第12回
第二回全国小中学生プログラミング大会開催発表会で『ゲームセンターあらし』のすがやみつる氏が語ったこと
プログラミングをやり過ぎて、パソコンを粗大ゴミに捨てられた
3月10日、第二回全国小中学生プログラミング大会開催発表会が東京大学 伊藤国際学術研究センターで開かれた。同大会は、夏休み期間にプログラミングすることをねらった、日本でははじめての小中学生対象のコンテスト。今回の募集テーマは「こんなのあったらいいな」。応募期間は2017年8月1日〜9月15日に決定(詳しくは本記事末を参照)。発表会では、そういった開催内容の紹介や、後援予定の文部科学省、総務省、経済産業省などの来賓の挨拶のあと、ゲストにすがやみつる氏が登場した。
すがやみつる氏といえば漫画家、小説家、京都精華大学マンガ学部キャラクターデザインコース教授で、人気漫画『ゲームセンターあらし』の著者として知られている。そのキャラクターが登場する『こんにちはマイコン』(すがやみつる著・小学館・1982年~全4巻)は、80年代の多くの子どもたちがプログラミングを学ぶきっかけとなった一冊だ。すがや氏が自身のプログラミング体験やこれからのプログラミング教育について語った内容をお届けする。
仮面ライダーを描きながら、眠気覚ましにアマチュア無線で誰かと話していた
私は小学生のときから漫画を描きはじめ、高校卒業と同時に漫画家のアシスタントになり、その後編集プロダクションで働きました。1971年に石森章太郎先生の仮面ライダーが始まって、石森先生が商品化の仕事に手が回らないから、若手が必要だということで、石森プロに呼ばれてグッズの絵を描くことになりました。それから講談社で仮面ライダーの漫画を描くことになり、これがデビュー作になりました。1971年の12月頃、21歳でした。それからしばらく石森プロで石森章太郎作品のコミカライズの仕事をしていて、仮面ライダーシリーズやゴレンジャー、キカイダーなどを漫画化していました。
独立した後は主にホビー漫画を描いていました。小学生の頃から漫画を書きながらラジオ作りに明け暮れ、高校生のときにアマチュア無線資格もとったんです。仮面ライダーの漫画を書いているときも、眠気覚ましにアマチュア無線で誰かと喋っている状態でした。手でペンを持って仮面ライダーを描きながら、マイクのついたヘッドホンをかぶって、足でスイッチを押しながら24時間誰かと話していました。そういう関係で秋葉原にしょっちゅう出入りしていました。そのころ、1975〜6年くらいから、マイクロコンピューターが出始めて、そのショウルームもできて、そこへ行ったのがコンピューターとの出会いです。その後自分でもパソコンを買ってきて、自分でセミキットを組み立てたりもしました。
このころちょうど『ゲームセンターあらし』の漫画が始まっていました。『ゲームセンターあらし』というのはテレビゲームの漫画なんですが、これは小学館のコロコロコミックの編集部から、こんどゲームセンターの漫画をやるから描かないかと言われたのがきっかけです。というのも、いつも編集部にトランジスターやLSIを買ったまま持って行っていて、それを見られていたんですね。「世の中広しといえども回路図が読める漫画家というのは私だけです」なんてことも話していました。このことがきっかけになって、テレビゲームの漫画ということで指名していただきました。
漫画を描くより、プログラムを書く方がおもしろくてしょうがなかった
その延長で『こんにちはマイコン』という本を描くんですが、1冊目のときは完全なる持ち込み企画です。自分でパソコンにハマってしまって、ゲームセンターの漫画を描きながら、深夜自分の家に帰ってきたら朝までプログラミングして、目が疲労で見えなくなることもありました。そういう状態で体重が5キロも減ってしまったり。ちょうど長女が生まれるときで、こんなときに倒れられては困るということで、パソコンを粗大ゴミに出されてしまいました。探したんですが、どうしても見つからなくて。それで諦めていたんですが、長女が生まれて出生届を市役所に出しに行ったら、現金8万円をお産見舞いでもらえたんです。そのお金を見たとたんに目がキラッと光りまして、神保町に飛んでいって、安いカメラ屋さんでポケットコンピューターを買いました。小さいポケットコンピューターでプログラミングしたら家族にばれないだろうと(笑)。それくらい中毒になっていました。漫画描くよりプログラム書く方がおもしろくて。
実は当時、漫画のコンピューターの入門書が多く出ていました。漫画というのは人物とかセリフとかを入れて構成するネームというのが大事なんですが、私の場合、自分でプログラミングをしていたので自分で全部描けたのが、『こんにちはマイコン』が皆さんに読まれた理由だと思います。そうじゃないと、構成する人と絵を描く人がばらばらになって、わかりやすさって変わってくると思うんです。それともうひとつは、『こんにちはマイコン』の主人公は『ゲームセンターあらし』の主人公なのですが、このキャラクターはゲームだけは天才的だけどほかのことはなにもできないという少年で、そういう子でもプログラミングはできるんだよというメッセージが込められています。
