大企業が社内ベンチャーなどを通じてスタートアップ的手法のモノづくりを始めたり、研究成果の応用をする例がソニーやパナソニックをはじめ、ここ1〜2年で増えてきた。クラウドファンディングサイト「Makuake」でこのほどはじまったマイナス2度で味わう限定醸造の「雪どけ酒」のプロジェクトには、新たにシャープの名前が登場した。
社内プロジェクト「TEKION LAB」(テキオンラボ)の名前で、これまで世に出ていなかった(そしてカテゴリーとしても新しい)「新蓄冷材」のコラボという形で協力する。この蓄冷材、なかなか面白いのだ。
液晶の素材開発の過程でみつけた、「特定の温度帯をキープする素材」
マイナス2度で味わう純米吟醸酒「冬単衣」(ふゆひとえ/石井酒造)。この日本酒を、長時間マイナス2度に保ち続けるのが、TEKION LABの蓄冷材技術だ。
パッと見は、よくある再利用可能な冷却枕、風邪のときに頭に巻いたり首を冷やす冷却枕と何が違うのだろう?
TEKION LABの西橋プロジェクトリーダーによれば、使い方は、あらかじめ冷凍庫で冷やしておき、日本酒を飲むときに取り出して、専用の保冷バッグで瓶の周囲に巻く形で使用する。冷凍庫では-18度前後だった蓄冷材は、当然、室温で温められ徐々に温度が上がる。
それがマイナス2度になったところでピタリと温度上昇をやめ、数時間、その温度をキープし続けるという。公式発表によれば、室温23度の環境では約2時間、マイナス2度をキープする。
一般的な氷枕は零下の固体の状態から液体へとだんだんと温まっていくものだが、今回のTEKION LABの蓄冷材は、"温もることも冷やしすぎることもなく、マイナス2度の状態を長時間キープし続ける"ことがポイントなのだと語る。
この技術は、通常の生活空間では絶対に凍ってはならない(凝固してはならない)という液晶の素材開発の過程で磨き上げた「融点を自在に設定する技術」を応用しているそうだ。
素材としてそれほど高価なものを使っているわけではないため、ある程度の数量が量産できるのであれば、現実的に十分リーズナブルな価格で提供していくこともできるらしい。
またキープする温度はマイナス24度〜+28度の間で、自在にキープする温度を設計することができるそうで、たとえば「長時間5度を維持する蓄冷材」というものもつくれる(可変ではないので、5度専用の蓄冷材になる)。
今回は日本酒とのコラボだが、たとえば飲食店舗向けの商品として「白ワインを適温に冷やし続けるワインクーラー」というような展開も十分可能なわけだ。
シャープもスタートアップ?
TEKION LABについてはシャープが2月3日に発表した2016年度第3四半期決算で、"新規事業領域の加速"という名目で、反転攻勢のための競争力強化の1つとして言及されている。
さまざまな周辺の話を総合すると、たとえばソニーのSAP(Seed Acceleration Program)の仕組みような全社的な支援体制が現時点で作られているわけではないようだが、とはいえ今後、スタートアップ的手法やスタートアップとの協業体制については、これまでになく前向きに挑む意思はある、ということだ。
いまの日本の大手電機メーカーの苦境は、安全率やクレーム対策を追求していった結果、「小回り良くモノがつくれない」「原価に占める固定費が高いためにユニークな技術をいかした小ロットの商品が外に出せない」という弊害が現れた結果だというのはよく言われる。
シャープが戴正呉社長体制下で、守りから攻めに転じられるのかには、こういった取り組みがどれくらい増えてくるかにも現れてくるように思われる。
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