです。思いつくままに揃えたので、多少の偏りがある点はご容赦いただければと。
ちなみにアルコール飲料が入っていないのは、筆者が酒に弱いので、正確な比較ができなくなるおそれがあるからです。アスキーのグルメ担当・ナベコさんあたりが挑戦してくれればと思いますが、その気は微塵もなさそうでした。
ルールは簡単です。両方を口に入れて、サルミアッキとのマリアージュがもっともすぐれているのはどれかを決めるだけです。
決まったところでどうなんだと言われると困ってしまいますが、少なくとも、サルミアッキなる暗黒物質に対するアプローチの糸口がつかめるだけでも、人類史上における大きな発見になるのではないでしょうか。
緑茶――わびさびなど通用しなかった
まずは緑茶です。日本人にとってはスタンダードでなじみ深い飲料ですし、ここ最近ではアメリカのシリコンバレーなどでも人気だといいます。お茶菓子、お茶請けという言葉もあるくらいですから、お茶はお菓子に合うわけです(強引な理論)。和の力で北欧の暗黒を打ち倒せるでしょうか。
はっきり言ってテンションは上がらないですが、サルミアッキを食べます。やっぱりマズいです。どうしようもない。しばらくなめたり噛んだりすると「ウエーッ!」となってきますので、ここで口の中に飲料を入れます。うまくいけば地獄を回避できますが、うまくいかなければ地獄です。
残念ながらダメでした。こう書くと緑茶が悪いのかと思われそうですが、そうではなく、サルミアッキの味が強すぎるのです。緑茶の味わいや香りが一瞬で無に帰します。すべてはサルミアッキの暗黒に飲み込まれます。こればかりはどうしようもありません。
幸先が悪いですが、こんな調子でどんどん続けていきます。飲料を変えて、あと7回繰り返します。どうにも天国が見えてきそうにないのが悲しいですが、そういう企画です。筆者としてはもうやる気がゼロに近いものの、やらないと終わらないもので。
コーヒー――ある意味、一発で目が覚める
続いてはコーヒーです。ケーキ、ドーナツ、チョコレートなど、スイーツに合わせる定番の飲み物です。だから、サルミアッキにも、きっと……。
しかもフィンランドの人は、平均で一人当たり、一日に4~5杯のコーヒーを毎日飲むというデータもあるそうです。すなわちコーヒー大国なのです。これは期待できる。ブラックコーヒーやカフェオレもあるのですが、今回は比較的手に入りやすい缶コーヒーの微糖を選びました。
しかし、大爆死もいいところ。とにかくダメでした。コーヒーの苦味と、缶コーヒー特有の甘さがサルミアッキと混じり合い、口の中で大混乱が起きます。味覚を伝える神経も完全にパニック状態。思わず吐き出しそうになりました。なんとか気合で飲み込みましたが、本当に救われない。
この調子では、おそらくカフェオレ系もいけないでしょう。ブラックコーヒーは苦味でサルミアッキの味を消してくれるかもしれませんが、甘みが染み出た瞬間に口の中が大パニックになることは必至。混ぜるな危険とはまさにこのことです。ダメ、ゼッタイ。
レモンティー――さわやかすぎるのかもしれない
続いては紅茶です。コーヒーと同じく飲み方が人によって分かれるところですが、筆者の独断で、サルミアッキの苦しみからもっとも解放してくれそうなレモンティーを選びました。レモンティーでダメならストレートでもダメでしょう。ミルクティーは、微糖の缶コーヒーが完全にアウトだったので敬遠したほうがよいかと思われます。
しかし、やっぱりダメでした。サルミアッキ特有の「不思議なしょっぱさ」「食べものとは思えないゴム感」「でもむちゃくちゃ甘い」という理不尽なトライアタックを多少和らげてくれるものの、すぐに圧倒されてしまう。
緑茶と同じで、始めこそ茶葉の香りでごまかせるかなと思わせて、すぐに「無理だ」となるわけです。これはレモンティーを責められない。責めるならサルミアッキのほうです。
オレンジジュース――フレッシュな果実感がよい感じ
果物系ならなんとかなると考え、数あるジュースの中で、一番さわやかそうなオレンジジュースを選びました。もうこの時点でサルミアッキを3個もたいらげているわけで、本当につらくなっています。しかしながら筆者が自分で選んだ道なので、誰も同情してはくれません。自業自得もいいところです。
しかし、オレンジジュースが意外に健闘してくれました。どうやら柑橘系の香りと強い甘さが、エグみを打ち消してくれるようです。サルミアッキを噛むと、ゴムの中から煮詰めた蜜がとろけるような拷問タイムが始まるのですが、それもオレンジの味でかなり中和してくれる。だいぶマシになるわけです。
そもそもマリアージュを楽しみたいという建前があったのに、「マシになる」とはどういうことかといった感じもありますが、それはそれです。オレンジジュース、なかなか優秀です。
さて、次ページからは(よせばいいのに)炭酸飲料に移っていきます。ところが、筆者も心から驚いた、意外な結論が待っていました。
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