現在もプログラミングに熱中。「こんにちは統計学」というサイトを運営中
大学院ではPythonを勉強していたのですが、2年目に「こんにちは統計学」という統計計算をやってくれるサイトをつくりました(http://www.m-sugaya.jp/python/)。というのも、インターネットの通信教育では統計のソフトを自分で手配しなくてはならず、統計のソフトは非常に高いので困っていたんです。ということで、そういう人の手助けになればいいなと思ってつくりました。毎日2〜30人が使ってくれていて、毎年卒論のシーズンになると急に訪問者が増えます(笑)。実はまだ誤差がでているところがあるので、どなたかわかるひとに教えていただければと思っています(笑)。
プログラミングをするのはすごく楽しくて、漫画を描いたり小説を書いたりするよりずっと楽しいです。プログラミングの一番いいのは、つくった後にすぐによかったのか悪かったのか、結果が出るところだと思います。気が短い性格に向いていると思いますね。ということで、今もプログラムを書き続けています。
『こんにちはマイコン』の著者に聞くプログラミングの魅力と意義
後半は、全国小中学生プログラミング大会実行委員の株式会社角川アスキー総合研究所取締役遠藤諭氏と株式会社UEI代表取締役社長兼CEO清水亮氏がインタビュアーとなって、すがや氏とトークを行った。
遠藤 ありがとうございました。周りにも「こんにちはマイコン」ではじめてパソコンに触れたという方がたくさんいます。
すがや そういう方がTwitterでも報告してくれるのですが、必ず「リア充ですか?」と聞いています。僕の本で人生狂わされてないか心配なので(笑)。みなさん充実していると言ってくれて嬉しいです。
清水 すがや先生の本ってすごく楽しそうなんですよね。プログラミングをすることがいかに楽しいのかというのを伝えるのが最優先で。子どもたちにどのように楽しさを伝えるのかっていうのが今の僕の悩みです。
すがや 「こんにちはマイコン」は新しいタイプの学習漫画として高い評価をいただいたんですが、後で反省してみると、確かに学習漫画なんですがある意味プロパガンダなんですよね(笑)。僕自身パソコンが楽しくて楽しくて、こんな楽しいことないぞって思いながら書いたから、その楽しさが伝わったのかなって思います。
遠藤 80年代とかってドラマとかで事件があると、パソコンを持っている人があいつ怪しいぞって犯人に疑われたり、新聞とかでも社会的に地位のある人が「僕パソコンダメなんですよ」っていうのがかっこ良いみたいなムードがあったり、常に逆風が吹いていたんですよね。そういう時には、やっぱりその楽しさを伝えるためには、北風的にやれやれっていうより、太陽型で自分でやって楽しいな〜って伝えることがとても大事ですよね。それを、当時からやってらっしゃるんだなって思います。すがやさんの場合、ご自身の熱量が高いですよね。
すがや 突出することを押さえられているような側面が日本にあるんじゃないかなって思います。逆にアメリカだと、ビル・ゲイツとか、子ども時代から変わったことをしていて、日本だったら絶対いじめられるのに、変わったことをすることが褒められていたと思うんです。プログラミングでも同じで、おそらくこういうことをする子どもたちって変わった子だと思うんです。そのことがすごいことだと認められるようになるといいですよね。プログラミングだけでなく、変わった子を押さえつける、こういう考え方を社会全体で変えていかないといけないなって思います。
遠藤 人とは違うことに頑張る子に、ポジティブな評価を与えてあげるというのが大事ということですね。
すがや 今はオタクっていうのがポジティブな意味でも捉えられていますが、昔はオタクってすごくネガティブな意味だったと思うんです。いまはあまりにもオタクがポジティブな意味になりすぎて、みんながオタクになろうとしている不思議な状況ではあるんですが。オタク的に何かに突出したりハマったりする、そういう性質を周りが認めてあげられる世の中にならないと、プログラミング教育も難しいのかなと思います。というのは、向き不向きみたいなものは絶対ありますから。
10年前の高校生・大学生のほうがパソコンを使えたように思うんです
清水 東大でAO入試が始まって、プログラミングでの成果も認められるようになっていくようです。プログラミングに没頭することが、親や先生から肯定される時代がやってくるということですね。僕は子どものころからプログラミングが楽しくて、プログラミング以外のことをする時間がずっともったいないと思っていました。親からも受験のときはプログラミングをやめなさいと言われていて、受験生のときもこっそり隠れてプログラムを書いたりしていました。先生は中卒で漫画の世界で勝負していこうという覚悟を決められていたんですよね。
