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「個人向けにカスタマイズ」は今後のオーディオのひとつ方向性

この効果は絶大、期待の新技術EXOFIELDを体験した

2017年04月07日 13時00分更新

合計16回のインパルス応答を平均化して使用

 実際の計測に入る。まずは聴診器型のマイクを耳に付けて、左右のスピーカーからレベル調整用の信号を鳴らす。そのあとにブツ・ブツ……という感じの音を鳴らしてスピーカー再生時のインパルス応答を測る。これが1回目の計測だ。次にマイクを付けたまま、ヘッドフォンを装着して、今度はヘッドフォンで鳴らしたブツ・ブツ……という音のインパルス応答を測る。

 EXOFIELDを使うための準備は実質これだけで、時間にして数分といったところ。あとは専用のソフトを通して、音楽を再生するだけだ。現在はPCを使っているが、実際の製品として出す際にはスマホアプリにすることを検討しているという。

測定風景

 ちなみにJVCケンウッドが、頭外定位の補正に実測値を使うことを決め、本格的にEXOFIELDの技術を開発し始めたのは2012年ごろだという。

 当初は使用していたのは、カナル型ヘッドフォンの外側がマイクになっているタイプのものだった。しかし、あまりうまくいかなかった。そこでマイクを小型にし、耳穴をふさがないようにして、耳内で音がどう反射するかといった情報も測るようにした。正確な測定が出来るようになることによって、 これまで開放型のヘッドフォンでは比較的良好な効果が得られたが、密閉型で はうまくいかないといった点についても改善された。

 EXOFIELDの信号処理では、スピーカー再生時の計測結果を反映したのち、ヘッドフォンをした状態での計測結果を取り除くようにしている。

確かにすごい効果、ヘッドフォンをしているのに広い空間を感じる

 計測が済めば、試聴に入れる。

 デモ用に用意されていた曲はインスツルメンタル(フュージョン)と女性ボーカルの2つで、まず最初にスピーカー再生を聴き、次にヘッドフォンに替えて、EXOFIELDのオフとオンでどのような効果の違いが出るかを確認した。ともに立体的な奥行き感を感じるレコーディングで、特にフュージョンのほうを音が整った試聴室で聴くと深く立体的な音の広がりが印象的だった。

 気になる効果についてだが、ここは自信をもって「ある」と書ける。今までの頭外定位技術の補正では前方に定位するといっても、真横にあったのが少し前に出る程度の差で、よく聴けば「確かに」という感じのものが多かったが、その差に気付かない人はおそらくいないといっていいほど、圧倒的な差があると思う。

 これは大げさな話ではない。イメージを分かりやすくするため、効果をオンにした瞬間「ヘッドフォンジャックが外れているのか」と思うほどだと書けば伝わるだろうか? ヘッドフォンをしているので、耳に多少感触が残るのだが、その感触があるのに、音はヘッドフォンの外側でなっているような不思議な感覚が味わえるのだ。

 目を閉じても、目の前の部屋の広さとか音の飛んでくる方向などが、しっかりと感じられるのだ。まるでヘッドフォンなどしていないかのように、20畳程度ある空間の広さがそのまま再現された。

 ただ、再生音の優劣を付けるとスピーカー再生が1番で、EXOFIELDオンの状態は2番と書かざるを得ない。理由は、空間が広がった分、音の密度感だったり、低域の厚み、情報の緻密さといったものがだいぶ薄口になったように感じるためだ。

 表現が難しいが、自分とスピーカーとの距離は一定に保ったままで、スピーカーの口径がぐっと小さくなったような、もしくはスピーカーとの距離感をより意識するようなスケール感の喪失があった。

 ヘッドフォンから鳴っている音の濃さも、EXOFIELDオフに比べてだいぶ薄まる印象があった。開放的に空間を楽しめる一方で、ヘッドフォン的な情報の凝縮感や細かなニュアンスが空間の中に広がって少しぼんやりする印象もあった。

 と言いつつも、EXOFIELDをオンにする意味は大きい。今まで疑問に思っていなかったヘッドフォンの再生音が、音場の再現という意味で、実際に空間を伝わってくる音とこんなにも違っていたのか、どれだけ不自然だったのかがわかる。

 これまでのヘッドフォン向け音場補正技術でここまで如実な効果を感じたものはない。そして、EXOFIELDによる再生は、改善の可能性を秘めつつも、ヘッドフォン再生のあるべき姿を示し、進化の正しい道筋を進んでいるのだと実感できた。

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