すがや 当時は大学の進学率も低く、中卒・高卒で働く人も多くて、若くして成り上がる世界と言えば芸能界・スポーツ界・漫画界と言われていました。漫画家も10代でデビューするのが普通だったんです。15で新人、20で中堅、25過ぎればただの人という言葉もありました(笑)。編集者には、30歳までにサラリーマンの生涯賃金は稼いどけと言われました。というのはそのころは漫画雑誌は子ども向けしかなくて、子どもの心が分かるのは20代のうちだと言われていたんですね。30歳になると仕事がなくなるから、その前にセカンドビジネスを始めておけ、将来のことを考えておけと編集者に懇々と言われました。
清水 ある種勝負師の世界でずっとやっておられたということですね。昔は、プログラミングを頑張ることがポジティブな結果につながるという確信はありませんでした。ただ好きなことをやっているというふうにしかとられていませんでした。学校では変なやつ扱いでしたし。その点、今回のコンテストでは学校組織のトップである文科省をはじめとして、たくさんの人が認めてくれます。褒められる機会があることはとても大事だと思います。昔は環境はあったけど褒めてくれる人が誰もいないという、アンバランスな状況だったのですが、今回は褒めてくれる人はいるから、環境を整備すればもっともっとプログラミングが盛んになると思います。
遠藤 身の回りはコンピューターだらけなのに、どういう仕組みで動いているのかがわかっていないというのは、危機的な状況だと思いますね。
すがや 本当は『こんにちはマイコン』の3冊目でハードウェアをやろうとしていたんですよ。いくらなんでもマニアックすぎるということで実現できませんでしたが。
清水 おお。僕実は、最初から現代版『こんにちはマイコン』をすがや先生に描いてほしかったんですよね。ちょっと大御所過ぎて。
すがや それはないですが。勤務しているのが人使いの荒い大学でして(笑)。週12コマもやらなきゃいけないので。
遠藤 でも、昔よく鉄腕アトムを見てロボットを作り始めましたとか、憧れるものがあったように思うんです。今はそういうものが少なくなっていますよね。コンテンツの力というのは大きいなと思います。周りからやれと言うのではなく、本人を盛り上げる要素として。
すがや 最近すごく実感しているのは、10年前の高校生・大学生のほうがパソコをが使えたように思うんです。今はみんなスマホを使っているので。うちの大学では生徒にパソコンを買わせて使わせているのですが、みんなパソコンがお絵描きの道具になっている。もったいないからもっと使いこなしましょうと教えています。いつも話しているのは、スマホは受信機だということです。君たちはクリエイターなのだから、パソコンを使ってどんどん世界に発信していかないといけない。それでもまだ絵を描く道具に留まっているなと思います。それでも身近にパソコンがあったり、Global Game Jamなどのイベントに連れて行ったり、周りに環境があることが大事だと思っています。
清水 さすがですね。先生は最新の情報を持ってらっしゃるなと思ったのですが、Global Game Jamというのは全世界で1,2万人の開発者が同時に48時間ぶっ通しでゲームを作るというイベントです。しかもそのときその会場に集まった人をほぼランダムでチームにするんですね。テーマが非常に難しくて、ある年はある音だったり、ウロボロスのマークだったり。これが非常に体育会系で、時間がないって慌てたりもするんですが、終わったあとにたいしたものができているのではないのに感動して涙を流したりするんですよ。外から見ているだけでも感動すると思うんです。プログラミングは感動的なものということを知ってほしいですよね。
すがや 今年は端から見ているだけでしたが、非常に面白くて、若い人にぜひやってもらいたいなと思いますね。
清水 プログラミングの楽しさを、このコンテストに参加してくれている人はきっと知っていると思うのですが、周りの人にもどんどん広めていきたいですね。
第二回全国小中学生プログラミング大会概要
昨年第一回を開催した「全国小中学生プログラミング大会」を、今年も開催。はじめて小中学生にフォーカスした全国規模のプログラミングコンテストで、昨年は130点の応募が集まった。昨年のようすはこちらから。
主催:全国小中学生プログラミング大会実行委員会 (株式会社角川アスキー総合研究所、株式会社UEI、NPO法人CANVAS)
共催:株式会社朝日新聞社
後援:文部科学省(予定)、総務省(予定)、経済産業省(予定)
募集テーマ:「こんなのあったらいいな」自分やみんなのためにあったらいいものを自由に考えよう!
募集内容: PC、スマートフォン、タブレットや、「Raspberry Pi」などのマイコンボードで動作するオリジナルのプログラム
※他のコンテスト等では未発表のオリジナル作品に限るが、自身の作品の改良や、夏休みの課題の改良版等も応募可能
審査基準:「発想力」、「表現力」、「技術力」
応募資格:日本国在住の、6歳以上15歳以下(2017年4月1日時点)の小学生・中学生 グループで応募する場合は3人以下。応募は1人/1グループにつき1作品
応募費:無料(応募までにかかる費用は自己負担)
応募期間:2017年8月1日〜9月15日
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